わたしと一緒に挙兵するの!しなきゃいけないの!(五)
西軍の陣容が整いつつあります。決戦まであとわずかですから。
俺は久々にコンビニのバイトに行く。この前、一緒になった早川秋帆ちゃんと同じシフトであった。客が来ないことをよいことに、レジで話し込む。
「秋帆ちゃん、久しぶり~」
俺はこの妹のような娘に声をかける。
「先輩、しばらくバイト休んでたようですが、サークルの合宿って聞きましたけど」
「ああ、急に入っちゃって…」
「先輩のサークルって、美鳴先輩のサークルですよね」
「知ってるんだ」
「はい。実は、わたし、このバイト今日で最後なんです」
「ええっ!それはまた急にどうして?」
「別のバイトが見つかったんです。それこそ、先輩や美鳴先輩に役立ってお金ももらえるバイトなんです」
「そんなバイト…」
「何だか分からないけど、ちょっとセレブっぽいおじいさんに「戦国ばとる2」というゲームに参加すれば、時給3千円って言われたんです。パソコンとか、ゲームのマニュアルとかもう頂いていて、今日から参戦する予定です。先輩、よろしくお願いします」
(ああ、たぶんあの太平洋銀行の太閤殿下の差金だろう)
と俺は思った。
秋帆ちゃんが言うじいさんの容姿が瓜二つであったからだ。秋帆ちゃんは、レベルこそ12と低いものの、小早川秀秋として、参戦する。兵力1万6千。配下の武将はベテランのゲーマーでレベルも30台の者が五人もサポートしてくれていて、秋帆ちゃん自身が素人でも十分な戦闘力はありそうだ。
「そうか。じゃあ、今度はネット上で会うわけか。よろしくね、秋帆ちゃん」
「はい、先輩。こちらこそ。私も毎日3時間はゲームできますから、お金的にとても助かるんです」
(なるほど…コンビニのバイトは時給700円、戦国ばとる2は3千円。一日9千円は大きいよな)
太閤殿下の配慮で、その夜、早川秋帆ちゃん演じる小早川秀秋が美鳴陣営に加わった。秋帆ちゃんは、ネット上でしか会わないけれど、美鳴を慕う後輩ということでキーマンである小早川勢率いることができるのは、とても都合のよいことであった。
また、同じ夜に島津維新を名乗る人物も加わった。レベルは低いがどうやら、あの第一平和銀行のじいさんらしい。レベルは低く、率いる軍勢も少数だが豊富な経験は捨てがたい。そして、約束通り、小西雪見ちゃんも参戦して、この夜、3人も公募で集まることになった。
本多アギトは毛利屋のパーティに忍び込んでいる。毛利屋の年1回の取引先やお得意様を招いての感謝パーティだから、来客は500人を超える人数である。偽の招待状を持ったアギトが疑われることはなかった。アギトがこのパーティに来たのは、東宮院是清の命令で、毛利家の様子をうかがうことであったが、美鳴たちの動向も探ることもあった。
昨日、急に西軍に参加するプレーヤーが現れ、今日、毛利家が決起すれば、その流れは加速することが予想された。東宮院は、すでに東軍参加プレーヤーを固めていたが、予想よりも順調に対抗勢力に育てつつある西軍に注意を払っているようであった。
(さすがは冷徹無比の有能な経営者だ。まあ、順調と言っても俺が少し加担していることもあるから、全てあの娘やあの男の手腕ばかりではないが)
アギトは、あまりに呆気なく美鳴が負けて、東宮院の思いのままになるのも面白くないと感じ、東宮院に隠れて若干、西軍の肩を持つ行為をしていたのだが、結論は変わらないだろうと思っていた。
(東軍が圧勝する。結局は史実と同じさ。東宮院はぬかりがない。すでにいくつもの手を打っている。所詮、小娘やゲームバカの大学生では太刀打ちできないということだ)
アギトが入口を眺めていると、石田美鳴に島大介、立花瑠璃千代に歴研メンバー3人が入ってきた。長谷家部守人もいる。島大介は見事に女装しており、背の高さから言ってもモデル並みのインパクトがある。アギトは調査で知っているので、すぐ分かったが、あれではみんな誤解するだろう。現に長谷家部は、そんな島にデレデレで、片時も外すことなく、熱い眼差しを向けている。
普通、見知らぬじいさんに時給3000円でバイトしない?などと言われた、警戒しますけどねえ・・・。秋帆ちゃん、よほどお金に困ってるのか。




