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叩かれたい欲求と快感

 私は今、叩かれている。黒縁眼鏡の若くて美しいお姉さんに、とても真剣な表情で、激しく叩かれている。しかも毎日だ。


 叩かれている時はどんな感じなのかとよく聞かれる。それを聞いてどうするのかと言いたい処だが、叩かれてる時の感情を言葉で表現するならまあ、『快感』だ。


 誰だ?今、私のことを変態だと言った奴は!


 仕方がないだろう。私は日々、人に叩かれることを生業としているのだから。しかも、叩かれることで人様の役に立っている。人の為に己を犠牲にする。格好いいと思わないか?


 なに?是非ともその仕事を紹介して欲しいだと?君、ただ若いお姉さんに叩かれてみたいだけじゃないのか?それに君にこの仕事は無理だ。構造上の問題でな。


 毎日私を叩いてくれているお姉さん。実は初めて叩かれたときはヘタクソだった。叩くのがな。あの頃は快感ではなく、ただ痛いだけだったさ。嫌だったよ。


 しかし日を追うごとに、彼女の叩くスキルは上がっていき、今では叩くことに関してはプロ級。彼女無しでは生きられない体になってしまったようだ。毎日彼女に叩かれるのが楽しみでしょうがない。


 しかしこないだ、私の仲間がボヤいていた。


「最近、あまり叩かれなくなったよ」


 毎日ヒマで仕方がないそうだ。失業というものだ。なんでも『でっかい奴』に、叩かれる仕事を奪われたそうだ。動きたくても、自分では動けないもんだから、失業した仲間の体にはホコリが溜まっていた。泣いていたよ。


 仲間から仕事を奪った『でっかい奴』は、毎日の叩かれる量が私達と比べ物にならないくらい多いらしい。私が失業するのも時間の問題だ。


 そんな私達も実は元々、この叩かれる仕事は他の奴等から奪った仕事だ。私達に仕事を奪われる前まで、そいつらは『叩かれる』のではなく『はじかれる』のを生業としていた。


 確かに私達は今、『はじかれてた奴等』より数段仕事が出来てるかもしれない。しかし結果としてそれは、私達を叩く者の『考える力』を退化させていた。


 しかし『はじかれてた奴等』は違った。はじく者の『考える力』を鍛えていた。


 人間は一度職を失っても、また次の職を見つけられるかもしれない。しかし私達は違う。はじめから私達は、人に叩かれる為だけに生まれてきた。叩かれなくなればホコリがたまっていき、命が尽きるのを待つのみだ。


 私達は電卓という名の道具であり、いままで叩かれ続けてきた。しかしいつかは私も、叩かれなくなった仲間やはじかれなくなった算盤達のように、ホコリまみれになる日が来るのだろう。悲しいことだ…。


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