わたしの究極のおもてなしを受けなさい!(九)
この章、新しいキャラの登場と伏線、ゲームの外で行われるマネーゲームの伏線が錯綜する話で、「SLGが題材ならバトルシーンを入れろよ!」とお叱りを受けそうですが、ご容赦ください。実際の関ヶ原の戦いも実戦の前に決着がついていたといっても過言ではないのですから。
その日は歴研の部活動は早々に引き上げて、吉乃ちゃんの病院へ美鳴と行くことにした。吉乃ちゃんは話を一部始終聞くと、いつもの輝くようなスマイルを見せた。
(俺は密かにプリンセススマイルと名付けた。この子は本当に可憐だ。美鳴の場合は女王様スマイルだが)
「わたくしは、大介様と同じ意見ですわ」
「えっ?吉乃まで…」
とは言ったものの、美鳴は吉乃ちゃんがそう言うだろうとは予想していたようだった。コイツは頑固なところもあるが、基本的に頭は切れる。ちょっと冷静になれば、太閤秀吉のあのじいさんが、なぜ、あんな申し出をしたのか分析できる賢い娘なのだ。
「その方はきっと美鳴という人間を見たいのよ」
吉乃ちゃんはなにやら思案顔である。そして、パチンと両手を合わせた。
「私によい考えが浮かんだわ…」
吉乃ちゃんは、美鳴と俺に彼女が考えたプランを話した。
「確かに、それは意表をつかれるわ」
「俺たちのような学生らしい発想だし、好感度は上がると思う。問題は…」
「そうね。招待する方のことが分かればよいのだけど」
吉乃ちゃんの作戦は、より相手に寄り添った考え方だ。用意するものは、大したものでないが、相手の情報があれば用意するものも変わる。
「まずは場所ね。今は夏だから、お金がかからないけれど涼しい場所がいいわ」
「俺、心当たりがある」
以前、バイトをした場所を俺は思い出した。あそこなら、頼めば無料で貸してくれるだろう。後は、美鳴の腕次第だ。材料をどうするかもあるが。
「分かったわ。太閤殿下に招待客のことをそれとなく聞いてみるわ。吉乃、あとは大介と相談して準備するわ」
美鳴の頭の中で、おもてなしプランが出来上がっているようだ。
その晩はマンション(通称:佐和山城)の美鳴の部屋に集まるのではなく、それぞれの部屋からネット上で集まった。いわゆる軍議ってやつだが、美鳴の奴がプンプン怒っている。
「もう、太閤殿下ったら、招待客のことなにも教えてくれないのよ!こんなのひどいと思わない?」
(なるほどね。簡単にはヒントを出さないってことか…)
まあ、それならそれで仕方ない。自分たちが考えた計画を進めるだけだ。今日の軍議には長谷壁守人も呼ばれている。彼はメインキャラが「織田信長」でレベルは51と高レベルを誇っている。一応、関ヶ原キャンペーンモードに参加する予定ということで、選択キャラの変更をすることになった。選んだキャラは
「長宗我部盛親」
土佐の一国を支配する大名で、史実でも西軍に組みした。ただ、戦場では南宮山に陣取って一歩も動かず傍観し、結局、徳川家康によって改易されるという「間抜け」な役割を担っている。だが、長谷家部が動かす以上、そのような間抜けなことにはならないだろう。
第一にこの男、美鳴の陣営に参加して、参加者が全員女(俺は男だが)と知って、大興奮。ますます、忠誠を誓っている。
俺こと島左近を女だと信じていて、ゲーム上、俺が男で参加していても、おかまないなし。
ゲーム上、男を選んでいるだけだと勝手に勘違いしている。俺も美鳴に命じられているので、ゲーム上では男言葉だが、彼に話しかける時だけ、女言葉を使って怪しまれないようにしている。この分なら、ネット上であっている限りは、長谷家部は俺に首ったけな犬状態である。リアルで会うときには気をつけなくてはいけないが…。
(それでも、いつかバレるぞ!)
長谷家部の奴に、歴研メンバーのレベルアップのアドバイスをお願いし、美鳴と太閤秀吉の課題について相談していると、メールが2通、美鳴のところに入った。
1通は太閤秀吉から。
例の件
日時は来週の土曜日
時間は12時とする。
場所を指定してくれたまえ
太閤秀吉
もう一件は、風魔小太郎を名乗る部外者。
どうやって美鳴のゲーム上のメールアドレスを知ったのだろうか。
客は鹿児島出身
心得るべし
風魔の小太郎
ご丁寧にも白薔薇のイラストが添えられている。
「これ信じていいのかしら?風魔の小太郎ですって?ふざけてない?」
「誰だか分からないのに信じるもないが、まあ、騙されてもこちらに損害があるわけでなし。それに鹿児島なら、都合がいい」
実は俺の親戚が鹿児島にいる。そのツテで美鳴のおもてなしプランが完璧になるのだ。
「美鳴、これで太閤さんと招待されたジジイを驚かせてやろうぜ!」
「ええ。わたし、全力でやってみるわ」
このゲームとは関係なさそうなイベントが、将来、美鳴にとって大きな意味を為すとは、俺にも想像できなかったが、二人で考えた美鳴の現代版「三献茶」がこの週末に披露される。
風魔の小太郎って、誰?忍者か、忍者なのか? 正体はアイツなんです。アイツ・・・って誰?




