決戦前夜だからと言って、油断しないでね!(六)
まだまだ続く、長谷家部君とのデート編。女の子が出てこないのをお詫びいたしますです。はい。
「大介、ナイスだ。奴のハートをまた掴んだな」
と舞さん。
「私も旦那様にこんな可愛いアプローチしたいですわ」
と瑠璃千代。(可愛いか?これが?)
遠くで、
「もっとやれ~」「もっとくっつけアル」
と愛ちゃんと雪之ちゃんの声がする。
映画の方は面白かった。鳥居強右衛門が武田勝頼の命令に逆らい、城に向かって援軍が来ると叫んで、槍で殺されてしまうシーンなど、歴史好きには感涙ものであった。俺が思わず目をウルウルさせていると、長谷家部の奴、急に俺の肩に手を回し、頭を軽く自分の胸の方に押し付けがった。自分の胸で泣けということらしい。
(キモいことするな、バカやろう!おかげで感動のシーンが台無しだ)
長谷家部の奴ももらい泣きしているようで、でかい体育会系男子なのに目からぼたぼたと涙を流している。(マジか?)
考えてみれば、コイツも悪い奴ではない。心がまっすぐ(下心もまっすぐだが)な純情でイイやつなのだ。そんな奴を俺は卑怯にもだましている。ちょっと心が傷んだが、どさくさに紛れて、俺のひざの上に手を置いたり、肩に手をかけてきたりと、映画館の暗闇の中で果敢にアプローチしてくる。その度に、手でさりげなく払い除けたり、ちょっとつねったりして防御する俺。だが、終いにいつの間にか、指を絡まされて手を繋いでいる自分に気がついた。
(うあっ!いつの間に?不覚じゃあ~)
映画が終わって、長谷家部が予約したというイタリアンレストランへの向かう。
(こちら、左近。敵(長谷家部)は積極的。奴のペースに巻き込まれ中。どうぞ。)
(了解。旦那様。気をつけてください)by瑠璃千代
(そうだぞ、大介。くれぐれも男に触られてあっちの世界の住人になってしまうな)by舞さん
あっちの世界って…そんな世界は俺も長谷家部の奴もまっぴらゴメンだろう。
(あ、誰か近づいて来るぞ!)
舞さんの声に俺は振り向く。長谷家部の奴に手をつながれて、ちょっと遅れ気味に歩いていたのだが、こちらに話しかけてきた3人の男。
「おい!長谷家部」
「ああ、先輩」
どうやら部活の先輩らしい。
「お前、デート中か?」
「うあっ、可愛い!この子、この前の写真の娘か?」
「やるな、長谷家部」
3人の屈強な男たちは俺たちを囲んでいる。
「あの、し、島です」
「知ってるよ。左近ちゃんだよね」
「コイツがいつも君の名前を叫んで練習しているからなあ」
どうやら、長谷家部の奴、いつもタックル練習時に俺の名前を叫んでいるらしい。
(最近、たまに悪寒がする時があったが、頼むからそんなキモいことしないでくれ)
俺はあまり話さず、いじられている長谷家部と先輩のやり取りを見ている。俺にメロメロな長谷家部はともかく、あまり話すといくらハスキーボイスといっても、男だとバレル可能性がある。現に一人が俺の顔をじっと見て、何か思案顔である。
「う~ん。君、どこかで見たことあるんだよなあ…」
(はい。俺もあります。火曜の3限、フランス語の授業、一緒です)
語学の授業は少人数だから、顔を覚えられていても不思議じゃない。
「まあまあ、先輩。僕たちは昼飯予約してるところあるんで」
と長谷家部の奴が割ってはいる。(セーフ。思い出されたら困るところだった)
どうやら、長谷家部の奴、先輩が俺にちょっかいをかけてきたのだと思い、急いでこの場を離れようとしたいらしい。それは俺も賛成だ。
「も、守人さん、時間がないわ!」
「あ、ああ。そうだね、左近ちゃん」
「おーっ!お前、彼女に守人さんと呼ばれているのか」
「やるねえ…長谷家部くん。新婚夫婦みたいだねえ」
「じゃあな。これ以上はお邪魔虫だろうからな」
そう言って、3人の先輩は、グットラック!と言って別れた。3人とも片手の親指を人差指と中指の間に挟んだグーで長谷家部の奴を激励すると、長谷家部も同じ合図を送ったのを俺は見逃さなかった。
(コイツ、イイやつなどとは、前言撤回!下心丸出しの狼男じゃないか!)
今日は早々に帰らないと左近ちゃんの貞操が危ない。
体育会系の男子学生はだいたいこんなノリ・・・という感じで書いてみたのですが、その合図を見た女の子は1kmは引くでしょうね。