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わたしの究極のおもてなしを受けなさい!(十)

美鳴ちゃんたちは、お金をかけずにセレブのじいさん二人をおもてなすことに。吉乃ちゃんが考えたこの作戦。成功するか?

長編になった「おもてなし」編ここに完結。

 二人の老人は美鳴に指定された場所に、黒塗りの高級車で乗り付けた。だが、車で行けたのは寺の山門までで、そこからちょっとした階段を上がらなければならなかった。


「どうぞ、太閤殿下、こちらへ。主人石田美鳴が待っています」


俺は高級車の後ろのドアを開けて、二人の老人を案内する。一人はこの間、食事であった太閤秀吉こと、太平洋銀行の頭取のじいさんだ。


(名前は知らないが、太閤殿下と呼べと言われているから、それでよしだ)


「おやおや、老人にこんな階段を上れとはな…」


 今回のメインゲストであろうじいさんが車から降りて、階段を見上げる。太閤殿下は小柄で上品なじいさんだが、この客人は巨体であった。白い半袖のワイシャツにノーネクタイだが、左腕の時計といい、履いている靴といい、ステータスは高そうなのは違いない。


夏の太陽が照りつける昼時だ。この階段を上がるのは老人でなくてもキツイ。だが、これはおもてなしのための演出であった。


フーフー言いながら一段一段上がると、寺の境内が見えた。そこは周りを木で囲まれ、セミがなく空間。境内の真ん中に20畳程の小さな舞台が作られている。昔、村の祭りで村民が伝統的な草歌舞伎や踊りを披露した時に使ったであろう建物だ。柱と板間で壁がなく、おまけに木陰なのでひんやりとしている。


「おお…ここは涼しいな」

「階段から来るとここは極楽じゃ」


 2人の老人は舞台の縁に腰掛け、息を整える。木々の間から街の景色が見えている。


そこへ、着物を着た舞さんが、お盆にお茶を載せて静静と進んできた。運んできたのは小さな茶碗に入れられたお茶である。


美しい所作で舞さんが、2人の老人にそのお茶を差し出した。


「ほう、若いのによい動き。さりげない中に雅が感じられますな」


本日のゲストの老人が、そう舞さんを褒める。美鳴も白生地に2羽の鷺が描かれた美しい着物で側に控える。


「狩野舞さんは、煎茶道の家元の娘さんなんです」

「なるほど。小さい頃から躾けられているというわけか」


二人の老人は感心しつつも、出された熱いお茶に口をつける。


「ふう…暑いときには熱いものを飲むと暑気をはらうというが、これはまさにそうだな」


太閤殿下が感心する。巨体のじいさんの方は、お茶の味に感激したのか、しきりにお椀をの中を見ている。


「申し遅れた。治部少輔、こちらはわしの古くからの友人で、ゲーム上では維新入道と呼んでいる」

「島津維新入道様ですか?」


歴女の舞さんが反応する。


「年甲斐もなく、ずいぶん前にこいつにネットゲームに誘われての。今はこの年寄りの生きがいになっておる。このお茶の演出だと、今日は期待していいかの?治部少輔殿」


「はい。それでは支度にかかります」

「支度?」


 美鳴が着物にたすき掛けをし始める。長い髪の上に日本手ぬぐいで姉さんかぶりをする。今から調理するという素振りだ。


(おやおや、この小娘の手作り料理か?これは、意表をつくが、素人の自慢料理では話にならんぞ)


維新入道は、やれやれという表情をしたが、美鳴が作り始めたものを見て仰天した。

お櫃からご飯を取り出して、おにぎりを握ったのだ。


ギュ、ギュとご飯を握る美鳴。3つずつ握るとそれを竹の皮の上に置いて、二人に差し出した。


「このもてなし、私の人なりを見ると考えました。それならば、高校生のできる範囲で集められる材料で、わたし自身の味を見ていただくのがよいかと思いまして…」


(な、なんと…)


