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席替え*honey  作者: 春隣 豆吉
選択*darling
31/32

鈴川先生の困惑

生徒の前では「私」と自分のことを呼んでおりますが、プライベートの鈴川先生は「俺」と言っている設定にしました。

ご了承ください。

 下野と並んで帰っていく村上を見ていると、複雑な気持ちになる。


 梅雨入り前のうららかな日差しのなか昼食を食べたあと、中庭のベンチでのんびりくつろいでいると、ちょうど樹木をはさんで真後ろのベンチから俺の名前が出てきて驚いた。

「鈴川先生って、天然?」

「ちょっと、ちなちゃん。先生に対して天然って失礼だよ」

 この声、昨年担任だったクラスの北条と村上か?とがめる声が“ちなちゃん”って言ってるから、俺を天然呼ばわりしたのは村上で間違いないだろう。なんで俺が天然呼ばわりされなきゃいけないんだろうか・・・思わず2人の会話に耳をすませる。

 どうやら俺が島崎に北条の数学を見てやってほしいと頼んだことが事の発端らしい。うーん、まさか島崎と北条がそんな状況だったとは・・・生徒間のそんな関係なんて把握できるわけないし。

 村上の“縁結び”発言に北条は自分のことだとピンときていないらしく、村上にからかわれていたが、最終的には村上の理論に丸め込まれていた。

 それにしても村上って、ああいう性格だったのか。一応、俺教師なんですけど・・・・まあ尊敬されるとかには程遠いかもしれないけどさ。せめて“天然”という認識を訂正してくれないだろうか。それから俺は村上を生徒たちのなかから探すようになり、季節は流れ10月。

 久しぶりに村上と話をしたのは、数学準備室に週番の彼女がプリントを持ってきたときで、クリームと砂糖を入れる彼女はブラックで飲む俺を見て口を開いた。

「先生はブラックなんですね」

「大人の男は基本ブラックと相場が決まっている」

「先生って、結構踊らされるタイプですか?甘いのがすきな大人の男性だっていると思いますが」

「・・・村上は手厳しいなあ」

 俺が思わず苦笑いをすると、今度は村上のほうがなぜかちょっと驚いた顔をした。もしかして、すこし俺に対しての認識が変わったとしたら嬉しい。


 気持ちを自覚してしまったのは後夜祭の美術部の打ち上げだ。

 村上が俺と数学準備室でコーヒーを飲んだ話を下野にすると、一瞬だけムッとした顔をした下野。もしかして・・・と思ったら、「ふうん、そうなんだ」下野はそれだけ言うと、俺のほうをちらりと見た。目をそらしたら負けたような気がするから俺も下野を見返した。

 花火の上がる時間になり、教室の明かりが消える。下野と村上は2人で言葉も交わさずに窓の花火を黙って見ている。村上は花火を見ているけれど下野は花火よりも村上を見ていた。

 その様子を見ていたら、下野の気持ちを確信すると同時に自分の気持ちにも気がついた。いつも村上を探してしまうのは、あの天然発言から彼女が気になってしょうがないから。もし俺が高校生だったら即座にあの2人に割って入って邪魔をしてるな。でも、下野の返り討ちにあったりして。

 ありえそうな展開に笑いがこみ上げてくるのをぐっと我慢して、俺は花火を見たのだった。



 2人が並んで帰るのを見送ってから2週間後、大学への内部試験が行われた。もう担任ではないけれど、村上の結果は気になる。

 とはいえ、本人に聞くようなきっかけもなく学校での系列進学組は通常の授業に戻っていた。

「失礼します」

 数学準備室にやってきたのは、前回同様プリントを抱えた村上。どうやら彼女はまた週番だったらしい。今日は周囲に生徒もいないし、他の先生もとっくに席を外していた。

「村上が週番だったのか」

「はい。先生、プリントを持ってきました」

「ご苦労さん。そういえば内部試験はどうだった?」

「ばっちり合格しました!来年からは大学生です」

「それはよかったな、おめでとう。そうだ、コーヒー・・・いや、紅茶飲んでいくか?」

「え。先生、紅茶も飲むようになったんですか。どういう心境の変化が」

「飲み物にバリエーションがほしくなって・・・・ティーバッグの紅茶なんだけどね。でも、レモンとかミルクはないんだが。それで、飲んでいくか?」

「はい、ありがたくいただきます」

「じゃあ、そこのソファにでも座ってて」


 俺がそう言うと、村上はおとなしくソファに座った。紅茶を用意したのは、コーヒーよりも紅茶が好きなきみのためだよ、と言える日は来るんだろうか。

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