才能
「スライム発見!」
スライム、所謂ザコと思われがちな魔獣扱いの多細胞生命集合体。
もちろん顔なんてついていないが、ゲーム同様に物理が効きにくいどころか、核以外には全く効かない厄介な相手である。
魔晶石を核にしてるので、そこだけを攻撃できれば物理でも倒せる。
しかし、核=魔晶石なので、砕けたりしたらその価値は一般的に言って0、手間ばかりかかると冒険者に嫌われる。
倒し難いのに稼ぎが低ければ当然の事。
魔法剣でももっていれば細胞を切り離せたりするので話は違ってくるが、そんな装備を持つ冒険者は上位の依頼を万組合から受けている。
スライムは栄養が足りなければ、移動している時でも雑食性で死体からなにから『全てを食い尽くす』ので完全に魔獣の中でも害虫扱いである。
「これぐらいの敵は楽なんだけどなー」
だがノートにとってスライムはいい稼ぎ相手だった。
ノートは呟きながら魔力の塊を動力魔法で操作して、そのまま核となってる魔晶石を引き抜く。
これだけでスライムは死滅するからだ。
追加報酬となるので死骸も回収する、粘着剤やコーティング剤、建築の際の補助剤として引き取られる。
スライムゼリーや料理には使われない。それを知ったノートが安心したのは言うまでもないだろう。
時折飲み込んで排泄漏れの貨幣やアイテムが出てくるが滅多にない。
今回はハズレだったようだ。
「魔につならるモノ達を倒すとファンタジーって気がするよ」
ちょっとだけ興奮気味なのは魔物を倒しているからだろう。
「昔と違ってちょっとは肉体も強くなってきてるみたいだし、頑張ればこの世界で駄目駄目でも生きては行けるさ」
なんとも情けない感想だが、生きていく事が出来さえすればいいとノートは気にしていない。
今の町では薬草採取が得意なノートは二つ名を付けられるほどには重宝されているし必要とされている。
ノートの腕前を知って、誰も馬鹿にしたりしなくなったのも大きいが、そうなったのは万組合の面々が面倒見が良いと云うのも一つの要因だろう。
当初は万組合でも『大丈夫かこいつは?』と思われていたが、日々採取して来る薬草の多さや、弱い敵ながらも丁寧な仕事で始末された皮や魔石などの材料を見て見直されていったのだ。
当然多少の荒くれ者なども冒険者にはいるが、冒険者にとって必要な薬草などを採ってきてくれる人間を貶す愚かな人物は組合支店長が叩き出すので問題もなかった。
「よし、町にもどろう」
ノートしかインベントリを使えないので魔晶石を袋に入れ込むようにしながら発動しておく。
「こんなとこだけテンプレなんだから……」
肉体も強かったりしたらなと愚痴を吐きつつも、ノートは町へと歩き出した。
「お疲れさん」
「ただいまー、おっちゃんもご苦労様」
守衛に挨拶をしながら町へと入る。今ではすっかり顔なじみだった。
おっちゃん、ぼうずと呼び合う間柄だ。
「今日も問題は無かったか?」
「森の奥じゃないしね、平和平和、あーでもスライムが3匹出てた」
「まあスライムぐらいじゃあな」
「そうそう、流石にスライムじゃ僕も逃げないよ」
「でも油断は駄目だぞ」
「ありがとう」
駆け出しの冒険者として5ヶ月程町で滞在していれば顔馴染みだらけである。
しかも10歳の子供が一生懸命にやっているのだから、誰もが保護者のようなもので気をつけてくれる。
親の愛情が無かったのに比べて、その扱いの格差にノートは最初戸惑った程だ。
「ただいまー」
とてもではないが冒険者の集まる組合での挨拶とは思えないが、既に我が家同然で全員が顔見知り。
ノートの帰りが遅くなったりすると騒ぎ出すような連中である。
「「「おかえりー」」」
初心者用のギルドの寮を使わせてもらっている関係もあってノートにしてみればこの人達こそ家族だった。
「ミラ姉さん、今日の分の薬草、それとこれ核3個」
「あら、スライム?」
「うん、3匹だけ帰り道で出たよ」
「まあスライムだからね逃げれなくもないけどノートの魔法で倒せる相手か」
「近寄らなければ攻撃されないから、コボルトとかならちゃんと逃げるよ」
「そうそう、安全第一よ」
もの凄く心配性なミラだが、他の冒険者ではこんな対応をしない。
これぞ姉といった感じでちやほやしてしまう。
そんな風景を見ていいなあとほっこりしてる男共もある意味微笑ましい。
「ま、ここいらの危なそうな魔獣や魔物なんてこのタルカス様が倒してっからな! 坊主に危険はいかねーぜ」
「はっはっは何を抜かしているのかな? このマリウス様が魔法でなぎ払っているからに決まっている」
