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Ennui

作者: sakitaro

ゴロゴロドゴーン

 雷のような、またちょっと違う、例えるなら戦闘機のような音。

 しかし、今は雨がふり、さっきからピカッと光ってはゴロゴロ言っている。雷の音だと認知する方が正しいだろう。

 この場所は、隣町に米軍基地があったり、陸上自衛隊の屯所があったりする。故にここは航路になる。狭い東京都の間を飛ぶには高度を上げすぎてはいけない。自然と飛行機が飛ぶ高さは低くなり、飛行機の音がよく聞こえる。その音は爆音だ。テレビの音を掻き消すほどだ。騒音と言っても過言ではない。外に出て、その音の方を向けば機体の腹部がよく見える。ここまで高度を下げなければいけないのかというぐらいだ。

 雷は、音の大きさと長さを増してきていた。そして次第に近づいているのも分かった。雷と飛行機の音を区別することができるが、今回に限っては区別するのが難しいほど大きな雷だった。

女子高校生である光は、先程まで喫茶店にいた。本当はそんなつもりはなく、雨が降ることを知っていたから早く帰ろうと思っていた。ただ、学校が家から遠いせいか、駅に着いたころはお昼時を過ぎてしまっていた。家に帰ってご飯を食べようと思っていたが、野菜がないから十分に食べれないと思って駅前の最近気に入っている喫茶店に入った。食べているときはまだ雨は降っていなかった。食べ終わって、本を読んでいたときも降っていなかった。早く出なきゃと思う反面、あと少し、あともう少しとズルズル伸ばしていたらついに大きな雷が落ちてしまい、程なくして大雨になった。あーあ、逆に帰れなくなった。光は、諦め30%、また本が読めることへの嬉しさ35%、その他35%の気分で喫茶店に居座った。その他というのは、「そもそも帰りたくない。」「めんどくさい」である。光は、かなりのめんどくさがり屋だ。そのせいか、昨日は本を読むためにご飯を食べるのをやめた。別に本を読まなくても良かったのではと思ったが、ちょうどお茶したときに読んでいた本の内容がすごく気になっていたことと、そこまで空腹になっていなかったことの理由から一気にご飯を食べる気を失った。結局その日は、夕方から10時まで本を読みふけっていた。

 雨の強さはどんどん増していき、ちょっと弱まったら帰ろうという安易な考えは流れてしまった。おかげで昨日から読んでいた本は読み終わってしまった。そしてそれを機に帰ることにした。傘をさして帰路につく。

 先程までいた喫茶店ではずっとジャズが流れていた。程よいリズムとメロディーが、本を読むBGMに最適だった。さすが喫茶店。そして今はイヤホンから流れるロック。パンク程でもなく、ファンキーでもなく、ポップでもないけどちょっと近い、でもロック。光は、そのロックバンドが好きでよく聞いている。アップテンポなはずなのに浮かれすぎない、でも沈んでいるわけじゃない。そんな雰囲気が気に入っていた。ちょうど今降っている雨に聞くのがいい。アンニュイな表情を絶やさない、それでいて心地良い。傘の中から聞こえる雨音と上手い具合に調和していた。

「帰りたくない・・・・。」

 誰もいないことを確認せず、ただ小さくぼそっと呟いてみた。そのあと、大きくため息をついてみた。

 耳から聞こえる音楽は悪くないのに、今の自分とどうも合わない。合うとすれば、暗めの曲だ。光は、雨が降っている空をしばらく仰ぎ見ていた。見たところで何も変わらないが、少しでも時間を潰せるならと。光が帰りたくない理由は、本当はもっと色々ある。別に家庭環境が悪いわけじゃない。親と仲が悪いわけじゃない。しかし、あの家に入りたくないと思う日が最近増えてきたことは事実だった。


 現在、光は一人暮らし。よく漫画で高校生が一人暮らしをしているのを描かれているが、あれは必ずしも幻想ではなく、やむを得ない事情により実際にしている人はいる。その一人が光だ。父親は、単身赴任。母親は、病で倒れたきり入院中。しばらく、いやもう家に戻ってくることはできない体になってしまった。父親に至っては、いつ東京に戻ってくるのかは知れたことではない。会社の意向など知る由もない。

 そんなわけで、一軒家に女子高校生一人暮らしているという環境が出来上がった。最初は喜んでいた光だが、慣れが生じてくると、光の「めんどくさがり」が出てきて、週一で帰ってくる父親を困らせている。帰っても、一人。帰るときも一人。同じ帰りの方面の友達がいない光は、学校の最寄り駅で早々と友達と分かれ、とぼとぼ帰路につく。家に着いたところで話し相手など存在しない。一人で「ただいま」と言い、「いただきます。」「ごちそうさまでした。」と言い、テレビにツッコミ、笑い、泣き・・・・、誰も反応しない。たった一人だけ。虚しい。

