文化祭と白玉あんみつ
島崎くんと待ち合わせをしたのは図書室の前だ。文化祭の日は図書室が閉まっているから周囲はとても静かで、文化祭の真っ最中だとは思えない。
島崎くんはまだ来ておらず、私はのんびり待つことにした。
島崎くんと、どこを見に行こうかな。ちなちゃんが受付してる美術部の作品展は絶対見たいけど、私の希望ばかり言うのはよくないし・・・好きになると、その人のことをたくさん知りたくなるんだな。
「北条さん、待たせてごめんね」
「うわあっ」
ぼんやり考え事をしていたせいか、横で聞こえる“いい声”に私は驚いてしまった・・・・それを聞いた島崎くんは笑いをこらえているらしくこちらを見ないで肩をふるわせている。うう、恥ずかしい。
「ぜ、全然待ってないよ。私もちょっと前に来たばかりだからっ」
「それならいいんだけど、北条さん発表会お疲れさま。俺も見たかったなあ」
「あ、ありがとう。でも内容は昨日と同じだから・・・島崎くんのほうこそ受付お疲れ様。大変だったでしょう?」
「一番忙しい時間帯だからね。でも3年間やってきたことだから、もう慣れた」
島崎くんがちょっと笑うだけで、私の心は跳ね上がる。
「あの、島崎くんはどこから見たい?」
私は持ってきた案内図を島崎くんに渡した。
「北条さんも一緒に見ようよ」
「あ、大丈夫。もう1部持ってきてるの。それは島崎くんのぶんだよ」
私が案内図を見せると、なぜか島崎くんはちょっと残念そうな顔をした。ちなちゃんが2人で1部を見るより、2部持っていったほうが楽だよって言ってたけど・・・違うのかな?私もそのほうが楽だと思うんだけど。
2人でまず入ったのは甘味処だった。そこで案内図を見ながら何を見たいか決めようと島崎くんが言ったから。
私は白玉あんみつ、島崎くんは磯辺もちの食券をそれぞれ購入して案内された席に座る。なんか視線が多いなあ・・・まあ放送部の王子様と一緒にいるんだもの、しょうがないか。
運ばれてきた白玉あんみつは容器はさすがにプラスチックだけど、三色寒天と白玉、あんこにピンクと緑の求肥に黄桃とチェリーが入っていてなかなか豪華だ。
「北条さんの白玉あんみつも結構美味しそうだね」
「島崎くんの磯部もちもしょうゆのいい香りがするね」
「うん、そうだね。食べながらどこを見たいか決めようか。北条さんは何が見たい?」
「あ、あの。島崎くんは何が見たい?」
私は島崎くんの興味のあるものを知りたい。
「俺が考えてる間、北条さんが見たいものを聞いてもいいかな」
「じゃあ、美術部の作品展が見たいな。ちなちゃんがちょうど受付してるし」
「いいよ。あの村上さんがどんな顔して受付してるんだか見たい」
「ふふ。島崎くんのその発言、ちなちゃんに話してもいい?」
「うーん、それはちょっと困るかもしれない」
本当に島崎くんが困った顔をするので、ふきだしてしまった。私、島崎くんと向かい合わせでお互いに笑いあったりしてる状況なのに、不思議なことに緊張より嬉しさが勝っている。昨年の私からは思いもよらない展開。
「なんか不思議」
「なにが不思議?」
「えっとね、昨年の今頃なんて考えもしてなかったこの状況が不思議だなあって思うの」
「なるほど。確かに北条さん、俺に話しかけられると緊張してたよね」
「え、気づいてたの?」
「気づいていないと思っていたのは北条さんだけだと思うよ」
そうだったのか・・・今さらだけどすごく恥ずかしくなってきた。ちなちゃん、教えてくれてもいいのに~っ。でも、ちなちゃんはそういうのを面白がるところがあるから黙って見てたんだろうなあ・・・ありえる。
結局、美術部の作品展を見た後に放送部の作品も見ようということで話がまとまって私たちは席を立った。
廊下は相変わらず人が多くて、島崎くんの背中についていかないとはぐれちゃいそうだ。
「北条さん、はい」
そう言うと島崎くんが手を差し出す。
「ん?」
「北条さんがはぐれてしまわないように」
「へ?!いやいやはぐれないから。ちゃんと後ろからついていってるし」
「北条さん、往生際が悪いよ」
「お、往生際って・・・えっ」
それは転びそうになって支えてもらったときを再現したみたいで。島崎くんはちょっと強引に私の手をつかんで歩き出してしまった。




