2月の帰り道
島崎くんの顔を近くで見た。あの距離だからキスされるかと・・・って、何考えてるの私は!!頭に浮かんだ考えを必死で打ち消す。
島崎くんは女の子の顔をのぞきこむのなんて慣れてそうだけど、私はあんな近くで同年代の男の子の顔を見たのなんていついらい?
考えると恥ずかしいのに、頭から離れないよ。
家で試験勉強するのもいいけど、たまには学校の図書室で勉強していこうかな・・・そう思った私は家に帰るちなちゃんと別れて図書室へ向かった。
図書室の机は普段なら本を読む人が多いのに、試験が近いせいかテキストを開いている人が目立つ。端っこの席に座ると苦手な数学の試験範囲から勉強していくことにした。
3年生になると、進路によってクラスが分かれる。私は文系だけど島崎くんはどのクラスなのかな?
どうして私は島崎くんの来年のクラスが気になるんだろう。
やっぱり数学って苦手・・・・私は一つの問題でつまずいていた。
「その問題には、前のページにある公式を使うと証明できるよ」
そのとき、隣の席から聞き覚えのある声が聞こえた。テキストから目を離して見た方向には、島崎くんがテキストを開いて座っていて私の教科書を指でめくる。
「ここの部分で、この公式を使ってごらん」
「あ、ありがとう」
言われたとおりに教えてもらった公式を使うと、あんなに悩んだのが嘘みたいにすらすらと解けた。
「北条さんも試験勉強しに来てんたんだね」
「島崎くんも?」
「そう。家で勉強してもいいんだけど、気分転換にね」
「わ、私もそうなの」
図書室だからひそひそ声なんだけど、そのぶん声の威力が増している気がする。周囲も島崎くんのほう見てるし・・・特に女の子。 さすが放送部の王子様。
なんか家に帰って勉強したほうがいいかも。このまま話してると周囲に迷惑になるよね。島崎くんの様子から見ると、もうしばらく勉強しそうな雰囲気で会話もちょうど途切れた。
でも黙って席を立って帰るってのも変だよね・・・・同じクラスで席も隣で、数学教えてもらって助かったし。
「あ、あの。私、そろそろ帰るね、また明日」
「もうそんな時間なんだ・・・じゃあ俺も片付けようかな」
「は?な、なんで・・・」
どう見ても勉強の途中だと思ったのに・・・・島崎くんは広げていたノートやテキストをさっさと片付けて席を立った。
「俺、本を返却しなきゃいけないからカウンター寄ってもいいかな」
「あ、それじゃあ私は先に」
「もしかして俺と一緒に帰るのはいや?」
「い、いやじゃないけど・・・」
島崎くんって、ときどきすごく返答に困る問いかけをする・・・
2人で並んで歩くと、島崎くんはいつも私の歩調に合わせてくれる。いい人なんだよなあ・・・私が彼の声に緊張しちゃうだけで。
「どうしたの、北条さん?」
「え。なんでもな・・・・うわっ」
ぼんやりしてたのがいけないのか、石かなにかにつまずいたようで前のめりになってしまう。いろいろ島崎くんの前でやらかしているけど、転んでしまうのはさすがに・・・・あれ?なんか転んでない。
はっと見ると、島崎くんの腕が私を支えていた。
「大丈夫?」
「う、うんっ。ありがとう・・・ご、ごめんなさいっ!!」
お礼を言うと、島崎くんの顔が思ったより近くてあわてて離れる。すっかり暗くなっていてよかった・・・私の顔は今真っ赤に違いないから。
「ねえ、北条さん」
「は、はい?ひゃあ!」
私が返事をすると同時に右手がつかまれる。
「夜道は暗いし、北条さんがまたつまずきそうになったら大変だから手をつないで帰ろう?」
「い、いやいや。さっきはたまたまで、大丈夫だからっ・・・だから」
手をほどこうとすると、ますます強く握られてしまう。
「し、島崎くん?」
焦る私の耳元に島崎くんの顔が近づく。
「・・・だめだよ。はなさない」
その口調はいつもの穏やかな感じと違って、有無を言わせないものだった。
読了ありがとうございました。
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いきなり手つなぎか、島崎くん!
我ながら、すごい進展の仕方・・・でもつまずく→支えるあたりは
ベタな路線。