 大きな箱にポツンと立たされた気分だった。しかし、今更父親がいる場所に行きたいとは思わなかった。自分で選んだ生活であり、何より友達と離れるのはもうしたくなかった。学校で友達と会える。それだけを楽しみとし、今まで一人暮らしを頑張ってきた。どんなにめんどくさくても、虚しくても・・・だ。


 光がなんとか一人暮らしを頑張っているときに、父親の携帯を見る機会があった。携帯を開くと、待ち受け画面に見知らぬ女性が映っていた。女優とかではなく、一般女性。もしかして・・・・と思ったが、正直信じたくなくて目を逸らした。光は、何も見なかったことにしてしばらく過ごしていた。

 数日後、帰ってきた父親は何かと電話に応じる機会が多くなった。会社の人だろうと最初は思っていた光だが、父親が電話の度に席を外し、長い間戻ってこないことに気づき会社の人ではないんじゃないかと疑い始めた。信じたくはないが、もしかしたら相手は携帯の待ち受け画面の女性かもと思いだしたら、それ以外考えられなくなってしまった。その女性だと仮定したら、色々と辻褄が合うことその日以降多かったからだ。

・長い間戻ってこない。

・席を外す

ここまではいいのだが、たまたま話し声が聞こえてきたとき

・会社の人相手にしては口調が違う

ことを感じた。

 指示をしている風でもない。単なる世間話だった。話し方が明らかに違っていた。

 そして決定的にさせた事象を光は見つけてしまった。事前に言っておくと、探っていたわけではなく、ふと目に入ったことだ。それは、父親の左手薬指に指輪がしてあったこと。

 父親なのだから普通に指輪をしていて当たり前。そう、当たり前なのだが、母親が倒れてから、いや、その前から父親は指輪をしなくなってしまった。理由は無くしたからと。そんな父親がなぜ今つけているのか不思議に思った。しかも、母親とデザインが全く違っていた。

 光は、薬指に指輪をはめたときの意味を再確認しようと頭の中をめぐらせた。何度もめぐらせ、何度も同じ結果にいき、何度も信じたくなかった。そしてきちんとネットで意味を調べると、やはり同じ結果でこれはもう信じるしかない状況になってしまった。

 光は、声を出さずに泣いた。入院中とはいえ、戻ってこれないとはいえ、あなたたちは離婚していないのに。何故だ。理解に苦しんだ。そりゃあ、父さんだって男だし・・・と納得させようと頑張ったが、やはり無理だった。思うたびに涙は流れた。寝る前や、風呂の中。常に一人の光は、学校ではいつも通りに過ごしたが家に戻ると思いがこみ上げてきてどうしようもない状態になった。

 現実を認めたくない気持ちと、父親のする行為に理解ができなくもない気持ち。そこには切れない性欲があるからだ。それでもやはり、許せない気持ちなどもあった。たくさんの気持ちが渦巻いて、父親に事実確認するのは時間がかかった。相手は、父親だ。自分より立場が上で、親だ。許せないとか許せるとかが言える立場じゃないと光は思っていた。何故なら、母親から怒られるときに歯向かうと「親になんて口を叩いてるの?」と言われたからだ。その精神は根強く残っている。

 父親に確認するとき、光は泣かないと思っていても、最後は涙ぐんでしまった。理由は光を育てるアドバイスから発展したものだと言われた。信じがたい。でも父親が言った理由に対して理解を示さなくもなかった。男だからね・・・というのは省かれた気がしてホッとしたのもあるが、光のためだったというのが一番だった。父親は光に対して

「光は分かってくれると思ったよ。本当はもっと早く伝えようと思っていたんだけどね。」

と言った。光は、「あ、私、父さんに対して演技しているんだ。」と思った。

 理解しなくもないというのは事実。だが、この父親は自分がやった行為に対して何も反省していないのではないか?父親の行為は、いわゆる浮気って言うんじゃないのか?だとしたらこれは、許すまじき行為ではないか。私は、別に許してない。気持ちが分からなくないだけであって、あなたたちが付き合うことに対して許してなんかいない。早く伝えようと思った?ふざけるな。ならなぜ、付き合う前に何も言わない。なぜ事後報告なんだ。なんでバレてから言うんだ。私はあなたの娘で許す許さないの権利はないかもしれないが、一言言ってからじゃ付き合えなかったのか?

