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そんな年増より、わたしの方がピチピチしてるでしょ!(弐)

3人目のじいさんは、このゲームを仕掛けた黒幕じいさん。基本、悪です。こんな裏の壮大な陰謀が行われていたなんて。

「御前、東宮院様がお目通りを願っております」

「ふん、あの青二才め。どうせ、今回の件の確認と状況報告だろうが。通せ!」

「はっ」


 黒いスーツとサングラスを身に付けた男が数人、車椅子に乗った老人を護衛している。老人は白いヒゲを伸ばし、まるでサンタクロースのような出で立ちだが、羽織袴に杖を持ち、ハゲた頭が部屋の明かりでピカピカ光っていた。


車椅子で杖は変な感じだが、それは杖をさして周りの男達に命令するのと、不手際があった時に殴りつけるために持っているものであった。両指には宝石が散りばめられた金の指輪がいくつもあり、かなりのお大尽であった。


 東宮院是清が先程、取次をした黒いスーツの男に案内されて、この老人のところに現れた。是清は畳敷の30畳はあるかという部屋に入るとその場に平服した。


「東宮院、首尾はどうだ!」


年を取っているのだが、言葉は大きい。怒鳴っているかのような声だ。


「御前、順調です。すでにストンデングループの中核、石田食品の株30%を抑えました。役員の四割はこちらに取り込みました」


「ふむ。だが、太平洋銀行と第一平和銀行が秘密裏に支援をするという話があるが」


「それは最後の悪あがきです。もうストンデングループは風前の灯火です。わたしと創業家の娘を結婚させて取り込もうとする動きもありますが、肝心な本人と親が拒否してます。成金には娘はやれないと。一族郎党、そして従業員が路頭に迷ってもよいらしいです」


「ふむ」


老人は杖で東宮院の頭をトントンと叩く。


「それでお前は復讐を果たすというわけだ。石田の娘の一族を路頭に迷わせ、娘を手に入れ、散々な目に合わせるつもりだな」


「いえ、御前、そのような個人的な恨みではありません」


「そうかな。いつものお前ならさっさと会社をのっとり、バラバラに解体して売り払うハゲタカが、今回はジリジリと時間をかけるようじゃないか」


「ストンデングループは全体としては大きいものですから、簡単には乗っ取れません」


「そうじゃない、そうじゃないだろう是清。お前、石田の娘に見合いの席で侮辱されたのだろう。女の言葉に激高するのは人間が小さいというものだ」


 是清は顔を上げた。確かに新年の祝いをする起業家のパーティで石田美鳴と会った。それが彼女とのお見合いという含みもあったことを承知している。いつものとおりのスマイルでパーティに出席していたご令嬢たちを魅了した是清は、美鳴にもその態度で接し、あわよくば利用して金儲けの種にでもしようと思った。


だが、あの娘は自分の汚れたところを見つけ出し、それを暴いた。多くの人々の目の前で罵倒され、辱められたが、世間知らずのご令嬢たちとは一線を画す石田美鳴に別に恨む気持ちはなかった。それよりも、この気丈な娘を屈服させ、不幸のどん底に落としてやろうと思ったのだ。


 幸い、ストンデングループは昨今の消費低迷で経営危機に陥っており、付け入る隙がたくさんあった。あの令嬢の会社を乗っ取り、自分に跪かせてやると思ったのだ。もちろん、純粋にビジネスとしての儲けも充分見込んでいた。グループの中核企業、石田食品本体は、もう外資系企業に生産設備ごと買ってもらう算段までできていた。


(あとはこの老人の持つ、石田流通の株式を売ってもらえば、こちらの勝ちだ)


石田流通はストンデングループの子会社だが、ストンデングループの製品の流通網を一手に担っている会社であり、しかも会社として本社株を大量に持っているという逆転現象があった。


(この会社の経営権を握れば、株式の20%を手に入れ、合わせて60%を抑えられる。そして、流通網を抑えることで、石田グループの生殺与奪権を握れる)


