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笑顔でいたい

評価を頂いて駄目な文章になってたので改変してみました。

誤字脱字などご指摘を頂けると幸いです。

「冒険者生活ってのも辛いもんだな……それでも実家にいるよりは遥かにいい暮らしができてるよな」


 少年の面影を残す青年の正式な名前はノートフィスティス・フェノア・マクルフェルト。

 一応は由緒正しい貴族の出身であった。普通に考えて冒険者をやるような血筋の人間ではない。

 そんな彼が名前と身分を隠して、この辺境の町に来て数ヶ月が立つ。

 知り合いは皆ノートと彼を呼ぶのだが、これは本人が本名を名乗った事がないのだから仕方がない。

 既に彼は己の名も身分も捨てていた。


「今日は楽しく薬草採取っと」


 ブチブチと草のようなものを次々と引き抜いては足元に放り投げる。

 すると草は不思議な事に消えるように袋に入っていく。


 狩猟も魔物退治もせずに薬草ばかりを摘んでいる事もそうだが、青年の細い体格だけを見れば、冒険者と言っても魔法士と思う人もいるだろう。だがしかし、外見だけの判断というのであれば、杖でなく腰に剣を差しているのだから剣士風である、腰に挿した剣も一級の業物程ではないが悪くない、なんとも判断をしかねる風采としか言いようが無かった。

 事実、彼は魔法士でも剣士でもなかった。ただ冒険者万事よろずごと斡旋組合(ギルド)の登録内容からすれば剣士である。

 彼の職業については後々語ろう。


 それなりの剣の腕はあるが筋力が少なく、更に体力も普通なので本格的な討伐依頼などは引き受けない、

 魔法も使えるのだが、現状で魔法士としてやって行くには技術不足で足手まといとなる。

 なんとも中途半端であり、それが理由なのか一人で薬草採取をしたりしながらその日暮らしといった具合。

 暇になれば冒険者は己を鍛える、何故ならそれが生死に繋がるからだ。

 しかしノートは暇を見つけても剣の鍛錬など一切せずに、図書館に丸一日篭ったりする為に『危機感は無いのか?』と周りが心配する程適当な青年だと思われている。




 貴族出身のノートがこんな生活をする訳も相まって数ヶ月も薬草ばかり採取をすれば採取速度は上がる。

 しかし、いくら採取を続けたと言っても人が見たら驚く程の採取速度。

 辺境の町ポルトホルトでの彼の渾名は『採取屋ノート』だ。

 誰もこの光景を見ていないのだが、この速度で採取すれば納得もできよう。

 最低ランクの冒険者に渾名が付くのは異例だが、この珍妙な渾名はノートという青年に相応しかった。


「おっとこの草はボーナスだな、これだけで明日も図書館にいけるか」


 ブチブチブチブチ……一心不乱に千切り続けているその様をみると草刈でもしている様にしか見えない。


「世界には雑草が無いというけれど、本当にすげーなぁ」


 一心不乱に採取しても選別はされていて、そこの草を全てという訳では無い。

 だが、逆に言えばそんな速度で次々に草を選別している事は異様である。

 この光景を見れば、博識な植物学者や薬師らでも驚愕するだろう。


 ノート自身はこの採取状況を普通だと考えている。

 ギルドの依頼分を採取した後は、自分の必要な物を集めているだけだった。

 自分で作る薬の分や、研究用にと採取しているだけなのだ。

 他人がいれば事情があるのでこんな異様な光景にならないのだが……ここには居なかった。


「ふう、いい汗かくなー。この前の農家の手伝いよりは意味があるな、うん」


 先日受けた畑の害虫駆除と草むしりの仕事は辛かったと思い返すノート。

 最低ランクの冒険者に回ってくる仕事なんてそんな程度。

 冒険者として登録をしておくには時折正式な依頼をこなす必要がある、薬草などの常時依頼に関してはカウントされない。

 辺境の町で討伐依頼を除けば森の奥の野草採取や畑の手伝い、獣の肉を狩って来るなどの狩猟依頼や後は護衛として町を離れる依頼しか存在しない。

 そうなればノートが引き受ける正規依頼など畑関連しかない、それ以外となれば採取ついでに野兎やなんかを仕留めて事後処理するしかないのだ。


「ギルドの分はたまったし、お茶になりそうなハーブとか研究用のをもう少し摘んだら休憩して飯にしよう」


 誰に話かけるでもない独り言に自ら頷いた。

 ノートは素早くハーブ類を風で摘み、水分を抜いては袋に放り込んでいる。

 そして同じ袋(・・・)の中に戸惑いも無く手を伸ばした。

 その手にはサンドイッチの入った包みと水筒が何故か握られていた。


「ウメー、おばちゃんのメシウメー」


 この単純で頭の足りなさそうなノートという青年は、幸せそうにサンドイッチを頬張っていた。

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