決戦前夜だからと言って、油断しないでね!(八)
長谷家部くんデート編の最終章。でも、大変な事態になってしまいます。
(うわああ~可愛い!可愛すぎる!)
長谷家部守人は稲妻に打たれたかのように、全身がしびれた。
「左近ちゃん!」
ガバっと長谷家部の奴、俺を抱きしめる。(やめろ~っ!キモイ、読者様が不愉快になる!)
「ちょ、ちょっと、ダメです!守人さん」
俺は長谷家部の分厚い胸を手で押す。思わず、男の力で押したので、長谷家部の奴、1mはのけぞった。
「た、度々、ごめん」
「そういうことは、もっと親しくなってからです!」
自分は付き合ってもいないのに美鳴と3回もキスしているのに、それは棚に上げた。そうだ。男女の付き合いというものは段階を踏んで行うものだ。
いきなり、キスとかありえない!
長谷家部の野郎、俺のセリフを聞いて、財布の入っているポケットを思わず触っている。財布の中身のパッケージ…あわよくば、本日、初使用の予定だったが、やはり、それは早かったと心の中で断念したようだ。
まあ、そんなことは知りえもしない俺は、プランBを忠実に実行する。プランBは徹底的に奴を左近ちゃんに惚れさせ、西軍の中で大活躍させる。勝利したら、左近ちゃんは消えるのだ。謎の美少女、失踪!俺が男に戻るだけだから、絶対に見つからない。長谷家部には悪いが、奴には新しい恋に生きてもらうプランだ。
(なんだか、男を徹底的に利用する悪女プランだが)
「とにかく、二日後の決戦。長谷家部さんの長宗我部勢の働きにかかっています。頑張ってくださいね!」
「は、はい!がんばります!左近ちゃん」
直立不動で敬礼する長谷家部。何だか、ちょっと可哀想になってきた。
(仕方がない。じんましんが出そうだが…)
俺はちょっとだけ、背伸びをして長谷家部の頬にキスをする。硬直する長谷家部。
「それじゃあ、サヨナラ!」
俺はダッシュでその場を離れる。忘れたい記憶NO.1決定である。
(NO.2はパーティの関節キスだろうが)
「あっ、待って、左近ちゃん!まだ、デートの続きが…」
長谷家部の奴が硬直を解いて、追いかけてきたが、俺は街の通りに紛れ、瑠璃千代の舞さんの隠れているビルの合間に身を潜めた。急いで着替えをして、化粧を落とす。男の格好に戻り、舞さんと腕を組み、カップルのフリをして街に戻る。長谷家部の奴が、左近ちゃんを探しているのを見かけたが、もう絶対見つからないだろう。
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「お前、本当によくやるよな」
腕を組んでいる舞さんが感心したような口調でつぶやく。
「これで奴は西軍屈指の猛将になってくれるはずさ!はっはっは…」
俺の笑いはちょっと投げやりである。猛将を手に入れた代わりに、何だか大切なものを失った気がする。
(不快になった読者様も失った気が…)
舞さんの組んだ腕がグググ…と舞さんの胸に誘導される。スレンダーボディで、瑠璃千代ほどのボリュームはないが、ぽにゅぽにゅと何かが当たる。何げに後ろで尾行している瑠璃千代たちに気づかれないようにしているような感じだ。
「そういうお前の姿を見ていると、男もいいなと思う」
「えっ?舞さん、なんて言った?」
「もう、肝心なところを聞いてないのだから!バカ!」
舞さんが赤いメガネの上から上目遣いで俺を見る。そしていきなり、唇を重ねてきた。
(えっ!舞さん!?)
「わ!抜けがけとは卑怯よ!正妻の目の前で不埒な行い、許せませ~ん!」
と瑠璃千代の声がイヤホンから聞こえて、着物姿の瑠璃千代が駆けてくるのを見ながら、舞さんのとろけるような唇の感触に頭がボーッとなる。が、そのボーッが、ガーンという衝撃に変わる。遠くの方で舞さんの叫び声と瑠璃千代の声が聞こえる。
「何だ、お前ら、やめろ!放せ!」
黒スーツの男たちが、舞さんと殴られてぐったりしている俺を取り押さえ、黒いヴァンの後部座席に押し込めようとしている。舞さんは必死に叫び、抵抗するが、白いハンカチを当てられると意識を失ってしまう。瑠璃千代が何人かを投げ飛ばしているのが見えたが、俺は車のドアが閉まり、発進するところで記憶が途切れた。
えっ!主人公と舞さんが拉致される!衝撃の展開。決戦は2日後なのに・・・。
この二人がいないのに美鳴ちゃんは戦えるのか?