押しかけ女房なんて許さないんだからね!(七)
なんとか誤解はとけそうですが、太閤殿下からの呼び出しが。
新たな展開の予感が・・・。
美鳴は瑠璃千代の断言に急に怒り出す。
「だ、大介!不潔だわ!不潔!わたしに断りもなしに女を連れ込むなんて!」
「いや、だから、この娘が勝手に押しかけてきたわけで…」
「分かりました。以前から、大介のこの下宿、狭くてボロくて汚いと思っていたのです。いい機会だわ。大介、あなた、引越ししてもらいます!」
「え?引っ越し?俺、そんな金ないし、一体どこへ?」
「もう引越し先は確保してあります。瑠璃千代さんもついでに引っ越すといいわ。もちろん、大介と別部屋ですけど!」
そう言うと美鳴はスマートフォンを取り出して、どこかに電話しだした。
「おいおい、そんな勝手に決めなくても」
と一応言ってみたが、完全無視だ。美鳴は電話を終えると、
「決定よ。本日、ここから立ち退きます。ここの大家さんとは話をつけました。引越し業者も午後に来ます。今日の夜から新居へ行くわよ」
(なんて勝手なやつだ!)
と腹が立ったものの、どうやら新居から引越しの費用など、全部、美鳴が出すらしいと聞いて、俺のささやかな怒りの火も鎮火してしまう。(ちーん)
「それより、大介、すぐ着替えてわたしと出かけるわよ」
「出かけるって?」
「これよ、これ!」
そう言うと、美鳴はメール画面を俺に突きつけた。
治部少輔
本日来られたし。
アークホテル フレンチレストラン アン・ボメール
家老の島左近と同伴のこと
太閤秀吉より
「これは豊臣秀吉プレーヤーのオフ会呼び出しってことか?」
「そうよ。ついに加増決定よ!この間の忍城攻めが評価されたのよ」
(何だかな…そんな単純な話ではないような気がするぞ。それだったら、わざわざ、オフ会に呼び出さなくてもいい。それにアークホテルのレストランは、ちょっと学生には敷居が高いぞ)
美鳴の奴は金持ちお嬢様らしく、そんな場所に出かけていくことは、気にかけていないようだが、貧乏学生の俺はそこへ行くふさわしい格好すら思いつかない。一応、美鳴の奴が選んだシャツにネクタイをしめて、上着を着る。夏なのに暑いのを我慢だ。
「それじゃあ、瑠璃千代さん、引越しの付き添いは、任せたわ」
美鳴のやつ、勝手に午後からの引越しを瑠璃千代に押し付ける。瑠璃千代は、瑠璃千代で美鳴に
「女房を気取るなら、それくらい朝飯前よね?」
と言われて、喜々と引越し準備をし始める。
(ちょ、ちょっと待て!彼女が俺の荷物をいじるのか?それはちょっと、まずいんじゃないか?)
俺はベッドの下のシークレットな書籍の存在を思い出したが、美鳴のやつ、俺の心のウチを読んだのか、
「大介。大介の好きな巨乳とか、OLとか、コスプレ物とか、わたしが全部始末しておいたから。まったく、男ってエッチなんだから!」
とさらっと言いやがった。
(畜生!俺のコレクションが…それより、美鳴のやつ、いつ捨てたんだ?)
いくら自由に忍び込めるとはいえ、彼女でもないのに留守宅に入って片付けするか?そういえば、ここ最近、部屋がきれいに保たれていた。俺自身が綺麗好きとあって、割合きれいにしているから気づかなかったが、こいつ、定期的に俺の部屋を覗いていたらしい
「家来の私生活を管理するのも主君たるわたしの勤めよ」
傍から見れば、彼女が彼氏の部屋の掃除をしているだけにしか見えないのだが、俺はこの2個下の女の子の頭の構造が理解できないのだった。
男の部屋にこっそり行って掃除しておくなんて、美鳴ちゃん、女の子らしいところを見せてくれます。でも、コレクションは捨てないで!