 言いたかった。泣きながらでいいから言いたかった。でも、本当に泣きそうで、何も言葉にならず、このまま家庭が壊れてしまうんじゃないかと思うと言えなかった。それに今更許さないと言ったところで何も状況は変わらないと悟ったから余計に。事後報告だからもう引き返せない。なんて父親だ。でも罵れない。なんで私はこんな立場に縛られている?いろんなことがいやになって、恨めしく思って、でも父親にそのことがばれないように光は、笑った。作り笑顔だと分からないよい笑顔だと我ながら思うほど。

 そのあと枕に顔をうずめて泣いたことは言うまでもない。


 歩いているとふと頭の中を過る。一人だから余計になりやすい。思い出したくないこと、自分が一人だということ。これが漂っているあの家に帰りたくない。

 光は、雨の中一人で思い出して泣きそうになるのを堪え、耳元に集中してみた。良いタイミングなのか悪いのか、全くアップテンポじゃない曲が流れてきて暗かった気分が余計に色を濃くさせた。

 そんなとき、光は靴の中が湿っていっていることに気づいた。ローファーはすぐに水分を吸ってしまう。ずっと使っていてボロボロなら尚更だ。そして、ワイシャツの腕部分が濡れていることにも気づいた。両手に荷物を持っている以上、そしてこの大雨なら仕方ない。ただ、季節上彼女はワイシャツ1枚だった。腕が透けて見えるのが分かった。そのときふと、光は思った。彼がいたら・・・・と。

 彼というのは、小学校から中3までいた光の家の近所に住んでいた同級生だ。別に彼氏ではなく、単なる友達。そう思っている。そして、この彼のことでよく光はからかわれる。彼と何回か遊びにいったことを友達に言ったら、「それはデートって言うんだよ。」「光、彼氏いるの?」「リア充め。」と散々に言われた。それからなぜか光は、その彼を意識してしまった。何度も友達に否定するように、彼は単なる友達でそれ以下でもそれ以上でもないと思い込ませた。しかし、思い込めば思い込むほど彼を思い出してしまう。何も考えていないとき、ふと考えることが彼になってしまう。そこまでいってしまった。何もない。彼は、私に対して別の感情を持ち合わせていないはずだ。光は、そう思って心がきゅーっと痛むのを見てみぬフリをした。そしてそのたびに友達にからかわれるのだ。でも、その行為は別に嫌ではなく、むしろ光は面白がっていた。性格がドMとかの問題ではない。それはまた別の話だ。

 彼が隣にいてくれたらと考えてしまい、重症だと思った。そこから先はもう妄想に入ってしまう。今は彼と家が離れているし、そもそも学校が違うから平日に出会うことなどないからだ。その妄想は実に少女漫画を彷彿とさせ、実際の彼では最早ない。




 いきなり彼が隣に来た。私は音楽を聞いていて全然気配に気が付かなかった。

 彼は、私に向かって

「一番濡れちゃいけないものは?」

と聞いてきた。何のこと?と思いつつも「これかな?」と答えて、彼の目の前に見せた。すると、彼はそれを私の手から取り胸の前にかかえた。

「え?なにしてるの?」

「だって濡れちゃいけないんだろ?今の君の状態じゃ、それ濡れちゃうよ。」

「あ、ありがとう。」

 優しすぎる。ただ、疑問に思うのはなぜ隣にいるのかということ。私は彼に聞いてみた。

「ねぇ、なんでいるの?今日会う約束したっけ?」

「約束しないと会えない?」

「いや、そんなことないんだけど・・・。家離れちゃったし、偶然でも会うことなんてないから。」

「まあ、そうだね。」

 なんだか、彼の雰囲気がちょっと違う気がする。そして私たちの間にしばらく沈黙が流れ、2人並んで歩いていた。横を見ると、かなり近くにいたらしく、私の片方の腕は彼の傘のおかげで濡れなくなった。その代わり、彼の片腕が濡れていた。私はどうしようと思いつつも何もできず黙って歩いていた。

そして、私の家に着きそうになった。私は彼に「家に上がりなよ。」ともちかけると、「お言葉に甘えて。」と彼は答えた。いつもなら、「いや、いいよ。」と言うのに・・・。やはり、なんか違う。

 家に着いて、玄関で私はタオルを彼に渡した。

「濡れるはずじゃなかったのにごめんね。」

「いや、いいよ。気にしないで。」

「何か飲む?温かいものでも入れようか?」

「うん。ありがとう。それよりさ、光ちゃん。」

 彼は私によびかけて俯いてしまった。

「どうしたの?」

そう私が聞いたら、彼は顔をあげてそのまま私にキスをした。


 キスねぇ、まあ、ないなと思いつつも願わずにはいられない。妄想というのは、正夢などにはならないから儚いと最近光は感じた。儚いけど、淡い期待をしてしまうのが妄想だと光は結論付けてみた。

 妄想に区切りがついたとき、光は家の前にいた。傘を閉じてドアの前に立て掛け、鍵を開けた。

 そして光は通常の一人暮らしを淡々とこなすため家の中に入った。

ちょっと、どころじゃないかもしれないですけど暗い話ははじめて書きました。

嘘だったり、嘘じゃなかったりします。(どっちだよwwww)

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