わたしの旗の下に集まらないといけないんだからね!(四)
敵が登場しました。若いのにやり手で金持ちでイケメン。そういう奴は大抵、腹黒いのですが、今回の敵は強大で、ヒロイン美鳴を狙っています。どうやって、守るのだ?ゲームしか脳のない主人公。
「東宮院様、石田美鳴様に動きがあるようです」
「あの娘が今更、何をしたところで、僕の勝利は変わらないのだが。一体、彼女が何をしているというのか」
50階建てのオフィスビルの最上階の社長室の大窓から、眼下に広がる景色を見て東宮院是清は、秘書が入れたコーヒーを味わい、密かに探っていた探偵の報告を聞いていた。
この豪華な社長室に似つかわしくない若者である。年はいくら増して考えても20代後半にしか見えなかった。そして、長身長髪ですらりとした美青年であった。顔は整っており、やや冷淡に見える印象があるが、クールなイケメンと言えば、大抵の女子が納得する男であった。
「戦国ばとる2で名軍師と言われる島大介を味方に引き込んだようです」
「ほう…。そいつは知っているぞ。かなりのやり手だ」
「ゲーム上では108戦88勝5敗15引き分け。初期の頃の敗戦以来、連勝記録更新中。どんな敗戦の濃い戦いでも引き分け以上に持っていく腕前だそうです」
「ふふふ…そんな男をたらしこんだか…美鳴ちゃん、意外とやるねえ。せいぜい悪あがきをしてくれたまえ。だが、僕の勝利は確定している。ゲームでもリアルでも」
「で、他に美鳴に味方になりそうなのはいるのか?」
「ご学友が何人か、加わるそうです」
「そうか、素人のお嬢さんたちを集めるのか…。おもしろい!ちょっと余興を考えたぞ。こちらも前衛はアナスタシアのお嬢様方でいこう。監視ついでに調査を頼む」
「はっ…なんなりと」
「美鳴に恨みを持っている子を何人かピックアップしてくれ」
「恨みですか?」
「ああ。美鳴はあれでも正義感が強すぎて、場が読めないことがよくある。つまり、正直すぎてバカを見るタイプだ。くだらん理由であの娘を嫌う女が多いだろう」
「なるほど…そういった娘をたらしこむのですか」
「人聞きが悪いな。たらしこむなどと…」
実際、東宮院是清はその美形と圧倒的な財力、そして頭の良さを武器にして女をモノにしてきたのだが、今回は余興にその力を使おうと戯れで思ったのだった。
(美鳴…君もあと少しで、すべて僕のモノだ)
是清は、カップを机に置くと、秘書に時間を尋ねる。「5時です」の答えに、東宮院は、
「勤務時間終了だ。探偵くん、君は引き続き任務継続。我社は残業をしないのがモットーだ。秘書くんたちは帰っていい。僕はちょっと休憩で楽しんでいくから」
そう言うと机のパソコンをクリックして、ネットゲームにつなげた。パスワードを打ち、IDを入れる。ネット名、「東軍」操るキャラは「徳川家康」であった。
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「おっ…雪之ちゃん、なかなかいいぞ!」
俺は真田雪之ちゃんとゲームで一緒に戦っている。放課後の部活だ。相変わらず、女装して高等部の歴研の部室に顔を出しているのであるが、今日は赤い眼鏡ちゃんも、愛ちゃんもまだ来ていない。美鳴は眠いと言って、ソファで可愛い寝息を立てている。
こいつは黙っていれば美人だから、寝顔もめちゃ可愛い。だが、そんな寝顔を見惚れる間もないほど、雪之ちゃんの真田幸村は、ゲーム画面で暴れていた。
信州の攻防戦のシナリオだが、徳川方の大軍を迎え撃って戦うかなり勝ち条件の厳しいものだ。だが、雪之ちゃんはわずかな兵を巧みに操り、大軍を翻弄している。俺は軍師として参加しているが、口出ししなくてもよいくらいの采配ぶりだ。
「左近お兄ちゃん、敵が下がったアルが、陽動の可能性は高いアルか?」
「そうだな、雪之ちゃん、少し追撃はやめて、こっちが引いたほうがいい」
「う~。ゲーム上じゃあ、幸村アル!」
「はいはい、幸村殿」
俺の策を受け入れて雪之ちゃんは300の足軽隊を引かせると、敵の退却が止まり追撃してきた。狙いは上田城に並行追撃して侵入することだろう。
「左近お兄ちゃん、任せたアル!」
「OK!幸村殿」
俺は伏せていた自分の指揮する鉄砲隊300で猛射撃を加えた。さらに真田の弓兵200に射撃をさせる。敵の追撃軍が混乱するのを見計らって、雪之ちゃん自身が率いる騎馬隊500が突入する。徳川軍5000は散々敗れ、本軍の1万まで巻き込んでしまう。後方に下がるしかない。時間切れでこちらの勝利が確定していた。
俺は例の3D体感ゴーグルを装着しているから、武将姿の雪之ちゃんを見る。
(可愛い~赤い鎧がめちゃ似合う!)
