夏休み明けの動揺:後編
島崎くんに悪いことしちゃったなあ・・・ため息しかでないよ。昼休み、私とちなちゃんはお気に入りの中庭のベンチでお弁当を食べていた。
「沙和、顔が辛気臭い」
「ううっ、私だって悩むときがあるんだよ」
「そりゃ人生に悩みはつきものだもの。老若男女は関係なし。で、何をそんなにお悩み?私に話せる?」
ちなちゃんが私の顔をのぞきこむ。
「・・・島崎くんに挙動不審なことしちゃった・・・悪いことしちゃった・・・・」
私はちなちゃんに、廊下で島崎くんにばったり会ったときに噂が気になって逃げてしまったことを話した。
「なるほどね。で、沙和はどうしたいの?島崎くんに理由を言って謝る?それともこのまま卒業まで距離を置く?」
島崎くんと距離を置くと“いい声”をささやかれて緊張することもないし、一緒に帰ったり勉強を教えてもらうこともなくなる。それは私にとっては緊張事項が減ることで。
以前だったら断然“そうしよう”って思うのに、最近の私は彼の声に緊張しちゃうけどその一方で島崎くんと一緒に行動することが、ちょっと恥ずかしいけど楽しいのだ。
「どうしよう・・・どっちがいいのか、わかんない」
「まあね~。でもこれは沙和が決めることだからさ。思考を惜しむとバカになるけど考えすぎるのもバカになるからさ、テキトーに考えたほうがいいよ」
「ちなちゃんって、ときどき分別くさいよね」
「うっさい・・・・あらまあ」
ちなちゃんがニヤニヤしながら見ている方向に視線を向けると、島崎くんが中庭に歩いてくるのが見えた。
「ちちちちなちゃん、どうしよう」
「どうしようって。こっちに来るとは限らないんだから堂々としてりゃいいのよ」
そっか・・・私ってどんだけ自意識過剰なんだろう。自分がとっても恥ずかしい!!
今日は天気がいいから、ベンチでお昼を食べたりぶらぶらしてる人も多い。島崎くんも食後の散歩にでも来たんだろう。
お願いだから、こっちに来ないで~。今はまだだめだ・・・私はさっさと教室に戻るべくお弁当箱を片付け始め、ちなちゃんもそんな私を見て自分もお弁当箱を片付け始めた。
なのに、神様がいるのならこれは意地悪なんじゃないだろうか。
「やっぱりここだったね、北条さん。村上さんも一緒か」
お弁当箱を片付け終わり、立ち上がったそのときに声をかけられるなんて。私があわあわしているのを見かねたちなちゃんが口を開く。
「あら島崎くん。食後の散歩?」
「違うよ、人捜し。教室に行ったらいなくてさ。村上さん、お願いがあるんだけどな」
「なに?場合によっては聞けないわよ」
「ちょっと北条さんと話をしたいんだ」
「それは私じゃなくて、本人に直接聞きなさいよ。ほら沙和、どうする?・・・今逃げても、絶対あとで同じ目にあうわよ」
ちなちゃんが島崎くんに聞こえないように小さい声で私に言う。私も先延ばしにしたって同じだってことは分かる・・・それなら。
「ちなちゃん、先に戻っててくれる?」
「わかった。じゃあお先に」
ちなちゃんが先に校舎に戻っていく。うう、緊張するなあ・・・・。
立ち上がったはずのベンチに私たちはちょっと間をあけて座りなおす。
「北条さん、あのときなんで周囲をきょろきょろしたの。しかも逃げるように行っちゃうし」
「あの・・・島崎くんと私がつきあってるって噂があって、誰かに見られたらちょっと恥ずかしくて・・・ごめんなさい。私なんかと噂になっちゃって・・・迷惑だよね」
「噂ね・・・あのとき潰したはずなのに、また出たか。なるほど、そういうこと」
「は・・・あのとき潰した?」
そこまで言って、私は思い切って島崎くんのほうへ顔を向けた・・・なんか、島崎くんの笑顔が怖い?気のせい?
「北条さんは、俺と噂になるの迷惑?」
「迷惑じゃないけど、島崎くんに悪いよ。あとは困るというか、は、恥ずかしいというか・・・」
何て言ったらいいのか分からなくて、思ったことを並べてみる。
「俺は、その噂を迷惑と思っていないよ。だから、北条さんも気にしないで?」
「え」
島崎くんはいつもの優しい顔をして言った。いや気にしないでと言われても。島崎くんは放送部の王子様だから噂慣れしてるんだろうけど、私は庶民ですから!!
「いや、島崎くんは困らなくても私はこま・・・」
「噂なんてすぐになくなるよ。だから北条さん」
にっこりと笑った島崎くんの顔が私の耳元に近づく。ここ学校の中庭なんですけど!!周囲に人いるんですけど!!
「-俺から逃げるのはなしだよ?」
「~~~~!!!」
私は口をぱくぱくさせて、きっと顔も真っ赤になってるはずだ。島崎くんはそんな私の様子をそりゃあ面白そうに見ていた。
どうして、中庭でこんな目に?!




