そんな年増より、わたしの方がピチピチしてるでしょ!(参)
超色っぽいOLの浮竹栄子さんとホテルのバーで・・・ムフフ・・と思いきや、話はシリアスな方向へ。美鳴ちゃんの敵の正体を知って、主人公は・・・。
「私の名は浮竹栄子。あなたは島大介君でしょ」
「ど、どうして、俺の名前を…」
ホテルのバーで俺は昼の間に会ったあのお姉さんとグラスを傾けている。ホテルの最上階で大きな窓からは、ここが辺境のリゾート地であるだけに、海を航行している船の明かりとホテルのプールサイドの明かり、島の住宅地の明かりがわずかに見える程度だ。
「知ってるも何も、あなたはネットゲーム戦国ばとる2で名軍師と言われている島左近よね」
俺は思わずお姉さんの顔をまじまじと見る。まったく心当たりのない顔であり、俺がリアル割れしている理由が分からない。
「そんなに怖い顔をしないで。ほら、グッと飲んで」
そうやって、テーブルに置かれた俺のグラスにカチンとグラスを合わせて、このお姉さんはグッとカクテルを飲み干した。テキーラベースのカクテルをこのお姉さんはもう3杯も飲んでいる。こちらはジンベースのものをちびりちびりと1杯目を飲んでいるのにだ。
この浮竹栄子さん…と言ったっけ。このお姉さんに夕食後、こっそり呼ばれてバーに誘われた。美鳴たちには、ちょっと風に当たってくると言って今はこのお姉さんと酒を飲んでいるわけだが、別に「筆おろしさせてあげようか?」という昼の間の申し出に惑わされたわけではない。何だか、俺に頼みたいことがありそうな雰囲気で、つい、誘いに乗ってしまったわけだが、若干、後悔の念が心の中で大きくなってきている。
(まあ、美鳴の奴は未成年だからここへは入れない。乱入されることはないだろうが…)
美鳴の奴が来たら、ますますややこしくなる。
「あなた、あのお嬢さんから何も聞いていないの?」
唐突に栄子さんは、美鳴のことに話題を振る。あのお嬢さん…と言うからには、おそらく石田美鳴のことだろう。
「俺は単にゲームをするから、仲間になってと言われただけで…」
俺は美鳴の(勝ったら美鳴を一日だけ自由にしていい)という申し出のことは黙っていた。別に美鳴の色香に迷ったわけではないのは事実だから。あれよ、あれよで、ジェットコースターのごとく巻き込まれて現在に至っているだけだ。
「ふ~ん。それだけで、これまでのゲームのステータスを初期化される危険を冒してまで、あの娘に肩入れするんだ。あなた、思ったよりも青いわねえ…」
クスクスと栄子さんは笑う。
「まあ、いいわ。あなたの本当の気持ちはともかく、あのお嬢さんがあなたの彼女であろうと、なかろうと。知り合いの女の子がひどい目に合うことを知って黙っている情けない男じゃなわよね」
「ひどい目って?美鳴の奴がか?」
「そうよ。今度の関ヶ原の戦い。東軍の総大将、東宮院是清って冷血男が勝てば、彼女の実家の会社は乗っ取られ、彼女自身も奴の毒牙にかかるのよ」
「ど、毒牙?美鳴が…」
東宮院是清の名は知っていた。最近、マスコミが取り上げている青年実業家だ。ファンドを立ち上げ、会社を買収して急成長していると聞いている。だが、黒い噂を週刊誌紙上で取り上げられることもあった。芸能人とのスキャンダルもいくつかあったような気がする。(要するにイカ好かない野郎だ)
「どういうわけか知らないけど、このゲームに負ければ、あのお嬢さんの会社は東宮院が買収し、あのお嬢さんは結婚することになっているのよ」
「け、結婚!」
俺は衝撃を受けた。美鳴の奴が結婚だと!
「ま、まあ、それで美鳴の奴もセレブ妻ってことで、俺も振り回されなくなるし…」
頭が真っ白になり、口が考えていることと別のことをしゃべる。
「ふん。あの男と結婚して幸せになどなるものですか。結婚も石田家の最後のあがきで、結局、会社は解体、あのお嬢さんも捨てられるだけよ」
(美鳴が捨てられる…)
「あのお嬢さんを助けられるのはあなたと私ししかいないわ!どう、私の参戦を認めてくれない?」
「浮竹さん…が、ですか?」
俺は意外な申し出に戸惑った。確かに石田美鳴は、この「戦国ばとる2」関ヶ原キャンペンモードに何がしかの決意をもって参加していることは薄々感じていた。銀行のお偉いさんとの関わりや、最初にあった時の美鳴の必死な顔が思い出される。美鳴の親友の吉乃ちゃんは、このことを知っている口ぶりだったし、狩野舞さんや明るく振舞っている直江愛ちゃんや真田雪之ちゃんもこのことを知っていると思われた。
(知らなかったのは俺だけか…)
メンバーの中で瑠璃千代は部外者なので、知らないのは当然として、家老として使える俺に美鳴の奴、何も教えてくれないとは。
(いや、俺自身、聞きたいとどこかで思っていたが、今まで、それを意図的に無視していたのかもしれない)
「私はゲームでは素人ですが、お金で戦えるだけのレベルと部下を手に入れています」
そう言って、栄子さんはセクシーにも胸元を大胆に開けたドレスに手を入れる。出てきたのは小さなコンピューター端末。
(栄子さん、どこから出すんですか!)
それに電源を入れて、「戦国ばとる2」の画面を立ち上げる。栄子さんのキャラは、宇喜多備前中納言秀家。五大老の一人で西軍の要となる人物だ。1万8千もの兵力を用し、手足となる部下も雇い済みである。レベルも長谷家部や俺に匹敵するLV50台である。
「栄子さん、一体どうやって?」
「言ったでしょ。お金の力よ。他人の高レベルキャラを買い取ったのよ。でも、私自身は素人だから、基本的な命令はするけど戦術面は、ネット上でこれは!と思う人物を雇っているわ。戦闘力は申し分ないと思うけど」
(確かに。美鳴の西軍には必要な戦力ではある。だが…)
俺も子供ではない。このゲームの勝敗が現実世界のそんな大それた問題につながるなら、慎重にならざるを得ない。
「浮竹栄子さん。あなた自身はどうなんですか?」
「え?あなた、何言ってるの?」
「そんな大変なことがこのゲームに託されているなら、栄子さんも簡単には信用できないと言ってるんです」
「な、なるほどね。わたしが東宮院の回し者という可能性を疑っているんだ」
「歴研のメンバーや瑠璃千代、長谷家部は、たぶん、信用できる。というより、何も知らない。だが、あなたは事情を知っていて俺に近づいてきた。戦場で突然、攻めかかられるのは御免こうむりたい」
「ふふふ。さすがね。だから、わたしはあなたに近づいたの。このゲームの勝敗を握っているのはあなただと思うから」
そう言って、栄子さんはスマホのメール画面を俺に見せた。
これで浮竹さんが西軍に参加します。東宮院に心底、復讐したい彼女は戦場でどんな活躍をしてくれるのでしょうか?




