七夕のやきもち
うちの学校は七夕が創立記念日だ。せっかくだからと何年か前の生徒会が学校に掛け合い、毎年7月1日から7日までは屋上に笹が飾られ、その期間だけは屋上に上がることができるようになっている。
各クラスに色とりどりの短冊が配られ、毎年何を書こうか考えるのが結構楽しい。
放課後、私とちなちゃんもジュースを飲みながら願い事を考える。
「沙和は今年の願い事は何を書くの?」
「ん~、やっぱり“大学合格”かなあ。ちなちゃんは?」
「私は“満足する絵を描く”かなあ。美術部で絵を描くのも今年が最後だから“これ!”と思える一枚が描けたらいいなと思うわけよ」
「なんかちなちゃんらしい」
私が感心していると、なぜかちなちゃんがにやにやしている。
「でもさ、せっかく七夕で織姫と彦星が出会うんだから誰か恋愛がらみの願い事でも書けばいいのにね~」
「そこでどうして私を見るのよ」
「いや、なんとなく?さーて、ぱぱっと書いて屋上に飾りに行こうよ。どうせならいい場所につけたいじゃない」
そういうと、ちなちゃんは短冊を取りに行ってしまった。まったくもう、恋愛がらみの願い事なんて、学校の短冊に書いてどうすんのよ。
でも、もし書くとしたら・・・・やっぱり素敵な彼氏ができますように、とかかなあ。そのとき、なぜか頭に島崎くんがぽんっと浮かんでしまった。
え?!なんで島崎くん??そ、そりゃ島崎くんを前にしても以前よりは緊張しなくなったけど、やっぱりあの声の威力は今も絶大で、耳の近くで言われるとすごく困る。でも、それは悪いほうじゃなくて、どきどきしちゃうほうの困るで。
そして数学を教えてくれたり転びそうなところで手を貸してくれたりと島崎くんは優しい。
「・・・でも、きっと、違うよね・・・」
「何が違うのよ」
「わ、わあ!ちなちゃん。いつの間に戻って」
「何でそんなに動揺してんのよ、変な沙和。短冊書かないの?」
「え?あ、書くよ」
私は急いで “大学合格”と取ってきた青の短冊に書いた。
屋上に行くと、3本の大きな笹は既に短冊でカラフルになっている。
「さ!いい場所探して飾るわよっ」
「うん、そうだね!」
屋上には既に先客がいて、にぎやかに飾り付けをしていた。あ、島崎くんがいる。一緒にいるのは同じ男子組の人と、女の子たち。
「へー、理系クラスの女子も来てるんだ。男子が一緒だと高いところにつけてもらえていいなー。あれ、島崎くんじゃない」
「え、あ・・・そうだね」
島崎くんは私たちに気づくことなく、クラスの人や理系クラスの女の子たちと談笑している。そのうち一人の女の子が短冊をつけるのを頼んだらしくて、笑顔で受け取って飾ってあげてる。
なんかやだな。島崎くんが他の女の子に私に見せるのと同じ笑顔で応対するのを見るのが、すごくいや。
「沙和、私たちも島崎くんたちに頼んじゃおうよ」
「だめだよ、ちなちゃん。楽しそうにしてるとこ邪魔しちゃうじゃない」
「・・・・えー、そうかなあ」
「そうだよ!ほ、ほら、このあたりに飾るのなんてどう?」
私はそう言って、島崎くんからは見えない場所に移動した。
「・・・・確かに、ここは飾ってある短冊が少なくていいかも。手を伸ばせば結構いい場所に飾れるね」
「で、でしょう?ここにしようよ、ちなちゃん。さっさと飾って帰ろう?」
「・・・・そうだね。さっさと飾って帰ろうか。帰りにお茶でもしてく?」
「うん、いいよ」
ちなちゃんは、私の態度がちょっと変わったことに気づいているはずなのに何も言わないでいてくれた。
島崎くんが女の子に人気があるのなんて知ってるくせに、どうして私は自分にだけ優しいって勘違いしちゃったのかな。
そして、どうしてこんなに気持ちがモヤモヤするんだろう・・・・。