維新入道は言葉を失った。この小娘を試すつもりで、友人の太閤秀吉にこの場を設定するように頼んだが、これでは自分たちが試されている。美鳴の握ったおにぎりを一口ほおばる。不器用な手つきで握ったから形は悪い。三角でなくなんだか丸いが、維新入道も太閤秀吉もこの演出には言葉を失った。


(これは、野外で薪で炊いた飯だ。おこげが入っている。おそらく、直前にこの境内で炊いたのであろう。だが、夏の時期はコメが一番まずい時期。だが、これはコメの味がする)


太閤秀吉は、美鳴の顔を見た。


「殿下も承知のとおり、お米は夏が一番まずい季節です。昨年の秋に取れたのですから、1年も前のコメです」


「ああ、だが、この握り飯のコメはまずくない。握り方は下手くそだが、美味い。なぜだ?」


「それは自分の親戚が蔵に玄米のまま貯蔵していたのを送ってもらい、炊く寸前に精米してから寺のかまどで炊いたからです」


俺が補足する。


「なるほど!」

「いや、それだけでないな。コメは鹿児島のイクヒカリだな」


維新入道がそう言って続ける。


「わしの生まれ故郷のコメだ。そして中に入っている梅干、付け合せのたくわん。これはお前の家の漬物だな」


「はい。わたしの実家で経営している石田食品は、創業時は漬物屋でした。今は工場で大量生産していますが、少量だけ昔ながらの方法で手作業で作っています。これはそこで作ったものです。梅干もたくわんも3年物です」


「うんうん。これは石田食品の老舗の味だ」

「最後に、お水を飲んでもらいます」


美鳴は舞さんに目で合図を送る。舞さんがグラスに注いだ水の入ったグラスを持ってくる。

2人の老人はそれを飲む。一気に飲む。


「ぷはあ~。極楽浄土にある甘露水というのはかくあらん」

「思えば、最初のお茶もこの水で作ったのだな。味が別物じゃ」


「この寺の井戸水です。鎌倉時代からこんこんと湧き出る名水です。何万年も前に蓄えられてきた自然の恵みですわ」


美鳴がそう解説する。このセリフは昨晩、俺が考えたものだが。


2人の老人がうれしそうに笑顔になったのを見て、美鳴は続けた。


「お二人への治部少輔からのもてなしは、以上です。これ以上は用意できませんでした」

「いや、これで十分だ。君の人間性はよく理解できた。」


「今思えば、どうしてこの場所を選んだのか、わしらに暑い中、階段を上らせたのか分かったよ」


迎えに上がってきた車を見て太閤秀吉は、そう美鳴に告げた。迂回すれば境内に車を入れられたのだ。


二人は迎えに上がってきた車の後部座席に座った。


「どうだった?石田グループの時期当主の器は?」


太閤秀吉こと太平洋銀行頭取、秋山仁之助あきやまじんのすけは、友人でライバル銀行の第一平和銀行の頭取、伊集院教経いじゅういんのりつねに感想を聞いた。


「期待以上だ。だが、あのお嬢さんの一人の力すべてではない。周りに彼女を助けたいと思う友人がたくさんいるということだろう。ああいう人物なら、信用できる。だが、秋山、敵はシビアで冷徹だ」


「そうだな。奴は手段を選ばない。だが、ゲームという枷をはめられている。勝機を見出すとすればそこかな。わしはゲーム上、美鳴ちゃんのスポンサーという役割だから、直接は参加はできないが、できるだけの手は打つことにことはしよう。お前は直接参加できるがどうする?」


「ああ、アカウントを変えて参加するわい。孫の名前でエントリーしての。レベルがないから戦力にはならんが、あの娘のために人肌脱ぐわい」


「孫って、何歳だ?」

「ほほほっ…今年生まれたばかりだからな。1歳にもならんわ」


ははははは~車の中で老人二人の笑い声が響いた。


太閤殿下は関ヶ原の戦いには参加できませんが、サポートをしてくれます。維新のじいさんもキャラを変えて初心者レベルで参加する予定。役に立つのか?

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