テスト最終日の寄り道
私、島崎くんのこと好きなのかな・・・・自分の気持ちがよくわからないまま学校で中間テストが始まった。三宅さんの様子も気になるけれど、赤点なんか取ろうものなら、今まで練習してきた合唱部の発表会にも出られないし勉強を教えてくれた島崎くんにも申し訳ない。
テストが終わってから考えよう・・・私は頑張って気持ちを切り替えた。
そして今日、テスト最終日を終えて教室は久しぶりに和やかな雰囲気になっていた。
「あ~終わった終わった。ねえ、沙和は今日部活ってある?」
「ううん、明日からだよ」
「私も今日まで美術室使えないのよね~。そうだ、暇なら甘いもの食べに行かない?」
「うん、行こう!」
そうだ、ちなちゃんに話してみよう。
私とちなちゃんが入ったのは、駅前のケーキ屋。それぞれケーキセットを頼むと、私は思い切ってちなちゃんに打ち明けた。
「あのさ、ちなちゃん。国立理系クラスの三宅さんって知ってる?」
「国立理系クラスの三宅さんって・・・・ああ、理系首席の三宅瑠奈ちゃんね。彼女がどうかしたの」
瑠奈ちゃんって言うのか。三宅さんって名前負けしてないなあ・・・。
「三宅さんが、どうやら島崎くんのこと好きみたいなんだ。島崎くんに一緒に勉強していいかって聞いて断られたら、私のこと悔しそうな顔して見てた・・・どうしよう。ちなちゃん」
「それはびっくりだわ。へ~、島崎くんってもてるのね~」
ちなちゃんがニヤニヤをこらえたような顔をしてるように見えるのは気のせいだろうか。私が続きを話そうとしたところで、ケーキセットを店員さんが持ってきた。
「ね、どうして沙和は“どうしよう”って思ったの?」
店員さんが離れたのを見計らってちなちゃんから聞かれ、私はそのとき思ったことをちなちゃんに打ち明けた。
島崎くんがそっけなく断ってくれて嬉しかったこと、緊張するけど、それよりどきどきすること・・・そして私は、ちなちゃんに自分で出した結論を話すことにした。
「私、島崎くんのことすきかも・・・でも三宅さん美人だし頭いいし・・・島崎くんと接する機会が多そうだし」
「まあ、確かに三宅さんは美人で頭よくて、同じ理系組だから沙和よりも接点多そうだよね」
「やっぱりそうだよね」
第三者に言われるとますます落ち込む・・・。私がため息をつくと、ちなちゃんはなぜかニヤリと笑った。
「ねえ沙和。そういうのは私じゃなくて島崎くんに聞かないとスッキリしないと思うの。折りしももうすぐ文化祭だし」
「ちなちゃん?」
それは、私に告白しろってことですか?!私が驚きのあまり絶句していても、ちなちゃんは気にしない様子で話し続ける。
「私が美術部の展示会受付をしてる間、島崎くんとあちこち見て歩いたらどうよ。友達なんだから誘ったって変じゃないでしょ」
「い、いやいやいや。ちなちゃん、私から誘うなんて無理だから」
「じゃあ島崎くんから誘ってもらえるように水を向けられる?」
「・・・それはもっと無理です」
「でしょう?ちょうど朝錬に行く時間と島崎くんの登校時間が合うって前に言ってたじゃない。あとで私が受付する時間を教えてあげるから頑張りな」
「う、うん・・・」
「よし。じゃあケーキ食べよう。うふふふ、リンゴのタルト美味しそう」
ちなちゃんはそう言うと、楽しそうにケーキを食べ始めてしまった。私もちなちゃんにならってパンプキンプリンとコーヒークリームのタルトを食べることにした。
その後は島崎くんの話をすることはなく、互いの部活の話や勉強の話をしたけど、私の頭のなかには島崎くんのことが片隅にあって。
「沙和、島崎くんをちゃんと誘えるかなーとか考えてたでしょ」
「え。なんでわかるの」
はっと思って口を押さえたけどもう遅く、ちなちゃんはさらに人の悪い笑みを浮かべた。
「いいなー。私もどきどきしたいもんだ」
「ち、ちなちゃんだって、どきどきすればいいじゃんかっ」
「誰によ?」
「そ、それは知らないよっ」
「ま、そりゃそうだ。だから今は沙和の恋の行方にどきどきしておくからさ」
「・・・ちなちゃん、なんか楽しんでない?」
「あら、沙和にしては鋭い」
「もう、ちなちゃんっ!!」
「あははは、ごめんごめん。でも、ちゃんと心配してるのよ?」
「それは、わかってるけどさ」
私、ちゃんと島崎くんを誘えるかなあ・・・。




