ちなちゃんの考察-その4
夏休みの1日くらい遊んだっていいよねってことで、私と沙和は以前から見たかった映画を見に行くことにした。
“持ち主の願いを一つだけかなえてくれる”という宝石を追う怪盗団の物語で、アクションあり陰謀あり友情あり恋愛ありと、これでもかっ!!と娯楽要素を盛り込んだ作品で、ストーリーも評判がいい。
そしてイケメン若手俳優が大挙して出演しており、誰でも一人は好みのタイプが見つかるという意味でも評判を呼んでいる作品だ。思わずイケメン怪盗団をじっくり見たくてパンフを買ってしまった。
お昼を食べていなかったので、モールのなかにあるカフェに入る。
「あー面白かったね!!」
「うん、すっごく良かった。ストーリーもどきどきしちゃったよ」
「イケメン怪盗団のなかで、沙和は誰がよかった?」
「私は参謀が気になるかなあ。ちなちゃんは?」
「ダントツで発明家。自分の好奇心のためなら躊躇しないのと普段のショートコント担当のギャップがいいね~」
沙和が挙げた参謀というのは、思慮深い常識人な一方シビアで目的のためなら手段を選ばないという・・・・なんか、島崎くんを彷彿とさせるキャラだった。
沙和は無意識なんだろうけど、刷り込みに成功している島崎くんってすごいかも。
「なんか参謀のキャラって島崎くんを連想させるよね~。あの腹黒さとか」
「え、島崎くんは腹黒くないよ?私はどっちかっていうと島崎くんってバニラのジェラートみたいって思うけど」
「は?何よそのたとえ」
「前に学校帰りに一緒にジェラートを食べたんだけど、そのとき島崎くんがバニラを選んだの。なんかまじりっけがなくていつも涼しげな感じが島崎くんみたいだなって・・・」
沙和は、ときどき変なことを言う・・・今回の発言は特に心配だ。私からみれば島崎くんはバニラとみせかけて実はわさび入ってますみたいなイメージなんだけど。
ま、それは島崎くんの作戦勝ちか、単に沙和が鈍いだけだし(おおかたこっちのほうだろう)。でも、気になる箇所がある。
「ねえ沙和、島崎くんと“2人きり”でジェラート食べたの?」
「へ?!う、うん。えーっと、2週間くらい前の補習授業のあと、私は部活でちなちゃんが帰った日だったかなあ。
お弁当を中庭で食べようと思ったら、お気に入りのベンチに島崎くんがいて一緒にお昼を食べたんだけど、そのときになんかそういう展開になっちゃって」
2人でベンチに座ってお昼食べて、そのあと一緒に帰ってジェラートを食べる・・・・デートか王子。
「理系クラスは大変だよね~、私なんて午前中の補習だけでうんざりだったのに島崎くんは1日補習なんだって。すごいよね~」
「うん、そうだねー。さすが理系クラス」
さすがだ、王子。悪役の私もびっくりだよ。でも肝心の姫にはデートだって伝わってないあたりが不憫。だから私はちょっと姫をからかいたくなっちゃうし、王子の邪魔をしたくなっちゃうのよねー。
「でも2人でお弁当食べて、ジェラート食べるなんてデートみたいだね。沙和もやるじゃないの」
「わ、私と島崎くんがデート??な、なに言ってるのよ、ちなちゃん!!」
「だってさー、やってることが爽やかな高校生のデートの見本みたいなんだもん。もー、彼氏がいない私にはまぶしい話題よね~」
案の定、沙和の顔は真っ赤だ。からかいすぎただろうか。
「・・・た、確かに最近、島崎くんのそばにいると前みたいに緊張するのは減ったけど・・・そ、その代わり・・・なんか恥ずかしくて・・・」
それだけいうと、沙和の顔はますます赤くなり、うつむいてしまった。うわー、だいぶ変化がでてきたじゃないの。でも自分の気持ちには自分で気づかないと意味がないし。
「あのさ、緊張しなくなったのは進歩だよ。それに私もからかいすぎちゃった。ごめんね沙和」
「ううん。大丈夫だよ、ちなちゃん。そっか・・・私、進歩したんだ」
「そうだよ、今度は島崎くんを見かけたら話しかけてみたら。沙和から話しかけられて驚く島崎くん、見てみたくない?」
「もー、ちなちゃんったら。でも、驚く島崎くん見たいかも・・・でも、いきなり話しかけたら変じゃない?」
「友達なんだから、いきなり話しかけたって大丈夫よ~。しょうがないなあ、最初は私もつきあってあげるよ」
「うん、ありがとう。ちなちゃん」
なんだか私が悪役から姫を助けるいい魔法使いになる日が近そうだ。でも王子のほうには協力はしないけどね。