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虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うじゃない?(四)

東宮院の屋敷で、家老二人(主人公と舞さん)の行方を問いただす美鳴ちゃん。どうも、犯人は違うようで・・・。

「話が長くなりそうだ。僕にはコーヒー。彼女には紅茶を持ってきてくれたまえ」

「はい。旦那様」


執事が下がる。

「わたし、お茶などいりません!」

「落ち着いて話をしましょう。美鳴嬢、まずは座ってください」


 しぶしぶ美鳴は座る。おそらくは、是清の命令を予想していたと思われる執事が、すぐさまコーヒーと紅茶を用意して小さなワゴンテーブルで運んで来たので、話を中断しなければならなかった。

とぽとぽと抽出された茶葉がいい匂いを立てて部屋に広がる。最高級のキーマンティの茶葉だ。その宝石のように澄んだ赤茶色の液体を一口飲み、美鳴は是清を睨みつけた。いつ見ても、キザで高慢な男だ。


「で、あなたはなぜ、僕が君の家老二人を拉致したと思ったのかな?」


是清は小さい子に話すようにゆっくりとたずねた。馬鹿にされたと思った美鳴が、激しく反応する。


「そんなの!当たり前じゃない!わたしの重要な部下がいなくなれば、あなたはゲームで楽勝じゃない!誰が考えてもそうよ」


(まあ、そう考えるのが普通だろうが、相変わらず頭が固い。敵である僕の性格を考慮に入れないセオリー通りの結論)


 是清は美鳴の胸ぐらを突然掴んだ。表面的にはレディに対しては優しい態度を取る彼にしては、らしくない行動だ。驚く美鳴の顔をにらみ、激しい口調で言った。


「バカにするな!この世間知らずのバカ娘が!」

「と、東宮院」


「お前たちなど、束になってかかってきてもゲームでは僕には勝てない。島左近がいようがいまいが、僕の勝ちは確定している。なのに、どうしてこの僕が、リアルで拉致などという汚い手を使わねばならぬ。そう答えは否である。この件に関しては僕は一切関係ない」


そう言って、掴んだ胸ぐらを離した。フラフラと美鳴は椅子にへたりこむ。


「じゃあ、一体誰が?」

「さあ、分からないが。意外と身内に犯人がいるんじゃないか?」


「身内に?」


「いずれにせよ。開戦は二日後だ。例え、島君がいなくても君は僕に挑まなくてはいけない。それは既定事項。そして、関ヶ原の地で君が敗れ、僕に頭を垂れて許しを請うことも既定事項だ」


 美鳴は偉そうに立って自分を見下ろす是清を、下から睨みつける。憎しみで爛々と燃える炎が宿っている。こんな奴に負けてたまるか。多くの従業員とその家族、自分の一族、両親、それに自分がかかっているのだ。(こんな奴に…)


美鳴は椅子から立ち上がった。もう迷いがない目になっている。


「わたしは信じるわ。大介は、島左近は戻ってくるわ。わたしのピンチにはいつも駆けつけてくれるから…」


「ほう。その信頼、どこから来るのかな?長年の友人ならともかく、彼は出会って1ヶ月でしょう」


 是清にしてみれば、友人ですら信用はできないと思っていた。それなのにちょっと付き合った人間にこんな期待をする美鳴の気持ちが理解できないのだ。


(所詮は人間は「金」金に目がくらめば役に立つが、それがなければ人のためになど働くものか。特に追い詰められた人間は、そういうものだ。まだ年若いこのお嬢さんには理解できないだろうが)


「大介はわたしを守ってくれるって言った。だから、わたしは信じる!」


 美鳴はそう叫び、部屋を飛び出した。それを目で追いながら、是清はスマホを取り出して、連絡する。新しいエージェントにだ。前のエージェントの本多アギトは、裏切った末にこちらの追っ手から逃走し、事故って死んだらしいとの報告を夕方に受けている。あの探偵には十分な報酬を与えていたはずだが、金すらも信用おけないのだ。



「ああ、僕だ。ちょっと調べて欲しいことがある。ああ、そうだ。島大介、狩野舞という大学生カップルだ。そう、至急に調査してくれ」

 


いよいよ、決戦の日が近づく。


石田美鳴にとって必要不可欠な主人公を欠いて、決戦に突入する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 徳川家康の屋敷に逃げ込んだ石田三成はどうなったか?

そう。彼の目論見通り、家康は三成を助けた。屋敷に押しかけ、三成を引き渡せと激しく迫る七将に三成は渡せぬと突っぱねたのだ。


 家康にとっては、豊臣家を二分し、その天下を自分の手に入れるためには、石田三成という人材がまだ必要であった。憎悪の目を自分に向けさせないための生贄。そして、自分の天下取りの戦いの敵役として必要であったのだ。


そして、七将に争いをする愚を説いた。争っては豊臣家のためにならないと言い放った。これで、自分が豊臣家の天下を簒奪するという野心がないことを演じた。あくまでも豊臣政権の後継者、豊臣秀頼とよとみひでよりの後見者としての立場を明確にし、豊臣恩顧の武断派大名の心を掴んだのだ。家康は豊臣秀吉が設置した五大老五奉行制度ごたいろうぎぶぎょうせいどでの筆頭大老としての立場を大いに利用したと言える。


命を救われ、してやったりの石田三成であったが、結局は家康によって、奉行職を追われることになった。体よく引退勧告を出されたのだ。命の恩人の勧めを断れるほど三成も厚顔無恥ではなかった。家康の方が一枚上であったのだ。


 今回の出来事も結局は、東宮院是清に有利に働くことになる。なにしろ、美鳴が信頼する島左近(島大介)が不在の中、関ヶ原の戦いが始まることを知ったのだから。


いよいよ、決戦です。それにしても主人公は今どこに・・・。


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