ちなちゃんの考察-その5
別名、ちなちゃんの根回し(笑)。
沙和から話を聞いたとき、私は自分のニヤニヤを抑えるのが大変だった。さすがに困った顔をしている親友の前で失礼だし。
それにしても三宅さんが王子のことを好きだとは。うちの高校の女子って、島崎くんのことをただの“放送部の王子様”だって思ってるんだろうか。王子フィルター、すごいな。
どうみても、あれは“策士”がつくと思うんだけど。いや、むしろ王子ではなく策士だけでもいいと思う。
それにしても沙和もとうとう自分が王子を好きだって自覚したし、親友ながら趣味の悪い・・・いやいや変わり者・・・・どっちも沙和の前では言わないけどさ。
中間テストが終わった次の日から部活動が再開し、キリのいいところまで終わらせた私は、部長に断ってスケッチブックを片手に校内スケッチをすることにした。中庭にあるベンチに座ってスケッチブックをひろげる。
絵を描くのは好きだ。一瞬を写すことはできないけれど、時間を残しておけるから。そして没頭できるから何も考えないでいい・・・ある程度描き終えてスケッチブックからふと顔を上げると、私の座るベンチのわきを三宅さんが小走りで通り過ぎた。
へーと思っていると、今度はその後ろから王子が現れた。おおっ、同じ方向からなんてすごい偶然だなあと思ったけど、見つかるのも面倒なので私は素知らぬ態でスケッチブックに視線を移した。
でも、こういうときに限って見つかっちゃうのよね。
「村上さん、ここでなにしてるの?」
「スケッチだよ。島崎くんこそ、部活中なのになんで中庭にいるわけ」
「ちょっと用事があって」
「ふーん。さっき三宅さんが小走りで中庭を通ったのと関係あるのかしら」
「・・・・村上さんは鋭いね」
「ありがとう、よく言われるの。島崎くんってもてるのね」
「でも俺が大事にしたいのは一人だけだから」
王子さー、そういうセリフは本人の前で言ってよ。これはあれか“将を射んとせば先ず馬を射よ”ってやつか。
「あのさー、私は馬?」
「まあ確かに村上さんを懐柔したほうが早そうだよね。でも村上さんは簡単に射られないでしょ」
「よく分かってるじゃない。まあ、沙和を悲しませたら私が島崎くんに“素敵な”仕返しをしてあげるよ」
「俺が北条さんを悲しませることをするわけがないよ」
そう言った王子の顔はとても真剣で。どうやら沙和のことはちゃんと大事に思ってるようだ。王子を敵に回すのも面倒だし、貸しをつくっておくのもいいわね。
「そういえば放送部は文化祭ってなにやるのよ」
「また急に話題を変えるね。夏休みに1、2年生が撮影した映像作品を上映したり、文化祭の総合受付をしたりするんだ。毎年同じだよ」
「ふーん。それって島崎くんは何時から係をやるって決まってるの?」
「いや、今日これから決めるとこ。部長が遅刻しちゃって申し訳ないけどね」
「美術部はもう作品展の受付の持ち回りは決めたわよ。私は一般公開日の15時から最終の17時まで」
「へえ、そうなんだ。後夜祭は?」
「美術部の皆と片付けしながら見ると思う。美術室は2階だから、校庭よりは花火がよく見えるし」
「・・・・なるほど。じゃあ俺、そろそろ行かないと。これ以上遅刻すると先生にも怒られそうだ。村上さん、ありがとう」
そう言うと、王子は校舎に向かって歩いていった。
うーん、悪役のはずが本格的に良い魔法使いがサマになってきたわね、私。まあいいか、情報を有効活用するかどうかは王子しだいなんだし?
私もお節介よね・・・でも沙和にとってはハードル高いことを約束させちゃったから、ちょっとしたお詫びってやつってことで。




