恋のかけらと1学期中間テスト-後編
ちなちゃんに事の成り行きを話したら驚いたあとに感心したような顔つきでつぶやいた。
「鈴川先生って、天然?」
「ちょっと、ちなちゃん。先生に対して天然って失礼だよ」
「あー、それもそうだよね。じゃあ何も知らずに縁結び・・・そっちのほうがすごいな」
「は?縁結びって誰と誰?」
「お子様な沙和には分からない話だよーん」
そういうとちなちゃんは笑ってそれ以上は教えてくれなかった。
「ちなちゃん、なんでそんなにニヤニヤしてるのよ?」
「まあまあ。これで数学の成績上がったらラッキーじゃない」
「それはそうだけど。どうしよう、緊張しちゃうよ」
「ちょっと緊張感あったほうが頭に入るんじゃないの?」
「うっ、それもそうかも」
確かに、ちなちゃんの言うとおり島崎くんの声に緊張してるほうがピシッと勉強できるような気がした。
中間テストの範囲が発表され、島崎くんと一緒に勉強していた。明日から中間テストだ。
「・・・北条さん、どうしたの?もしかして分からなかった?」
緊張しなくなったはずなのに、やっぱり間近で聞く声はぞくっとする。
「ご、ごめんね。ちょっと分からなかった」
「そっか。じゃあもう一度説明するね」
私は今度こそ島崎くんの説明にきちんと耳を傾けた。
「・・・で、この公式を使うんだ。ほら、そうすると証明されるよね」
「なるほど。あの、次の問題は自分でやってみるから、島崎くんは自分の勉強して?」
「そう?」
私がそう言うと、島崎くんはちょっとため息をついて、分からなくなったら聞いてと言い自分の教科書を開いた。
自分で問題を解きながら、隣の島崎くんをちらっと見る。
教科書を左手でめくりながら右手でシャープペンシルを走らせ、ときどき頬杖をついて考え込んではいるものの、楽しそうに数学の問題を解いている。
そういえば国立理系クラスって、系列クラスよりはるかに専門的な授業をしていると聞いたことがある。確かに島崎くんの広げている教科書は、私の見たことないものだ。
ちらっと見えた内容も数式がいろいろありすぎて見ているだけで目まいがしそう・・・・などと見ていたら、島崎くんと目が合ってしまった。
「どうしたの北条さん。分からないところでもあった?」
「あ、あのね。島崎くんの教科書が私の使ってるのと違うなあと思って、つい見ちゃった。ごめんなさい」
私が小声で謝ると、島崎くんはふっと笑って私に教科書を見せてくれた。
「北条さんが使っている教科書よりちょっと専門的なんだ。分かると結構面白いよ」
「そうなんだ・・・うーん、難しそうだね」
そう言った島崎くんの顔が、なんかいつもと違って見える。隣の席同士で話していた頃と変わらないはずなのに。
「ところで北条さん、さっきの問題はできた?」
「う、うん。できたよ」
私がノートを渡すと島崎くんが真剣に見始めたので、私も隣で息を潜める。
「・・・うん、合ってる」
「はあ、よかった~」
解答が合っているのにホッとして思わず本音がもれてしまい、島崎くんが私を見てくすっと笑った。
一緒に勉強した日は一緒に帰るのが当たり前になっていた。だけど今日で最後だ。
「島崎くん、自分の勉強が忙しいのに数学教えてくれてありがとう。きっと今までで一番の点数が取れそうな気がする」
「北条さんなら大丈夫だよ」
島崎くんに言われるとなんか本当に取れそうな気がしてくるのはどうしてだろう。そして同時になんかドキドキする。でもそれを知られたくないんだ。
「そ、そうかな。島崎くんに言われるとそうかなって思っちゃうよ」
「北条さんは俺の勉強を邪魔してないよ。むしろ一緒に勉強してるとモチベーションがアップするんだ」
モチベーションがアップ・・・ああ、人に教えるのが気分転換になるって言ってたものね。
「私に教えていると、気分転換になったから?」
すると島崎くんが私のほうを見て、ちょっとかがんだ。ち、近い・・・んですけど。
「・・・北条さん」
「は、はいい?」
「それも理由だけど、本当の理由を知りたい?」
「え。し、知りたいといえば知りたいかな」
なんか興味ないとは言えない雰囲気なんですが。私がそういうと島崎くんは、にやっと笑って耳元に唇を近づけた。
「・・・今はまだ教えてあげない。さ、帰ろうか。北条さん」
固まる私の手を島崎くんは当たり前のように取った。
「し、島崎くん。ま、まだ暗くないから大丈夫だよ。手をつながなくても」
私があわてて手を離すと、島崎くんがなぜかちょっとムッとした顔になる。
「どうして?」
「だ、だって、この間手をつないだのは暗くて危なかったからでしょう?」
「・・・どうしてそんな解釈になったか、聞いてもいい?」
「ちなちゃんに聞いたら、夜道を歩く気遣いで男の人が手をつないだりするよねって。違うの?」
「・・・・なるほど・・・村上さんか」
島崎くんはそれだけいうと、なぜか苦笑いをした。