コーヒーと数学準備室
ダーリン候補2人目。
話の時期:「席替え~」高3の文化祭の前あたり。
2年生の頃に担任だった鈴川先生は、現在も数学の担当教師だ。
「は~。ついてない・・・」
放課後の廊下で、私はプリントを抱えてため息をついた。課題のプリントを週番が集めるように鈴川先生が言い、そして運の悪いことに週番は私だった。
「失礼します」
数学準備室のドアをあけると、女子生徒が鈴川先生を囲んでいた。たまたま席を離れてお茶を入れていた他の先生が私に気づいて、ちょいちょいと手招きをする。
「村上、それ鈴川先生に頼まれたプリントだろ?そこのテーブルに置いておいていいぞ。あとで私から言っておくから」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
お礼を言ってプリントをテーブルに置いて帰ろうとしたところ、鈴川先生の周囲にいた生徒たちが“ありがとうございました”と言って準備室から出て行った。
「どうしたんだ村上?」
私に気がついた鈴川先生が慌てた様子でこちらに来た。
「先生、課題のプリントを持ってきました」
「村上が週番だったのか。ご苦労さん」
そういうと、鈴川先生はテーブルの上のプリントを自分の席に持っていった。他の先生方は用事があるらしく、次々と席を立って準備室から出て行く。
「鈴川先生、私も失礼します」
準備室を出ようとすると、先生に呼び止められた。
「村上。コーヒーいれるところなんだけど、一緒にどうだ?」
「いいえ、結構です」
「ちょうど瓶の中身があと2杯分くらいだから付き合いなさい。そこのソファにでも座ってちょっと待ってて」
「・・・ありがとうございます」
そういうと先生は“鈴川”と書かれた瓶を取り出し、コーヒーを入れ始めた。各自マイドリンクを置いているのか、数学準備室。
「ミルクと砂糖は?」
「お願いします」
コーヒーのいい匂いが室内に漂い、私の前にプラスチックの使い捨てコップとミルクと砂糖が置かれた。先生は黒に白の持ち手のマグだ。なぜか先生もソファに座ったので、重みで少し沈んだ。
「先生はブラックなんですね」
「大人の男は基本ブラックと相場が決まっている」
「先生って、結構踊らされるタイプですか?甘いのがすきな大人の男性だっていると思いますが」
「・・・村上は手厳しいなあ」
そう言って鈴川先生はふっと笑う。
へえ・・・こんな顔もするんだ。ぼんやり顔だと思っていたけど、ちょっと印象が変わった。




