アイスボックスクッキーと美術室
ちなちゃん編、スタートです。
まずは1人目のダーリン候補から。
時期:ちなちゃん高1から高3
うちの学校の美術部は人数が少ない、1学年に多くて4人程度。それでも同好会にならないのは、毎年必ず大きな展覧会の入選者が出るからだ。
ちなみに私の学年は、私と下野くんの2人だけという最少人数というコンパクトさ加減。正直、先輩たちが引退したら、同好会になるのかな~と思っていたけど、先輩方や下野くんが何度か入選したおかげで、新入部員が入ってきた。
優しくて穏やかな下野くんと、大雑把な性格の私。違いすぎる性格がよかったのか、同じ学年が2人だけという状況のせいか私たちはすぐに仲良くなった。
あれは高校1年の5月の美術室。
「村上さん、これ食べない?」
下野くんが差し出したのは、美味しそうなうずまき模様や市松模様のクッキーがたくさん入った袋。
「わあ、美味しそう。いいの?」
「うん。僕一人じゃ食べきれないから、一緒に食べてくれたら嬉しい」
「じゃあ、遠慮なく・・・美味しい!!」
1枚もらって口にいれればサクサクとしてとても美味しい。
でも、これって手作りっぽい。もしかして下野くんだけに食べてほしいものなんじゃないのか?そうなると、思いっきり部外者の私が食べていいもんじゃないわよね・・・1枚食べて手を止めた私を見た下野くんが不思議そうな顔をした。
「どうしたの村上さん、もっと食べていいよ?」
「いやー、だってこれ手作りでしょう?私が食べちゃっていいものなわけ?」
「なんで?このクッキー僕が作ったから問題ないよ。でも僕がそういうと皆、微妙な感じになるんだよね~。やっぱり変?」
下野くんがちょっとだけ顔を曇らせた。きっと変だって言われたことあるんだろうな~。
確かに高校生男子の趣味としては珍しいけど、変ではない。だいたい有名なパティシェは男性が多いし何よりこのクッキーは美味だ。うまくすれば、また作ってくれるかもしれないし。
「変じゃないけど、驚いた。でも悪くない趣味だね。だって、このクッキーはとっても美味しいもの。もうちょっと食べてもいい?」
「うん、どんどん食べてよ。また作ったら持ってくるね」
下野くんが嬉しそうな顔をして、私の前にクッキーの入った袋を差し出した。よしっ!美味なおやつを確保!!
「う、うん。ありがとう」
でも純粋に喜んでいる下野くんを見ていたら、なんか急に自分のちゃっかりさが恥ずかしくなった私だった。
そして高校3年生の現在。2人だけでこっそり食べていた下野くんのお菓子は、あれから先輩にばれて後夜祭での打ち上げ用のお菓子を頼まれるようになり、今や美術部員は誰も校庭で花火を見なくなった。
でも私にはいまだに秘密の特権がある。それは・・・
「村上さん、今年の後夜祭に出すお菓子を作ってみたんだ。試食しようよ」
「うん、いいよ」
下野くんは今でも私に試食と称してお菓子を作ってくれる。試食場所は放課後の美術室で、部活が休みの日だ。
「このマカロン、美味しいね~。いちごの香りがする」
「フリーズドライのいちごをマカロン生地につかって、中身はいちごバタークリームにしてみたよ」
「マカロンって、作るの難しいんでしょ。部長、すごいね~。ますます腕が上がったじゃない」
「そんなことないよ」
そう言うと、下野くんはふわりと笑って紅茶を入れてくれる。おおお、気分だけはお嬢様。さしずめ下野くんは執事・・・いやいやそれはどうなのよ。
でも、ピシッとした執事の制服似合いそうだよな・・・・。
「村上さん、ぼんやりしちゃってどうしたの?」
「・・・なんか部長って執事っぽいよね」
「執事っぽい?うーん、そうかなあ。でも村上さんにおもてなしをするのは好きだよ。いつも美味しそうに食べてくれるから、作りがいがあるんだ」
入れてくれた紅茶は薫り高いダージリン。なんというか・・・絶対、下野くんって私より女子度高いよね・・・・。




