わたしの究極のおもてなしを受けなさい!(六)
さあ、美鳴のおもてなし大作戦の傍ら、主人公にはさらに、ややこしい人間関係が待ち受けています。
次の日はちょっとした事件が続発した。夏休みまであと1週間に迫ったその日は、朝から授業に出ていた俺は、偶然、隣に座った女子学生から手紙をもらった。それは講義中に、そっと俺の前にスライドしてきた。
ピンクのいかにも女子らしい…便箋であったので、俺は横に座っている娘は、可愛い系のぽにゅとした感じの娘と思いきや、前髪に特徴のあるショートカットで肩を露出させたジャケットを着た女学生であった。可愛いというより、美人。
ちょっとキツイ感じの目が魅力的といえば魅力だ。座っているが体は女子にしては結構大きい。体型はスレンダー。胸はそんなに大きないが、ウエストがしまっているので、お尻がポンと出てセクシーな感じがする。
そして長い脚。美脚美人とはこの娘のためにある言葉といっても良いだろう。
ピンクの便箋の出し主とは思えないのだが、態度は可愛い。顔を真っ赤にしてモジモジしている。便箋を見るとこれまた、イメージとは逆の丸文字で、
ずっと見てました。好きです。
よろしかったら、今日のお昼一緒にいかがですか。
1年 小西雪見
(おいおい、ゆきみだって?雰囲気とは違って、可愛い名前だなあ…)
今までずいぶん、同じ大学の女学生から告白されたが、こういうタイプは始めてだ。姉御って感じのお姉さんタイプ?だ。失礼ながら、一個下には見えない。
講義が終わって、俺は返事をする。まあ、昼ぐらいだったら付き合ってもいいと思ったのだ。どうせ、悪友たちと男子学生御用達の安い学食Aランチが定番なのだから、変わった娘と食事というのもいい。
「ゆきみさんって言いましたっけ?いいですよ。俺でよければ昼食ぐらい」
かあ~っと真っ赤になって下を向く彼女。
(おいおい、この容姿で寡黙キャラかよ?)
「あ、あの、テ、テラスカフェへ…」
テラスカフェは女子学生人気の店だ。金持ち子女の女子学生御用達だから、結構値段が高いのだが、一流のシェフやパテシエが作る料理で人気なのだ。だが、一人軽く3000円はかかる。苦学生の男子にとっては鬼門とも言える場所だ。
(この子もいつもの女と一緒か…)
勝手に誘っといて、勝手に幻滅して勝手に捨てる身勝手な女子と何度、このテラスカフェに行ったことか。
だが、今回は今までとはずいぶん勝手が違う。この娘、モジモジしているだけで話さないのだ。こちらが話題を向けても「はい」とか、「そうですね」とかをポツンというだけで、後は時折、俺の顔を見て赤くなっている。
(今時、めずらしいタイプの子だなあ…)
カフェの食事もいくつもあるコースではなくて、この娘は一番安いアラカルトのスープヌードル(800円)を頼んだ。俺はコーヒー(500円)だったが。(トホホ)
食事が終わって、支払いになると俺はさっと請求書をもって支払おうとしたが、この娘は慌てて、自分のカバン(安そうなノーブランド)からこれまた、アナスタシアの女学生らしからぬガマ口財布をから、10円の混じった硬貨で800円分を出した。
「わ、割り勘です」
また、モジモジしている。
「雪見さんは、お金持ちのお嬢さんらしい感じがしないね。いや、これは変な意味じゃなくて、俺たちアナスタシアの男子学生は苦学生が多いから、親しみやすいという意味で嬉しいのだけど」
「わ、わたし、お金持ちじゃありません。父は大工さんですし、母はパートに出てますし」
(おおっ…本日、一番の長文を話したぞ)
「わ、わたし、一般生ですから」
「一般ですか?」
女子学生で一般入試で入ってくるのは並大抵ではない。そして、入学後の付き合いを考えるとそれだけの偏差値があるなら、国立有名大に進むのが普通だから、一般女子学生はかなり希少な存在であった。
「ここに入るぐらいの実力があるなら、授業料免除は魅力でも国立に行ったほうがよかったんじゃない?」
雪見の格好を見るとまあまあ普通ではあるが、やはり、一般的なアナスタシア女学生と比べるとやはり値段の差は隠せない。小物に至っては完全に俺たちレベルである。
「あ、あなたが、だ、大介くんがこの大学に入学したから…」
「えっ?」
よく聞き取れず、俺は聞き返したが雪見は、
「ご、ごめんなさい。今日は楽しかったです。また、また…し、失礼します」
タタタ…と駆け出した。ヒールじゃなくてスニーカーというのも新鮮だ。
雪見ちゃんには、秘密が・・・そのうち、バレますが。