わたしと一緒に挙兵するの!しなきゃいけないの!(八)
長谷家部守人。彼女いない歴20年の熱血体育会ゲーマー。レベルが高いだけに西軍に止めておきたい人材の一人。幸い、何を勘違いしたか、主人公の女装姿に惚れて今は、妄想ワールド展開中。コイツのせいで、なりたくもない姿をしなきゃいけないのです。大介、不幸。
「ねえねえ、左近ちゃん。料理持ってきたよ」
そう長谷家部の奴が2つの皿にお寿司やら、オードブルやらを載せてやってきた。母体が大手小売業だけあって、料理の質がいい。お寿司に至っては、自社で出しているパック寿司ではなく、職人が注文を受けて握っている。
俺は長谷家部から、皿を受け取ろうとすると思わず、手が重なってしまい、背中に冷たいものが流れる。ゾゾゾ…という擬音が頭の中に響く。長谷家部の方は、憧れの左近ちゃんの手に触れただけでもう心この世にあらずだ。
(だが、ここからが大事だ)
俺は思い直した。毛利家が加わり、浮竹さんが加わり、早川ちゃんに雪見ちゃんが参陣して、西軍の勢力は10万を超える戦力になった。おそらく、今晩あたりから、一発逆転をを狙う連中の参戦も少しは出てくるはずだ。この長谷家部もその中では重要なキャラだ。美鳴の言葉じゃないが、十分に篭絡しておかねばならない。
(これも美鳴のためだ…。プライドを捨てろ、島大介、お前ならできる!)
俺は箸で皿にあったマグロのお寿司を取った。(もちろん、割り箸は新品だ)
「も、守人さん。はい、あ~ん」
「さ、左近ちゃん!」
あんぐり開ける長谷家部の口に寿司を放り込む。長谷家部の奴、涙を流して嬉しがる。
「うおおおおっ…。彼女いない歴20年の長谷家部守人!ついに、伝説のあ~んをやってもらいました」
(はいはい…俺がここまでしてやったんだ。関ヶ原じゃあ、死ぬ気で戦ってもらわないといけないぞ!)
だが、この勘違いマヌ太郎くんは、やはり粘っこい。自分も箸で寿司を取ると、俺に向かって、
「次は左近ちゃんの番だよ。はい、あ~ん、して」
(ば、バカか、こいつ!)
調子こいてなんてことしやがる。そんな行為は相当仲が進んでラブラブ状態じゃないと女の子はちょっと不快だ。長谷家部の奴、しかも、箸は知ってか知らないでか、自分の使用済みの割り箸なのである。
(こいつと、間接…なんて、絶対、ごめん被る!)
だが、長谷家部の野郎、俺の表情が曇ったことに気づかない。背をかがめて、俺の口元に寿司を近づける。ちなみにネタはイクラ軍艦だったが、この際、関係ないだろう。
(うううう…この場から逃げ出したい。カツラを取って地面に叩きつけたい!)
そう思ったが、俺は客と談笑する美鳴の姿を見た。パーティドレスが映える彼女を見ると、あの夜に抱き合ったあの感触が蘇った。
(俺が守ってやる!)そう宣言した。その決意を思い出せば、このくらいの試練、乗り越えてやるという強い気持ちが沸き起こってきた。
「あ~ん」
俺はできるだけ、可愛く口を開けた。イクラのプチプチが口に広がる。
「もう、守人さんたら、人前で恥ずかしいよ」
俺はコップの烏龍茶を一口飲んだ。長谷家部の奴、何故か、天井に向かって右手を上げてガッツポーズをしている。たぶん、こいつの脳内では、左近ちゃんと熱いキスをしている映像が流れていることだろう。
「あなたにしては、サービスしたわね」
舞さんが小声で俺にそう言う。
「仕方ないだろう。コイツにへそを曲げられたら困るからな」
「ふ~ん。美鳴のためなら何でもするか…。私のためには…してくれるのか?」
最後は小さくて何言ったか聞き取れない。聞き返すと、
「なんでもない」
と言って舞さんは側らを離れた。
「美鳴さんはうらやましいですわ。でも、正妻は私ですからね、旦那様」
瑠璃千代が湯呑のお茶を俺に渡して、そう言った。
「旦那様、私はものすごく寛容ですから、愛人の一人や二人、全然気にしませんわ。むしろ、わたしは男の甲斐性と褒め称えますわ」
(いや、瑠璃千代、その考え方はおかしいぞ)
考えようによっては、こんな奥さんは男の理想だが、瑠璃千代の奴、押しかけ女房を自称するだけあって、ちょっと変わっている。これが美鳴の奴だったら、浮気したら恐ろしい罰が待っていそうだった。
(でも…)俺の脳内で妄想映像が再現される。
朝の出勤。カバンを持ち、急いで靴をはく俺。急がないと会社に遅刻する。パタパタとエプロンをした妻が俺を送り出す。
「あなた、行ってらっしゃい!はい、お弁当よ。瑠璃千代、寂しいから、今日も早く帰ってきね。わたしの旦那様」
そう言って、背伸びをする。チュッ…と軽い口づけ。 立花瑠璃千代バージョン
「がんばって働いてくれよな。(わたしのために)はい、お弁当。今日、早く帰ってくるんだぞ。ま、また、昨日みたいにマッサージしてやるから」
そう言って、背伸びをする。チュッ…と軽い口づけ。 狩野舞バージョン
「大介さん、気を付けていってらっしゃいな。はい、お弁当ですよ。今日も腕によりをかけて作りましたから、味わって食べてくださいね」
そう言って、背伸びをする。チュッ…と軽い口づけ。 小谷吉乃バージョン
「大介くん…離れたくないよ…でも、お仕事があるから、仕方ないよね。」
そう言って、背伸びをする。チュッ…と軽い口づけ。 小西雪見バージョン
「大介!会社終わったら、まっすぐ家に帰ること。いい、約束よ。これ、お弁当だから、味わって食べなさい!それと…目を閉じて」
そう言って、背伸びをする。チュッ…と軽い口づけ。耳元でささやく。
「もう寂しいんだから。わたしを一人にしないでね」 石田美鳴バージョン
(おおおおっ!どれもいいけど…やっぱり…)
「おおおおおおっ!」
長谷家部の大声で妄想から覚める俺。長谷家部の奴、俺と同じ妄想していたのか、ギュッと何かを抱きしめて、セリフをしゃべっている。先ほどの間接キスから、どうやら脳内で交際1年、結婚して幸せ新婚生活まで時間が進んだらしい。
「もちろんだよ。左近ちゃん。会社終わったら、一直線で帰るよ。ああ、1分、1秒でも長く君と一緒に居たいよ~左近ちゃん!」
ああ、俺も痛い奴だが、こいつも痛い奴だった。
西軍メンバーの新妻バージョン。直江愛ちゃんに、真田雪之ちゃんももう少し主人公に近づいたら妄想可能かも。できれば、浮竹栄子さんに、安国寺さんもあったら、姉さん女房バージョンが入ってコンプリートか!?