「いやいや、おれっちがスパっとやってるからに決まってる」
と、まあ馬鹿ばっかりでミラに憧れている連中がここぞとばかりにアピールする。
「皆のおかげよねー、助かるわー」
ミラが一言口にしてくれるだけで満足な連中だ。
抜け駆け禁止紳士同盟なる見た目とそぐわない協定まであるのだから可笑しい。
清算を終えるとノートは二階に荷物を置いたら裏へと回る。
「おうノート今日は訓練か」
「うん一応は剣とかも使えないと怖いからね」
「よし、型をみてやろう」
「ありがとう兄ちゃん」
裏には訓練場があって、そこで冒険者は自主訓練などを行ったり、万組合主宰の講習会が開かれたりする。
此処に来るとその場で訓練している上級の冒険者などがこうしてノートの練習を見てくれる。
「うむ、普通の状態でも振りで体がふらつく事も無くなってるし成長してるぞ」
「そうかな」
力瘤を確認するがそんなに成長してるようには見えないのだが変わっただろうかと首を捻る。
「5ヶ月前に比べた雲泥の差だぞ」
「頑張った甲斐があるよ」
まあ褒められて嬉しくない人間はいないし、この剣士はB級であり一流といっていい冒険者である。
何かとノートを気に掛けてくれるので過去に嫌気がさしていた剣を習うのも楽しくなっていた。
誰に一番懐いているのかと言われればノートはこの剣士を上げるだろう。
「それにお前には魔法があるしな」
それも事実であるが……やはり基礎なんだよなとノートは思う。
今の自分がどちらも中途半端なのは理解しているだけに辛いものがあるのだ。
「まだまだだけどねー、あれは基本の体があって初めて役にたつんだ」
「それでも肉体を強くするなんて技術はすげーぜ、教えてもらった俺達も数分だけしか使えないがあれは凄いぞ」
剣士は本気でそう云っている。
実際に使ってみた肉体の強化魔法は筋肉や腱を強化し、普段の2倍度の威力が出せるのである。
まあ数分というだけあって燃費も悪いのが現状なのだが。
「やってみるとそんなに難しくなかったでしょ」
実はこの魔法こそが騎士になる為にノートが調べ、必死になって身に付けたロストマジック寸前の類だったものだ。
「まあな、魔力の枯渇さえ気をつけて使いどころを間違えなきゃ相当なもんになる」
「慣れたら長時間使っても大丈夫なんだけどね」
「あれだろ魔力が漏れないようにって奴だろ、流石に魔法士じゃなきゃ無理だって」
魔力を筋肉や腱に留めて循環し補助するという魔法で、意識しながらだと使えない。
慣らしてその精度を高めなくてはいけないのだが、ノートはちょっと違う方法で確立しているので同じ方法は教える事が不可能なのである。
「そこなんだよね、魔法士って元々の肉体のスペックが低いから底上げしないと意味が低いってので破棄された歴史がある魔法だから」
失伝するにはそれだけの理由もあったのだが、ノートはこの魔法の汎用性の高さに着目、そして自分の理解する『肉体の構造や知識』を元にして、世話になっているこの町の冒険者に伝授した。
一流の冒険者になればなるほど傷や死体を見る事が多く筋肉とは何か、腱とはなど肉体の構造についても理解が早く、魔法の理論について理解力があったので冒険者達は使えるようになっている。
「ノートが云ってた低い能力値にかけるより、高い能力値に同じだけ掛け率があがるとって奴だろ」
「そういうこと10の3倍より50の3倍の方が凄いって事なんだよ」
同じ町にいる魔法士にも教えたので使えるのだが、やはり元々が少ない数値が原因でとなって前衛の人間程に筋力値があがらなかった。
これがこの魔法が失伝寸前になった主な原因だろう。
魔法士が移動に使うなら、単体で風を纏ってといった高位魔術の方が早く動けたりするので、過去の魔法士はそれを良しとしたのだ。
「その域に達したらノートは直ぐに一流の騎士にだってなれそうだがな」
「うーん騎士はいいや」
ノートはもう騎士になる気など完全に失っている。
自分がへっぽこである為に勘当に近い扱いで放り出された『騎士の道』など進むなんて有り得ない。
自分で別の道を探す、その為になった冒険者である。
「少年よ大志は抱かんと駄目だぞ」
「冒険者でいいよ、目指せSクラス!」
笑顔で宣言すれば剣士も笑顔で答えた。
「そりゃでっかい夢だ」
「でしょ、それじゃ勉強いってくる」
横手にある井戸へと向かって水浴びをしてから魔法で体を乾かし、剣よりも大事にしてる勉強の為にと資料室へと向かうノートをみて剣士が呟く。
「いや、本気でSクラスってのもありえるよなノートなら」