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伏見城は三日で落とすのよ!(七)

 左近ちゃんになって、長谷家部の奴を叱咤激励。こいつの長宗我部盛親に働いてもらわないと勝てるものも勝てないのだ。

 俺はゲーム上、左近ちゃんになっている。このゲーム。自分のリアル映像をゲームに移し替えるから、通常だと男キャラのまま、ゲーム上で動くことになる。リアルで女装して左近ちゃんになれば、カメラで読み取ったプレーヤーデータを変換してキャラが女の子になるが、それでは時間がかかる。


だから、レアアイテム「変化のつえ」を使って、女の子版島左近に化けている。ズカズカと長谷家部扮する、長宗我部の本陣へ入っていく。


「あっ!左近ちゃん!」


長谷家部の奴がうれしそうに立ち上がる。

その頬をバシっと叩く。そう俺が美鳴に叩かれた時みたいに!


「守人さん!わたしはあなたを見損ないました!」

「左近ちゃん…でも、僕は君がいないから、騙されたのだと思って」


「だから、見損なうんです!わたしを全然信じてくれてないんじゃない!」


 俺はこのセリフ、非常にバツが悪かった。でも、続ける。


「わたしがいなくても、守人さんは、中心となってこの城を攻め落としてるとばかり思っていたのに。ぼーっとしちゃって、カッコ悪いです!」


「ご、ごめんなさい。左近ちゃん」

「わたしのためにカッコイイ、守人さんでいてください!」


「は、はい!」

「それでこそ、わたしの守人さんです」


「左近ちゃあ~ん」


長谷家部の奴、俺を抱きしめようと大きな体を寄せてきて、両手を広げる。


(ヤバイ!)


 俺は瞬時に交わす。ゲーム上のキャラでも抱きしめられるのはごめんこうむる。


「守人さん、そんなことは後で。今はやることがあるでしょう!安国寺隊や長束隊に遅れを取るようじゃあ、もう絶交ですからね!」


「わ、分かりました!あと終了時間までに必ず、本丸まで落とします」


長谷家部の奴、自軍の長宗我部勢に下知し、激しい攻撃を開始した。時間は9時35分。あと25分でゲーム終了である。


「鳥居氏、西軍の奴ら、バカみたいに攻撃してきましたよ」

「内藤氏、これはそろそろ、潮時かもしれない」


「そうですね。あと25分でもう10万円稼ぎたいところだけど、これ以上は危ない。金に目のくらんだ奴らは、まだ戦いたいようですが」


 そう伏見城守備隊の内藤家長ないとういえなが役のプレーヤーは、守備側の大将、鳥居彦衛門役プレーヤーにそう話しかけた。二人共、戦闘1日につき10万円という破格の条件でこのアルバイトを引き受けたが、まさか伏見城の守備隊を命ぜられるとは思わなかった。(どおりで条件がいいはずだ!)しかも、1日付き10万円だから、少しでももらえるお金を増やそうと努力する。


 雇い主は人間心理をよく把握していると、鳥居彦衛門役プレーヤーは思うのだが、頑張りすぎてキャラを失うのは勘弁してくれと思っていた。自分の本来のキャラは武田信玄で、これまでゲームで使った金額は50万円は下らない。となると、あと2日持たせないとロストと引換えでは割がわないのだ。


「今日で30万円稼いだ。口座に確かに振り込まれている。ということは、キャラの命を取られなければ、まる儲けだ」

「では、鳥居氏、例の作戦やりますか?」


「ああ。西軍で一番ヘボいのは、松の丸を攻めている奴らだな。本丸から最も近くて助かった。あの長束隊を利用しよう」


そう言って、行動を開始した。


 あらかじめ言っておくが、史実では、この伏見城攻防戦、大将の鳥居彦右衛門は、最後の一兵まで奮戦し、最後を遂げている。家康の家臣はすべてそうであった。城は長束正家の調略で甲賀衆こうがしゅうが、裏切り、城を破壊したことでついに落城となったのだ。この物語のように、命を長らえるために作戦を練るようなことはしてはいない。


 西軍の猛攻撃で、治部少丸が小早川隊によって占領されたのが、9時45分。続いて三の丸も突破されそうであった。鳥居彦衛門役プレーヤーと内藤家長プレーヤーは、本丸に味方の兵を集めつつ、松の丸から長束隊に矢文を送る。


長束正家殿

貴殿に降伏したい。松の丸の壁を破壊するので、そこから入るべし。

この功をもって、以下、2名の命を救ってもらいたい。

鳥居彦衛門 内藤家長


矢文の内容を見て、わたしは困惑した。

え?鳥居彦衛門って、この城の大将じゃない?

大将自らが、降伏するって? わたしに?


訳が分からず、矢文の返事をOKすると、長曾我部隊が激戦をしている北門ではなく、わたしの軍の正面の壁が、ドンドンドーンという音と共に、破壊される。同時に数名のお侍さんに護衛された二人がわたしの陣に逃げ込んできた。


「長束さん?降伏します。OKしてください」


二人がそう言う。


「は、はい」


私はそう言って、画面に出ていた


降伏を許しますか?


という問いかけに、即効でYESを押した。


「やった!ラッキー、素人で助かった!」


二人はそう言ってログアウトする。


大将が降伏したので、本丸で戦っていた他の武将も降伏し、戦闘は終わった。9時58分。

ついに伏見城が落城した。


ぎりぎりセーフで落城。もちろん、この状況なら、次の日でも落城したと思いますが。それにしても不思議な敵の行動・・・。実はゲームルールの盲点をついた作戦みたいです。

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