バレンタインの勘違い
“そろそろ俺に慣れて”と島崎くんは言った。
そのお願いするような言い方はどきどきしたけど、ちょっとずるいと思ってしまった。でも、私もいつまでも苦手意識を持っていちゃいけないんだ。
今日はバレンタインデーだ。うちの学校はチョコレート持込を禁止していないので、私もちなちゃんと食べるチョコクッキーを持ってきている。あとは合唱部一同で蒼山先生にあげる予定で、部長が代表して渡す予定だ。
それにしても、今日の島崎くんは休み時間に席を立ってチョコを持ち帰ってきたりとか違うクラスの女の子に呼び出されたりと忙しそうだ。さすが放送部の王子様。
今は昼休みで、私はちなちゃんと食べようと持ってきたクッキーを出した。
「クッキー美味しそう!チョコチップと、スライスアーモンド・・・どっちから食べようかなあ」
迷ってるちなちゃんを見ながら、私も自分の分を食べようとしたとき島崎くんがまた紙袋を持って戻ってきた。
あ。目が合っちゃった。思わず袋に視線をうつすと、それに気づいたらしい島崎くんがちょっと笑う。
「島崎くん、えっと、今日は忙しそうだね?」
「え?あ、うん・・・まあ、そうかな」
そう言うと島崎くんはカバンにしまいはじめた。ちらっと見えただけでも5個はもらってる・・・すごいなあ。
ちなちゃんも袋の中身が見えたらしく、にやにやしながら島崎くんに話しかける。
「それ全部食べるの?」
「うん、少しずつ食べる予定だよ。ところで、そのクッキーは買ってきたの?」
「ちがーう。沙和が作ってくれたの」
「・・・北条さんの手作り?」
そういった島崎くんは、じっとクッキーを見ている。
どうしたのかな・・・あ、人が食べてるものは美味しそうにみえるってやつかな。
「ふふん、羨ましい?島崎くん」
「ちなちゃん、何言ってるのよう!!ごごごめんね、島崎くん」
ちなちゃんの発言を、私はあわてて島崎くんに謝る。その後も、ちなちゃんは島崎くんに見せびらかすようにクッキーを食べ、「あー、おいし♪残りは家で食べよーっと」と袋をしまった。
私は島崎くんに見られながら食べるなんて無理・・・家に持ち帰って食べることにした。
はー・・・こんな暗くなってから教室戻るの嫌だなあ・・・
でも課題を忘れた私が悪いんだよね・・・部活が終わってから皆と別れて、私はため息をついて、教室へ向かった。
廊下はさすがに明かりがついているけど、教室はさすがに暗い。いつもは賑やかな廊下も静かだ。うちのクラスの近くにくると、なぜか教室が明るい。
誰かいるのかな~。誰もいない教室に入らなくてすんだラッキー。そう思って扉に手をかけたとき、話し声がした。
女の子の声は誰だか分からないけど、男子の声は・・・島崎くん。
「私とつきあってください」
「・・・さんとはつきあえない。ごめん」
まさかの告白場面に遭遇しちゃったのか!ど、どうしよう・・・とりあえず立ち聞きはよくないから、隣のクラスの前までそろそろと戻った。
しばらくすると扉が開いて女の子は私とは違う方向に走っていく。ちょっと深呼吸して教室に入ると島崎くんが教室の窓際に立っていた。
「北条さん。どうしたの?」
「あ、あの課題忘れちゃって・・・へへへっ」
私は机の中から課題を取り出して急いでカバンにしまう。島崎くんもカバンをとりに席に戻ってきたため、なんだか距離が近い。
「北条さん、さっき教室前にいたよね」
思わずはっとして顔を見上げると、全てを見透かすような視線で私を見る島崎くん・・・背筋がぞくっとする。今、私に嘘をつく度胸なんてない。
「ご、ごめんね。立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど・・・」
「うん分かってる。でもさっきのことは村上さんにも言わないでくれるかな」
「う、うん。言わない」
私がぶんぶんとうなずくと、島崎くんがちょっと笑う。
「ありがとう。あのさ、もう一つお願いがあるんだけど。北条さんが作ったクッキーがまだあるなら俺にくれないかな。隣人チョコってことで。だめかな」
隣人チョコ・・・そんなの聞いたことない。もしかしておなかすいてるのかな。私はおかしくなってふきだしてしまう。
「ふふっ。島崎くん、もしかしておなかすいてるの?」
「え・・・あ~・・・うん、ちょっとすいてるかな」
「そっか。それならどうぞ」
「ありがとう・・・来年は違う意味のチョコレートを北条さんからもらえるように頑張るから、俺」
「へっ?・・・ち、ちがう意味って・・・」
思わず島崎くんをみると、いつもの穏やかな顔。ああ、せっかく動揺しなくなってきたのにまた赤くなってしまう。
「北条さん、どうしたの?」
島崎くんに顔をのぞきこまれて、私は思わずうつむいてしまった。
読了ありがとうございました。
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ちょっと会話が成立してきました。でも鈍いなあ主人公。またそれもベタってことで。
バレンタイン話のほかにもう1話くらい2月を舞台に書いてみたいです。