わたしの水着姿で士気を高めなさい!(弐)
今回は美鳴ちゃんと吉乃ちゃんの出会いのエピソードです。固い友情がこの戦いにどんな影響を与えるでしょうか?
水着は見れたが俺は最初は荷物番。でも、キャピキャピと騒いでる美鳴たちの華やいだ姿と隣に座っている吉乃ちゃんのおかげで、俺にとってはパラダイスであった。
「こうして太陽の光に下にいると生きてるって実感がするわ。大介さんはどうなの?」
風になびく髪を耳にかける仕草がたまらない吉乃ちゃんに見とれた俺は、しばらくその問いに答えられない。一秒ほど固まった後、
「ああ、そ、そうだね」
(俺は君の姿を見ているだけで、生きている実感ありまくりだよ~)
と心の中で叫んだが、言葉にはならない。
「吉乃ちゃんは、体の方は大丈夫なの?」
「ええ。完治したわけじゃないのだけど、学校にも行かなくちゃ、卒業ができないですからね。二学期からは、学校へも行く予定ですわ」
「そうですか。それはよかった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
少し、沈黙があった。
「あの」「あの」
二人同時に声を発した。そして顔を見合わせて思わず笑った。
「どうぞ、お先に」
「いえ、大介様がどうぞ」
吉乃ちゃんには、いろんなことが聞きたかった。病気のこと、これまでのこと、好きな男性のタイプなどなど。でも、聞いた言葉は、
「吉乃ちゃんて、美鳴とどうやって知り合ったの?」
(わあ!俺のバカ。好きな女の子に別の女のことを聞くなんて!)
「ふふふ…知りたい?」
「あ、うん」
ちょっと後悔したが、よく考えればこのおしとやかな吉乃ちゃんとあの活動的な美鳴が友達なんて、ちょっと想像がつかない。なにしろ、正反対の性格なのだから。
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「あれは1年生の時だったわ…」
吉乃ちゃんは語りだした。
幼稚舎からエスカレーター方式で進学するアナスタシア高等部でも、小谷吉乃は高等部一年生の時に編入してきた。父親の仕事の都合で永らく外国暮らしをしていたのだが、小さい頃から患っていた心臓の病が思わしくなく、日本で療養することになったのだ。転入して自己紹介するとクラスのみんなは最初のうち、吉乃の机の周りを囲み、いろいろと話しかけてくれた。学校を案内したり、お昼を一緒に食べてくれたり…。
だが、吉乃は心臓が悪いので、激しい運動はできない。廊下もゆっくり歩かねばならないし、階段も一歩一歩しか上がれない。だんだん、みんなは敬遠しだした。みんな時間を惜しみ、急いで行動したいのだ。吉乃はそういうことに慣れていた。なぜなら、小学校から今まで、みんなそうだったからだ。
ところが、一人だけ違う生徒がいた。石田美鳴だ。みんながちやほやしてくれた最初の頃は遠くで見ているだけであった美鳴は、みんなが離れたあとにやってきて、いつも、吉乃と一緒にいてくれた。
極めつけは、1年生の登山合宿。ここでは、ペアになって山頂に登り、美しい朝焼けを見るというアナスタシア高等部伝統の行事であった。登るのはキツイが、そこで写真をペアで撮るのは1年生の思い出としてみんな楽しみにしていた。
だが、吉乃は早くは登れない。たぶん、みんなと大幅に遅れて、綺麗な朝焼けは見られないことが確実であった。
ペアが決まるのはくじ引き。方法はまず予備くじを引き、本番のランダムのくじを引く半分の生徒を決める。その生徒は数字の書いたカードを引く。次に残り半分の生徒が1番から15番までの数字を選ぶのだ。数字を選んだ段階で、ランダムくじを引いた生徒が公開し、ペアのマッチングが完成する。
吉乃はランダムくじを引くグループに入った。この時、ランダムくじを引く方になった生徒が何だか、ほっとしたような表情や、小さな声で「セーフ」というのを聞いた。
数字を選ぶ方は「ヤバ~」「マジ?」と小声が聞こえる。
(ああ…そうよね。みんな私とは一緒になりたくないよね)
吉乃は納得した。自分と一緒になれば、100%あの朝焼けは見られない。それでは登った意味がないだろう。吉乃はカードを引いた。その時、ポロっとカードを落とした。床に落ちたカードの数字が「7」と表示される。慌てて拾ったが、みんなその数字を見ていた。
「1番」「14番」「8番」…どんどん数字が選ばれていく。7番は呼ばれない。
12人が数字を宣言して、あと残り3人となった。
(私の数字を最後に言わなけりゃいけない人がいたら、私はこの山登り…辞退しよう)
そう吉乃は思った。その子がかわいそうと思ったのだ。だが、13番目は石田美鳴だった。美鳴は、ツカツカと黒板の前に歩いて立つと、大きな声でこう言った。
「あら?わたしの好きな数字が余っているわ?不思議ね?誰でも、この数字が好きなはずだけど、今日は人気ないのかな?私にはとてもラッキーだわ!」
そう言って、ビシッと手のひらで7の数字を叩いた。
「わたしの選ぶ数字は、ラッキー7よ!」
吉乃の目に思わず涙が溢れた。美鳴は知っていた。「7」が吉乃の数字だって。
おお!7を選ぶ美鳴ちゃん。あなたはすごい人だ。