あなた、わたしの家来になりなさい!(四)
西軍が勝ったら「エッチなこと」してイイ・・なんて聞いたら、若い男はまっしぐらに突撃していきます。俺がやらねば、だれがやる!がんばれ、大介!
「美鳴ちゃん、条件は1万8千石と君を自由にしていいだったけど、それ本当?」
急にかあ~っと顔が赤くなり、うつむく美鳴ちゃん。この顔でこれはヤバい…。
「ほ…ほんとよ…。も、もちろん…、関ヶ原で西軍が勝ってからだけど…」
「自由ってことは、その…エッチなことしてもかまわない…てことだよね」
俺は思い切って聞いてみた。ここはとても重要だ。いや、俺がこの美少女と祝「脱童貞」を果たすということではなくて、こういう見ず知らずの男にこういう提案をする年下娘にネット社会の恐ろしさを教えてやらねばと、大人の責任感を感じていたからだ。悪い大人なら、こんな小娘、あっという間に毒牙にかけてしまうだろう。
「う…うん…」
小さな声で答える美鳴ちゃん。よほどの理由があっても、このご褒美は出し過ぎだ。たかがネットゲームに自分を賭けるなんて。
「あのね、美鳴ちゃん。そういうこと言うと、悪い奴にヒドイことされちゃうし、そこまでしても勝ちたいなんて、目を覚ました方がいいよ。俺みたいに紳士な男ばかりじゃないし…正直、君みたいな可愛い子だとみんなOKしちゃうと思うけど、よくないよ。もっと、自分を大切にしなきゃ…」
美鳴ちゃんは、俺の言葉を聞いて急に涙をいっぱいにため、フルフルと体が震えだした。
「自分を…」
小さくてよく聞こえない。
「自分を…大切にしてるから…」
「えっ?」
「自分を大切にしてるから、この戦いに勝たないといけないの!そのためには、私の処女をあげてもかまわないの!」
美鳴ちゃんは、急に叫んで立ち上がった。近くのテーブル客が驚いてこちらを見る。美鳴ちゃんは、飲んだドリンクカップを手で潰す。
「おい、待てよ!」
俺の制止も聞かないで、美鳴ちゃんは、店の入口のゴミ箱にカップを入れると泣きながら走って出ていく。
(おいおい…たかがゲームじゃないか…いくら、俺がネット上での名軍師だからって、俺に処女をあげるって…。自己陶酔の中二病末期症状?高3にもなって…)
俺は美鳴ちゃんの走っていく後姿を見ながら、今後の彼女のことを思った。
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ぶよぶよに太り、黒縁メガネをかけた典型的オタク男が、鼻息荒く、ベッドで体操座りをしている露わな格好の美鳴ちゃんを舐めるように見ている。
上半身は裸で両手で胸を隠し、下半身は水色の縞パンである。ぷっくりと膨らんだところに、かすかに1本の割れ目が見て取れる。
「み…みなりた~ん…約束だぞ。勝ったから、今日は俺に処女を捧げるんだよな?」
「は…はい…。左近様」
「ぐふ…夢にまで見た美鳴ちゃんとのH!33年間の童貞、さらば~。今晩は8発、煙がでるまで中○し~。み・な・りた~ん…」
キモオタクデブが、体中から汗を噴出して、美鳴ちゃんに襲い掛かる。
「ああん…いや、イヤだよう~」
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「くそ!」
俺は一瞬で想像した今後の美鳴ちゃんの不幸な未来図を振り払い、カップを持って中に入ったコーヒーを一飲みすると、美鳴ちゃんの後を追った。ここで追わなければ、彼女を不幸な未来から救えないと思ったのだ。
「待てよ!」
俺はまさに電車に乗ろうとする美鳴ちゃんの右手を掴んで、電車から引き戻した。もし、追いつけなかったから、やっかいであった。何しろ連絡方法がない。一応、学校は俺の大学の附属と聞いていたから、その線で探せると言っても、それが事実かどうかは分からないからだ。
美鳴ちゃんは、俺の胸に顔を埋めた。まだ、泣き顔で見られるのが恥ずかしいのであろう。いかにも深窓のお嬢様っぽい姿だ。駅では、通行する人がこちらを見てくる。絵にかいたようなイケメンと美少女の抱擁だ。目立つに違いない。俺は美鳴ちゃんの手を引っ張って、自販機の陰に連れて行く。
「俺はまだ返事はしてないぞ」
「来てくれたってことは、引き受けてくれるの?」
「仕方ない…処女うんぬんはともかく、君みたいな可愛い子の役に立ってやるのは悪くないからな」
「本当?美鳴、うれしい!」
美鳴ちゃんは、俺の首に両手を回して抱きついてきた。ポニュンとした感触を胸に感じ、いい匂いが鼻腔をくすぐる。これまで付き合ってきた女の子とは違う匂いがした。
「とりあえず、現在の状況と君のレベルを上げないとな。相手の徳川家康役とは当然、話をつけてるんだろう?」
「ええ。対戦は2か月後。相手とは合意できているわ。詳しくは、今晩のネットで相談するから。左近様は、今晩、ネットで私の家来になる契約を確定させてね」
「今、ここでしてもいいんだが…」
俺はスマホを取り出した。ここでゲームを立ち上げ、美鳴扮する石田三成の応募に応じればOKな話だ。
「いいよ。今晩で…。美鳴は、左近様のこと信じてるから…」
美鳴ちゃんとしては、俺が気が変わるとは思っていないのだろう。美少女にこう信用されては、俺は下宿に帰って忠誠を使うボタンをクリックするしかなくなる。
「美鳴ちゃん、俺、左近じゃなくて、リアルは大介。リアルで会う時は大介でいいよ」
「そんな、年上の男性に呼び捨てなんて…美鳴、恥ずかしいよ」
確かに、恋人同士でないのに年下の女の子が男を呼び捨てにするのは、抵抗があるかもしれない。でも、こんな美少女に名前を呼び捨てされるなんて、男としてはうれしいことだ。
「いいよ。君とは2個離れているだけだし」
確かに先輩と呼ばせるには、これまで関わりが全くないわけだし、お兄ちゃんなどと呼ばれたら、周りから白い目で見られそうだ。
(美形同士でも似ていないから、兄妹には見えない)
「じゃあ、私のことは…み・な・り…って呼んでいいよ。私の大介…」
そう言うと美鳴ちゃんは、俺に顔を近づけてキスをしてきた。軽い感じでチュッって感じ。
「大介は初めてじゃないよね。大学生だし…」
(は…て、お前は初めてなのか?)
俺は白く固まった。俺は他称イケメンで、女に不自由していないように見られているが、実際、これまで付き合った女の子は多数だが…
(今のファーストキスだったんだよう!)
「じゃあね!」
と次に来た電車に飛び乗って手を振る美鳴ちゃんを放心状態で見送る俺。
ネットゲームが縁で彼女みたいな存在になった、石田美鳴との関係でこれから、俺は散々に振り回される己の運命をまだ知らない。
こんな美少女に振り回されるなら、男として幸せ?美鳴ちゃんから、ご褒美をもらった主人公ですが、これで泥沼に突入・・・決定(笑)