2学期は時間切れ
隣の席になった島崎くんは何かと話しかけてくれるけど、私はいつも緊張しちゃって短い返事をするのが精一杯だ。
島崎くんと話すときは2人よりは誰かが一緒にいてほしい。そんなわけで島崎くんと話をするときはちなちゃんを巻き込む私・・・。ちなちゃんの席が近くてよかった。
私以外のクラスの女の子たちは、島崎くんの声は“いい声”だよね~ってうっとりしてるけど誰も緊張とかしておらず普通に話している。どうして私だけ変なところがいっぱい出ちゃうんだろう?
今日で2学期が終わる。期末テストもまあまあの成績だったし(数学だけは鈴川先生がテストを返却したときに微妙な顔をしていた。い、いいじゃんか。今回は半分とったんだから)、毎年恒例の近所の総合病院で開催するコンサートも無事終わったし。
今日はちなちゃんとお昼ごはんを食べようって話してるんだけど・・・
「沙和、ごめーん。ちょっと顧問の先生に呼ばれちゃってさあ。すぐ戻るから待っててもらっていい?」
「いいよー」
私がそういうと、ちなちゃんはごめんっと私に両手を合わせて教室から出て行った。
教室はもう人はまばらで、残っているのは私くらい・・・か。うーん、なんだか眠くなってきちゃったなあ・・・・ちなちゃんが来たら起こしてくれるだろうから、ちょっと寝ちゃお。
私はカバンからタオルを取り出すと机の上に置いてうたた寝をすることにした。
「・・・・風邪ひいちゃうよ」
「・・・うん・・・・ちなちゃん、おきる・・・」
誰かに肩をたたかれて、ちなちゃんだと思った私は半分ねぼけていた。すると、ちなちゃんだと思ってた人が笑いをこらえている・・・・もう、誰よ。人の安眠を邪魔するのは。
私が目をあけてのろのろと頭をあげると、そこには島崎くんがいた。
またか・・・またなのか、私!!朗読に聞きほれて笑われ、廊下でぶつかって腕つかまれて・・・ついには寝顔ですか!!
「う、うわわわ島崎くん・・・まだ、学校にいたんだ」
「うん。放送部の片付けが残っててね。俺、部長だから最後までのこって施錠」
「あ・・・そうか」
文化祭が終わると文化部の3年生は一斉に引退する。各部も部長が変わるなか、放送部の部長には島崎くんがなったのだった。
「“放送部の王子様”が部長かあ~。王子様ならぬ王様か?」と言ったのは、ちなちゃん。もっともそのあと「でも“王様”だとしっくりこないよね~。やっぱり“王子様”だな」と訂正してたっけ。
「北条さんも、合唱部の副部長になったんだよね」
「う、うん。何でだか分からないけど」
断ろうとしたら前部長に“大丈夫、沙和ちゃんならできるよ。私が保障するわ”って言われちゃうし。隣で新部長が“ほら、部長も沙和ならできるって言ってるし。私を助けてよ、ね?”なんて頼んでくるし・・・あれは、私が断れなくなることを見越してやったに違いない。
ううっ、前部長のファンだもん。断れなかったんだよお!!
「そう?俺は北条さんが副部長って聞いて、なるほどって思ったよ」
島崎くんがそう言って笑う。何で?って理由を聞きたいな・・・聞いてもいいかな。
「あ、あああの島崎くん」
「え・・・なに?」
なぜか島崎くんが一瞬驚いた顔をした。
「あ、あのね、なんで私が副部長って聞いて“なるほど”って思ったのか聞いてもいい?」
「ああ・・・それは「ごっめーんっ!!沙和!!」
勢いよく扉が開かれ、息を切らしたちなちゃんが現れた。
扉の入り口で呼吸を整えてるちなちゃんを見た島崎くんは、小さい声でつぶやいた。
「・・・・残念。時間切れ」
「へ?時間切れ」
ちなちゃんはまだ下を向いている。すると島崎くんが私の耳元に顔をよせた。
「答えは来年、教えてあげる。3学期も隣になるといいね」
「え・・・」
島崎くんが私から離れたのと、ちなちゃんが上を向いたのは同時だった。
「あれ?島崎くんもまだいたの」
「うん。放送部の片付け」
「そっかー。部長だもんね~・・・って、沙和。なんか顔赤いよ?」
「そ、そお?ちなちゃん待ってる間寝てたから、跡だよ。跡」
「ふうん?ま、いいや。沙和、かえろ」
「う、うん」
「北条さん、村上さん。また来年ね」
「うん、島崎くんもね」
ちなちゃんが返事をして、私は黙ってうなずくのが精一杯・・・・さ、さっきのなんなの。どうして耳元に顔を近づける必要があるの?
あああ、まったく理解不能だ。とりあえず思ったのは・・・3学期は隣になりたくない!!ってことだった。
読了ありがとうございました。
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本日もベタな話です。だってベタな話が書きたくて作った話なので。
主人公は、いつも最後に島崎くんに何事かささやかれておりますが
これを考えるのが意外と難しいです。