わたしの究極のおもてなしを受けなさい!(七)
本日、主人公に興味を持つ人物2人目。微妙です!
ちょっと疲れた昼飯を終わり、
(と言っても、俺はコーヒーのみ。くそ!A食堂なら350円で定食食えたのに!)
午後は空き時間なので、俺は部室に行くとする。例のごとく、人気のない体育館更衣室ですばやく変身すると、高等部の歴研の部室へ行く。この時間では美鳴たちはいないだろうが、早めに行って昼寝でもしようかなと思ったのだ。
だが、高等部の門のところで本日、2回目の告白を受ける。相手は…。
男
男である。そりゃそうだ。俺はどこから見てもアナスタシア高等部の制服を来た女子校生である。だが、男は男でも、そいつは俺が知っている奴だった。
長谷家部守人。俺と同じ、アナスタシア大学2年生だ。確かラグビー部に入っていて、がっしりとした体格に四角い顔、筋肉のついた腕と太い足で容貌はクマさんって感じだ。洗練されたお嬢様が多く在籍するアナスタシア大では、ちょっと浮いている。細くてひょろひょろの俺からすれば羨ましい体ではあるが。
ただ、奴は俺のことは知らないはずだ。当然、俺の趣味も知らない。だが、こいつの趣味は知っている。こいつも「ネットゲーム戦国ばとる2」ではちょい有名な奴なのだ。なんで俺が知っているかというと、コイツ、普通、匿名か偽名にするのにバカ正直に本名とアナスタシア大生であることをプロフィールに書いていたからだ。
確か、「織田信長」をメインに扱っていたと思う。その長谷家部が、俺に手を差し出して頭を垂れている。185センチはある背丈だから、170センチちょっとの俺は小さく見える。
「お、お嬢さん。ぼ、ぼくは、長谷家部守人って言います。好きです!愛してます!ぼ、僕と付き合ってください!」
(はああああ?)
マジかコイツ。
俺は男だぞ!
そりゃ、美鳴たちも驚くほど化けてはいるが。
「突然のことで驚かれたと思います。あの名前を教えてくれませんか?」
(コイツ、俺の名前を知らないのに好きとか言ってるのか?)
「君をこの校門で見かけた時から、僕のハートは射止められてしまったんです。寝ても覚めても君のことばかり…」
(一目ぼれか…男に?俺に?)
「女を好きになったのは初めてなんです!君は僕の天使だあ~」
この男、硬派だったはずだが、それを打ち負かす俺の美貌ってどんなレベルだ?俺は罪作りなことをしてしまった。長谷家部の初恋の相手が俺?こいつの青春に強烈な傷を作ってしまった。
ごめん!長谷家部。
俺があまり沈黙しているので、長谷家部はちょっと不安になったようだ。俺が驚いて怖がっていると思ったらしい。
「ご、ごめんね。僕ばかり話してしまって。それで、名前は?アナスタシア高等部の何年?」
「さ、3年。島…」
俺は小声で答える。しゃべると男だとバレてしまいそうだからだが。
「やっぱり、左近ちゃん?」
「え?いや、島静音」
俺は思わず、妹の名を言ってしまった。妹は小学4年生であるが。
「静音ちゃんか、この間、友達が君のことを左近ちゃんって言うから、てっきり左近って名前かと思ったんだよ」
「いや、それはゲーム上の名で…」
「ゲーム?もしかして、戦国ばとる2?静音ちゃん、戦国ばとる2やってるの?奇遇だなあ…僕もやってるんだよ。そのゲーム。どの武将でやってるの?左近といえば、石田三成の家老の島左近だよね。大名キャラじゃなくて、武将キャラ専門なの?」
(おいおい、急に自分の得意分野だと知って攻勢か?そんな話、女は聞きたくないぞ)
と俺は思ったが、この姿はいつも俺が女の子たちに示していた姿だ。反面教師と見ると俺も情けない奴であることを自覚してしまった。
「あの…静音じゃなくて、左近と呼んでください」
こんなクマさんみたいな大男に妹の名前を呼ばれると何だか不愉快で、俺は変な注文を付けてしまった。これじゃあ、お付き合いO.K.サインじゃないか?
「お、おう、さ、左近ちゃん」
嬉しそうに言い直す長谷家部。この男、意外と繊細な雰囲気を掴む奴だ。
「じゃあ、左近ちゃん、メアド教えて、スマホの番号も…」
「えー、それは困りますう…」
長谷家部の奴、ここが勝負と強引に出てきた。この野郎、ラグビーのフォワードだけあって、タックルで相手を仕留めるがごとく、初女の子(いや男)をゲットしようとしている。
「いいでしょう。メアドや電話ぐらい…友達には教えているでしょ?」
(お前なんか友達じゃないわ!)
と思ったが、すでに友達というカテゴリーの既成事実を作ってしまっている長谷部家君、君はなかなかのガールハント能力だ。
「男の人に教えるとお父様に怒られちゃう~」
俺はアナスタシア女学生の得意な断り言葉を使う。こういう言葉で、この学校のお嬢様連中は、自分と釣り合わないステータスの男はご遠慮願うのだ。だが、長谷家部はあきらめない。
「じゃあ、君は戦国ばとる2、どこのコミュニティ?僕も参加させてよ。それなら、いいでしょう。コミュニティ内でのコンタクトなら、他の人も見てるし」
(性格にいえば、プライベート機能を使えば、スマホとなんら変わりないコミュニケーションツールとなるのだ)
「石田三成312のコミュニティ…」
俺はつい美鳴のコミュニティを教えてしまった。あまりにしつこいし、どうせ、戦況を見れば美鳴のコミュニティなんかに参加するはずがない。
参加=近日中に突入する関ヶ原キャンペーンモードに西軍にご参加1名ご招待となるのだ。
「O.K.君と一緒に戦いながら、俺という男を見せるよ。それで気に入ってくれたら、オフ会でデートしてください!なんなら、合コンでもいいから!」
必死である。この男、よほど、左近ちゃんに魂を抜かれているらしい。だが、コミュニティで男の俺に会ったら、こいつ腰を抜かすぞ。
そう思っていた俺の両手を急に握りしめて、長谷家部の奴、ぎゅっと目をつむっている。これじゃあ、俺の返事は、
「はい」以外ないじゃないか!
大喜びで走り去る長谷家部を呆然と見つめる俺。
今日はどんな日だ?寡黙美女に勘違い野郎とは…。
長谷家部くん、目が悪いのか、タックル受けすぎて脳震盪を起こしているのか?
いや、それだけ、主人公の女装が完璧だってこと・・・ヤバイ世界に足を踏み入れているのか、主人公。でも、ハーレムに男はいらんわ!




