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わたしの究極のおもてなしを受けなさい!(八)

上流階級のお嬢様が集まる学校でも「いじめ」はあります。いやですねえ。こういう陰湿ないじめは。でも、正義を愛する美鳴ちゃんは、いじめは許しません。

 そして、3つ目の事件は、俺が校舎に入った時に目にした。中庭で一人の女子生徒が複数の生徒に取り囲まれている。


「あなた、早く学校辞めてよね!」

「目障りだわ。ここはあなたみたいな生徒が来るところじゃありませんわ」


「・・・」


取り囲まれた女の子は小さい。ツインテールで可愛らしい感じではあるが、栄養状態が悪そうな青白い顔で、なんだか疲れたような表情が台無しだ。アナスタシアの制服は着ているが、どことなくしわくちゃで、型崩れしている。


周りの生徒がぱりっとした制服であるのに対照的だ。美鳴が言っていたが、アナスタシアの女学生は平均3着の制服を持っていて、定期的にクリーニングに出すらしい。普通は1着で毎日着てくるもんだが、さすが大金持ち生徒が通う学校だと感心したが、どこか、それはちょっと異常じゃない?と思わんでもなかった。ちなみにアナスタシアの制服は1着30万円である。


「なんか臭くない?」

「臭いわ~」


「早川さん、ちゃんと制服、クリーニングに出してます?」

「ちょっと、白河さん、それは可哀想よ。1着しかもってない人には気の毒よ」


「ははは・・・1着ですって!」


きゃははは・・・


みんなが笑い転げる。


「1着は1着でも、お古ですって!」

「えっ?ありえないわ~」


散々、馬鹿にされている早川と呼ばれた生徒は、下を向いてじっと耐えているようであった。ぎゅっと握られた両手がかすかに震えている。


(お嬢様学校なのに、陰湿ないじめだなあ。これだから女は…)


俺はいじめられている女の子が可哀想になって、助けてやろうと一歩踏み出したが、ふと気がついて立ち止まった。いくら女の子の格好しているからといって、ここで登場してはヤバイことになるのは間違いない。島左近なんて女生徒は、この学校には在籍していないのだ。


だが、代わりに割って入った人物がいる。


「あなたたち!また、早川さんをいじめているわね!そういう醜いことをやめなさいと言っているでしょ!」


石田美鳴である。


「ちぇ、また、先輩の登場ですか」

「早川さん、助かったわね。優しい先輩が来てくれて」


「ああ、気が削がれたわ。つまんな~い!」


そそくさと女子生徒たちは去っていく。


「いやねえ。石田先輩、いつも正義感ぶって」

「真面目すぎるのよねえ。なんだか、ムカつくわ」


小声で美鳴の悪口を言っている。


(小声でも聞こえているぞ)


そんな悪口にはまったく動じない美鳴。


(いや、あいつは都合の悪い言葉は聞き取らない能力があるに違いない)


「まったく、あの人たち、反省の色がないんだから。大丈夫だった?秋帆あきほちゃん」

「だ、大丈夫です。な、なにもされてませんから…」


「されてませんって…」


美鳴は秋帆と呼んだ1年生を心配そうに見る。こいつは基本的にお節介だが、こういう表情で見つめられるとそのエネルギーは彼女の本来持つ「優しさ」に起因するのではないかと感じた。


(美鳴の奴、実はイイ奴なのか?)


早川秋帆は、その視線に顔を赤らめ、視線を地面に落とした。そして、声を絞り出すように、


「先輩、わたしは用がありますので」


と、その場から立ち去った。


「あの子、お礼も言わないんだな」


俺は去っていく早川の後ろ姿を眺めている美鳴に声をかける。


「だ…いや、左近ちゃん。来てたの?」

「女子のいじめは陰湿というが、ああも集団でネチネチとよくやるな」


「あの子達は特別です。女子のいじめが陰湿なんて、変な先入観で話さないで!」

「そうか?」


「まったく、アナスタシアも落ちたもんだわ。「自由」「博愛」「誠実」が校訓だというのに」


(そうなのか?大学生の俺はそんな校訓、気にしたこともなかったが)


「あの子、可哀想な境遇なのよ」


 そう言って美鳴は、早川秋帆はやかわあきほのことを語りだした。彼女はアナスタシア高等部1年生。中学までは家庭が裕福で、不自由ない生活を送ってきたらしいが、高等部にあがる寸前に父親の会社が倒産して、一文無しになったらしい。


学費が高いアナスタシアから普通は公立に転校するのだが、彼女は敢えてアナスタシアに残る道を選んだそうだ。一応、勉強ができたので奨学金を借り、授業料半額免除の権利を獲得して、あとはアルバイトでお金を稼いでいるということだが、いくら半額でも女子高生のアルバイトで払えるほどアナスタシアの学費は安くなかった。


だから、かなりアルバイトを掛け持ちで行っているとのことだ。


「わたしの会社がやっている奨学制度を勧めているのだけど、そこまでは世話になれないって断るのよ…ワケが分からないわ。わたしが推薦すれば100%通るというチャンスなのに。」


(ああ、なるほどね)


俺はそこまで聞いて、秋帆ちゃんが美鳴の勧めを断る理由が推測できた。たぶん、あの秋帆って娘。美鳴のことが好きなんだ。好きな相手に弱みを見せたくないということだろう。


意地でもアナスタシアに通う理由とか、美鳴に媚びないあの態度とか、ちょっと考えれば美鳴の奴も分かると思うのに、この女はそういう微妙な人間心理が読めない。


チャンスがあればすぐ掴み取るのが当たり前…それが合理的などとしか考えない美鳴には、秋帆ちゃんの心情を推し量るには100万年かかるかもしれない。


(つまり、無理ということ)


「まあ、いいわ。それより、左近ちゃん。今日、相談しに吉乃の病院へいくわよ。付いていなさい!」

「ああ、それはいいけど、実は…」


俺は今日の出来事のうち、長谷家部守人はせかべもりとの件を話した。


(小西雪見ちゃんの件は内緒だ。話したら他の女の子とデートしたとみなしてギャンギャン言うに決まっている)


「なに、それ?めちゃくちゃラッキーじゃない!」


美鳴の顔が輝いた。


(やっぱり、この反応かよ)


俺には想像がついた。俺を女の子だと思ってベタ惚れした男。しかも、「戦国ばとる2」のプレーヤーで経験豊富。織田信長キャラでやり込んでいるのだから、西軍に付く適当な大名で参加できるのだ。


「左近ちゃん、そのバカ男、誘惑してわたしの陣営に参加させなさい!」

「いや、それは無理だって、バレるって」


「合戦前までバレなきゃいいのよ。いざ、決戦になったら自分のキャラポイント惜しさに死にもの狂いで戦うわ、そいつ」


(美鳴の奴…ひでえ)


俺は騙されてゲーム上のすべてをかけて美鳴に忠誠を誓わせられる長谷家部のことがちょっと可哀想になったが、それは俺も同じだ。あいつ(長谷家部)と会うときには女装するということだ。


(勘弁してくれ!それにあいつ合コンとか言ってたし…。)


俺も困るが、美鳴たち歴研美少女を男どもの目にさらすのはちょっと嫌な気持ちだ。


早川秋帆…彼女はある意味、この物語のキーパーソンになります。(ネタバレ)名前で想像つきますが。

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