だが、はっと思い、頭を左右に振った。
(いやいや、雪之ちゃんは中1だし…。俺はロリコンじゃない)
それにしても若いっていいもんだ。複雑な兵を分割して操作するシステムを難なくこなすし、兵種の選択もするどい。ゲームの申し子といってよいくらいの天才的なゲーム運びであった。あと運がいい。このシナリオは天候に左右される。序盤に雨が激しく降ってくれて敵を足止めしてくれたのも幸いであった。
「史実でも真田昌幸(幸村の父)は、散々、家康を破って、勝った戦いだけど、ゲーム上だとなかなか勝てないんだよ。所詮、数がものをいうシステムだし」
「徳川家康は、これで城攻めが苦手だと言われるけれど、雪之がこのシナリオが得意だと敵も警戒するアルな」
(するどい…。確かに雪之ちゃんの言うとおりだ)
こういったシナリオで勝利を挙げておけば、いずれ戦う関ヶ原においても信州上田城を攻めるのに慎重になるはずだ。俺は小さいながらも雪之ちゃんに名将の才能を感じてしまった。
(うんうん…君はすごい)
そう言って雪之ちゃんの頭を思わず撫でなでしてしまう。
「わあい~お兄ちゃんに褒められたアル」
嬉しそうに俺に抱きついてくる雪之ちゃん。だが、後ろから殺気が漂う。いつの間にか、美鳴が起きて立っている。
「あらまあ…ずいぶん、仲がよろしいようですけど…」
「み…美鳴」
美鳴は俺の胸ぐらを掴むと小声で
「雪之ちゃんは、中学校1年生で、3月生まれ」
「そ…それが…どうしたんです?美鳴様」
「つまり、12歳なの。大介、あなたどんなけ、ロリコンなんですか!?」
「いや、違うって、それは誤解…というか、全然、見当違いというか」
「じゃあ、あなたは愛ちゃんみたいな巨乳が好きなんですか?」
話が何だかそれてないか?
「いや、巨乳も捨てがたいけど、俺はほどほどが…」
「あ、そう」
美鳴は自分の胸元を見て、ちょっと嬉しそうな顔を一瞬したが、また怖い顔をして、
「私の友人に手を出したら承知しないからね。あなたは私にキスしたんですから!」
(おいおい…キスだけでどんだけ縛るんだ。もし、美鳴と最後まで行っちゃったら…)
それはそれで、かなり窮屈な暮らしを強いられそうだ。いくらモテない俺でも、それはちょっと困る。
「美鳴お姉ちゃん、何、二人で話しているアルか?仲がいいアルな?」
雪之ちゃんが不思議そうな顔をしている。そりゃそうだ。二人でこそこそ話しているのは、雪之ちゃんにとって見れば、二人が付き合ってると思っても不思議じゃないだろう。
「雪之ちゃん、誤解です。大介は、軍師で私の部下ですから」
時計が5時を告げていた。どうやら、愛ちゃんと舞さんは顔を出さないらしい。メールでは行けたら…と美鳴に言っていたから、来なくても仕方ないが。
「部活終了ね。じゃあ、左近ちゃん、今日、これから暇?」
美鳴が帰る支度をしながら俺にそう言った。
「別にないけど…今日はバイトも休みだし」
「そう、それなら私に付き合いなさい!」
「えっ?」
俺は驚いた。美鳴から誘われるとは…。しかも夜のデート?
だが、そう叫んでふと気がついた美鳴は、顔を赤くして慌てて、
「あ、だからと言ってデートじゃないわ。そんな女の格好した男とリアルでデートするはずがないじゃない」
「はいはい…これは高等部エリア出たら脱ぎますけど」
俺は履いていたスカートをちょっと両手でつまんだ。この姿が板についてきてしまうのは恐ろしいのであるが。
「帰りに病院によって欲しいの…。私の親友を紹介するわ」
「親友?」
どうやら、例の休学中の美鳴の同級生に会いに行くらしい。
いよいよ、私の一番好きなキャラが登場します。美鳴の同級生で一番の親友です。
病弱という設定ですから、もうお分かりですよね?