 だが、その石田流通の株を大量に持っているのがこの老人であった。全株数の35%を持ち、筆頭大株主であった。


(それをこの老人、日本を陰で動かすキングメーカー、影の首相と呼ばれる、五代帝治郎ごだいていじろうのジジイだ)


 この老人は是清の申し出に、ゲームに勝ったら売ろうと条件を出した。是清が趣味でやっている「戦国ばとる2」での対戦だ。相手は石田美鳴。ゲームは素人で是清が有利すぎるが、それはどうでもよかった。ビジネス的には是清の申し出を受ける方が莫大な金が、入ってくるのだから。


「ゲームの方はどうなっている?お前は(利)と(陰謀)でことを進め、石田の娘は(義)と(友情)で戦うという条件、守っているだろうな」


「御前、もちろんです。もとより、この是清。全軍、すべて私自身で操れますが、関ヶ原キャンペーンとなると数名は手伝いが必要です。少々、余興で彼女のご学友を味方に引き込んでいますが、後は金のチカラで戦力は十分です」


「ほほほ・・・それはよろしい。石田の娘も現実社会では(義)は(利)に勝てず、(友情)は(陰謀)に勝てずということを知ろう。だがな、是清」


「は?何か」

「人間は計算できない行動をすることがある。足元を救われないようにな」

「心得ております」


「このゲームの顛末は、裏の経済界で周知されておる。万が一、お前が敗れれば、わしは株を譲るわけには行かなくなる。だが、それでは儂は経済的に大損害を被ることになる。それに関しては、お前に尻拭いをさせることになる。分かっているだろうが、このゲームを引き受けたお前は、負ければ石田の娘と同じように破滅だと心得よ」


「五代様、そんなことは万が一でも起きませんよ」


「ふむ。その言葉、忘れるなよ。ゲームで石田の娘を討ち取った段階で株はお前に売り渡す。市価の五倍の値段でな」


「彼女の市中引き回しの余興をお付けします。ゲームではその後、処刑ですが、リアルではあの娘の処女をいただきますから。その映像でもお見せしましょう」


「ふふふ…はははは…」


(ふん、日本に寄生する老害が。どっちに転んでも損をしないようにしやがって。まあ、いい。そのうち、このジジイに成り代わって、日本を裏から動かすフィクサーになってやるさ)


 是清は立ち上がると、部屋を退出した。この忌々しい屋敷の外に出て、ポルシェのオープンカーに乗り込むと携帯が鳴った。


「もしもし、何だ?」

「・・・・・・・・・・」


「何?小早川秀秋のキャストが決まった?もうエントリーしたのか?ちっ、やられた。太平洋銀行の頭取の仕業だな。あのジジイは美鳴のファンだからな。何かしてくるとは思ったが。で、誰をあのジジイは抜擢したのだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ほう!それは面白い。逆に感謝したいくらいだ」


 是清は部下の報告を聞いて満足そうに電話を切った。小早川金吾中納言秀秋こばやかわきんごちゅうなごんひであきは、言わずと知れた、実際の関ヶ原の戦いで勝負の明暗を分けた裏切りをする武将である。徳川家康の事前工作で数で劣勢にされた西軍が獅子奮迅の戦闘で優勢にしていた戦いを一瞬で地獄に叩き落とした男である。


 当初は金で雇った人物に担当させようと思っていたが、それでは出来すぎで面白くないし、美鳴たちも警戒するに違いない。美鳴の知っている人物で、信頼を寄せる人物が実際と同じように裏切れば、あの気丈な娘もおとなしくなるだろう。


是清はあの探偵に電話をする。


「アギトか、今、どこにいる?よし、やってもらいたいことがある」


是清はすばやく指示し、ポルシェのエンジンをかけた。


小早川秀秋、関ヶ原で重要な鍵を握る人物。美鳴ちゃんの運命を握る人物です。

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