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決戦前夜だからと言って、油断しないでね!(五)

早く終われよ~と言われそうな、長谷家部とのデート編。まだまだ、続きます。

 ちょっと早めに向かったのに、もう長谷家部の奴、待っていやがった。この野郎、絶対1時間以上前から待っていたに違いない。なぜなら、すでに汗でシャツがべったりと体にくっついているからだ。容赦なく、夏の日差しが照りつける。


俺は白い日傘をくるくる回しながら(雪之ちゃんの指示)、可愛く手を振り(瑠璃千代の指示)、ちょっと走って近づく。ヒールなので思うように走れない。そんなぎこちない走り方が、またもや、長谷家部のハートを鷲掴みにする。


「守人さん、待ちましたか?」

「いい…」


「はあ?」(上がり気味)

「可憐だ…」


「はあ?」(下がり気味)

「いや、ボクも今来たところだよ!今日はよろしく、左近ちゃん!」


 思いっきり幸せそうな顔をする長谷家部。そして、何故か、バラの花を一輪差し出してきた。だが、長時間握り締められていたので、くた~と俺の鼻先でしおれていた。


(おいおい、どれだけ長時間握ってたんだ)


長谷家部は、キザなシュチュエーションを外したと感じたのか、慌ててそのしおれたバラを噴水のゴミ箱へ投げ入れた。


(バラさん、こいつの馬鹿な演出でごめんなさい)


「映画館、あっちですから、すぐ行きましょう!」


 長谷家部の奴、気を取り直すと俺の右手を掴むと歩き出した。


(この野郎、左近ちゃんがおとなしいと思って、大胆なことしやがる)


 映画館は夏休みだけあって、とても混み合っている。クーラーが効いているから、涼しいのが幸いだ。


「左近ちゃん、映画はどれ見る?やっぱり、女の子だから、こういうのがいいよね?」


と長谷家部は、映画館のポスターを指差した。


「ボクは君だけを愛する」という映画。


今、話題のラブストーリーである。俺は思わず固まった。


(キモ~なんで俺が、男とこんな映画見なきゃいけないんだ!)

「いや、それより、こっちの方が…」


 俺は歴史モノの作品「英雄の城」を指差した。長篠の戦いをモデルにしたストーリーである。武田軍に包囲された長篠城から抜け出し、援軍の要請に向かう鳥居強右衛門とりいいすねえもんが主人公の話だ。どうせ、野郎と見るなら自分が見たい映画にしたいとの判断だったが…。


「え?そうなの!いや、ボクも実はこっちが見たかったんだよねえ~」

(そう言えば、この子、戦国ばとる2の熱烈愛好者だった。そうは見えないが)


と長谷家部の奴、うれしそうな顔をしている。改めて惚れ直したようだ。


(こいつをうれしがらせる必要はまったくなかったのだが)


 初デートだから、おごらせてくれという長谷家部の行為に甘えて、チケット代は払ってもらったが、ポップコーンとジュースはこちらが出す。


「旦那様、ポップコーンとジュースはカップルコンボのLが一番お得です」


というイヤホンから聞こえてくる瑠璃千代のアドバイスに従い、それを注文する。ポップコーンの山とコーラのLLサイズ。何故か、ストローが二本指してある。


(さ、左近ちゃん、大胆。もしかして、誘ってる?)


長谷家部の奴、心の中でガッツポーズしてる。(絶対に)俺は小声でマイクに向かって話す。


「瑠璃千代、お前、後でお仕置きだからな!」

「そんな。瑠璃千代は、旦那様とそれを注文するのが夢だったので…」

「大介、どうせなら、とことん、演技に徹する方がいい」

と舞さんの声。


「先輩、ポップコーンをつまんで長谷家部さんに食べさせちゃえ!」


愛ちゃんの声。これ、絶対楽しんでいる。(畜生!)


それでも俺はひとつまみ、ポップコーンを手に取ると、


「守人さん、はい、あーん!」


初デートでここまでやる女がいるわけない。だが、長谷家部の奴、口を開けている。


(このバカめ!)


ひとつまみをやめて、右手いっぱいにポップコーンを握って、その口にそれを突っ込む!


うぐっ!


長谷家部の奴、目を白黒させている。だが、それをバリバリ食べて俺の額を人指し指で押した。


「こいつう~いたずらっ子だなあ」


あくまでもイタズラで片付ける長谷家部。これは相当におめでたい奴だ。


(よし、次は…)


 LLサイズのコーラを長谷家部の前に差し出す。ストローが二本なので、今から恋人同士のラブラブドリンキングタイムである。顔を付き合わせて飲むのは、ものすごく抵抗があったが、奴の視線をクギ付けにしておく必要があるから、俺は長谷家部の目を見つめながら、コーラを可愛くすする。長谷家部の奴もストローからコーラを飲もうとした瞬間に、俺は奴のストローの根元を指で押さえつける。当然、コーラはそこで遮断される。


(あれ?コーラが上がってこない?)


 長谷家部は、頭の中で軽くパニクっていたが、愛しの左近ちゃんがものすごく色っぽい目で自分のことを見つめてくるので、確認ができない。仕方がないのでもっと思いっきり吸い込んだ。でも、コーラは口に到達しない。


(ど、そうなってるんだ?氷がストローに入って妨げてるのか?)


 長谷家部は、肺活量全開でコーラを吸い込んだ。俺は絶妙のタイミングで指を離す。太いストローからコーラが大量に長谷家部の口の中飛び込む。


「うっ!ゲホゲホ…」


コーラが気管支に入って、長谷家部の奴、鼻からコーラが出てきた。その姿があまりに面白いから、俺は口に入れたコーラを長谷家部めがけて吹き出した。


美少女(?)にコーラを吹きかけられて長谷家部の奴、固まっている。


「ご、ごめんなさい」


 一応、俺は誤ってハンカチを取り出し、長谷家部の顔を拭う。すると、長谷家部の奴、俺の手を握り、


「左近ちゃんって、清楚でおしとやかな子だと思っていたけど、こういうお茶目なところもあるんですねえ!可愛い!」


と言ってきやがった。(おいおい…)


「いやだわあ…守人さんったら。可愛いなんて、照れちゃうじゃない」


いい雰囲気になりそうなので、俺は慌ててそう言って、ハンカチを渡すと始まりかけた映画のスクリーンに目をやる。


主人公、当初の目的を忘れて完全に遊んでいます。

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