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席替え*honey  作者: 春隣 豆吉
席替え*honey
9/32

桜の季節と彼女の油断

「ん~、春の陽気がきもちい~」

 ちなちゃんが教室で思いっきりのびをした。

「そうだね、桜もきれいだし。私、学校の桜並木好きなんだ~」

「あ。私も!在校生の特権だよね」

 ちなちゃんと顔を見合わせて笑うと、私は正門近くの桜並木に目を向けた。

 うちの学校はソメイヨシノのほかに八重桜の木もあるので、4月末くらいまで桜が咲いている。入学式くらいまではうすいピンクのソメイヨシノで、それが散る頃には濃いピンクの八重桜がほころび始める。

そして入学式が終わった今は、ソメイヨシノはもう散り始めていて道端がピンク色だ。

「沙和、島崎くんともクラスが別になってホッとしてるでしょ」

「うん。だって、もう緊張しなくていいんだよ。これが正しい休み時間だよ」

 3年生は進路別でクラス替えがある。私は系列大学進学組でラッキーなことに、ちなちゃんとまたクラスが同じになった。

 島崎くんは国立理系進学組・・・それは理系の科目が優れた人ばかりが集まるクラスで、女子がいるクラスもあるんだけど、男子の割合が多いせいか毎年男子だけのクラスが必ずできる。そこは別名「男子組」と言われていた。

「島崎くんといえば放送部が大変なことになってるんでしょ。入部希望者がいつもの3倍らしいよね」

「そうみたいだね。さすが“放送部の王子様”だよね」

 部活紹介も兼ねた新入生歓迎会。いつもなら体育会系の男の子たちがちょっと騒がれるのが恒例。でも今年は島崎くんも脚光をあびたらしく、いつもなら多くて5人くらいしか入部してこない放送部に今年は入部希望者が15人もいたんだとか。しかも、そのほとんどが女の子らしい。

 ちなみに合唱部は、今年10人くらいの入部希望者でほぼ全員が正式に入部しそうな感じだ。

 2人でのんびりと話していると、クラスの子が近寄ってきて「北条さん、放課後に鈴川先生が職員室に来るようにだって」と声をかけてきた。

 鈴川先生・・・なんとなく用事がなんなのか察しがつく。きっと、この間の小テストだ。


 職員室に行くと、私の予想は大当たりだった。

「北条、呼ばれた理由は分かるな?」

「はい。この間の小テスト、ですよね」

「中間や期末は沈没しないようになったと思ったら、どうして習ったばかりの範囲で沈没するんだ」

「すいません・・・ちょっと油断してました」

「・・・しょうがないなあ。内部試験では油断するなよ?」

「はい」

 お辞儀をしてさっさと離れようとしたら後ろから「鈴川先生」と、背筋がぞくっとする声が聞こえてきた。

 振り向くと、やっぱり島崎くん。クラスが別れてから時々見かけるけど話すことはなくなった。

「鈴川先生、部活の資料を持ってきました。北条さんも先生に用事?」

「う、うん。でも、もう用事は終わったから・・・失礼します」

「北条は、この間の小テストで沈没したんだよなー」

 私が離れようとしたときに、鈴川先生がなぜかにやにやしながら言う。

「せ、先生っ、関係ない島崎くんの前で言わないでくださいよ!!」

「鈴川先生、誰でも苦手な科目ってあるじゃないですか。資料の確認をお願いします。失礼します」

「し、失礼します」

 島崎くんと一緒に私も職員室を出る。



 なんとなく職員室から教室までの廊下を一緒に戻る。放課後だから人通りがなくて静かだ。

「つい先月まで同じクラスだったのに北条さんと話したのは久しぶりな気がするよ」

「そ、そうだね。」

「俺、“男子組”だから部活がないと女子と話すこともないしね」

「え。島崎くん“男子組”だったんだ。知らなかったよ」

「なるほど、北条さんが俺に興味ないのがよくわかったよ」

「ご、ごめんなさいっ。あんまり誰がどのクラスになったかとか気にしてなくて」

 ため息をつく島崎くんがあまりに残念そうなので、なんだか申し訳なくなって思わず謝る。でも、確かに島崎くんがどのクラスになったかというよりも、これでいつも教室で緊張しなくてすむほうが大事だったんだもん。

「そ、そういえば島崎くん。今年は放送部の入部希望者がとても多いって聞いたよ」

「・・・うん、ありがたいよね。だけど俺は大人数をまとめあげるほどの気力はないから、これから入部の面接をするつもりなんだ。鈴川先生に提出したのはその提案書」

「面接?!」

「他の部のほうが活躍できそうな人がいると思うんだよね。途中で退部するよりずっといいだろうし」

「島崎くんって、考えることがなんか大人だね」

 確かに途中で退部されるより、そのほうが本人と放送部にとってもいいことかも。私が感心していると、島崎くんは・・・え?!なんか顔を赤らめてる・・・もしかして、照れてる??

「ふふ、島崎くんでも照れるんだね~・・・えっ?!」

 ふいに手首をつかまれて島崎くんに近づく。

「・・・・もっと俺に興味を持ってくれると嬉しいな、北条さん」

「ききき興味って、なんで・・・」

「そこは自分で考えてほしいな・・・・さ、教室まで戻ろうか」

 島崎くんが手首を離す。手をつながれたときと同じで、嫌じゃないのはどうしてだろう・・・。


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