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押しかけ女房なんて許さないんだからね!(五)

さあ、来ちゃいましたよ。この章のヒロイン「立花瑠璃千代たちばなるりちよ」ちゃん。七月なのに振袖は反則だって。

ゲームを抜けると、メールに甲斐姫らしき人物から一本着信していた。


明日、お会いしたいです。

あなた家の最寄りの駅はどこですか?


(おいおい、都道府県も聞かないでどうするんだ?俺が北海道や沖縄在住でも来るのか?)


実際、キャラの簡単なプロフィールで、住んでいる県ぐらいは公開しているプレーヤーが多いが、甲斐姫も俺もそこはシークレットであった。


俺の住んでいる街の駅は…

と打ち込むと、すぐさま、返事が帰ってくる。


では、明日の3時に待ってます。

たぶん、ひと目で私が分かると思いますから


(ひと目で分かる?そんなことできるのか?)


俺は急にドキドキしてきた。そういえば、美鳴と会った時もこんな感じだった。期待以上の美少女だったから、良かったのだが。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 次の日の昼下がりの3時。俺は駅前で大きなトランクを2つ引きずった女の子に出くわす。何故か、艶やかな花柄の振袖を着ているいいところのお嬢様って感じの女の子だ。髪は黒く、着物なので上でまとめており、清楚な感じが体中から溢れていた。


ひと目で分かるとはよく言ったもんだ。こいつがあの甲斐姫だ!と俺は一瞬で直感した。


向こうも俺が「島左近」であることを一発で見抜いたようで、大きなカバンを引きずりながら、俺に向かって手を振る。


「左近様、手伝ってくださいな~」


大きな声で叫ぶので、周りにいる人がみんな俺とその振袖の彼女を見る。


(大きな声で呼ぶなよ。恥ずかしいじゃないか)


だが、振袖の彼女は、美人なので声をかけられるのは不愉快ではない。


「ちょっと、待てよ、すぐ行くから!」


俺が駆け出したとき、後方で女性の叫び声がした。


「きゃあ、ひったくりよ~」


俺の右手をサングラスをかけたヤンキーが突っ走っていく。中年のおばさんの高くもなさそうなハンドバックを手に持っている。


「おい、待てよ!」


と俺は手を伸ばしたが、ひったくり犯は、その手を払い、振袖ガールの方へ向かう。


「あ、危ないぞ!」


俺が叫んだとき、振袖ガールは、ひったくり犯の右手を掴むと、あっという間に腕を絡ませる。振袖の大きな袖が舞い、ひったくり犯も舞い上がる映像が焼き付く。そして、スローモーションのように男を堅いレンガ床に叩きつけたのだ。


「ふう。か弱い女の子に向かってくるなんて…ああ、怖かった!」


(ま、マジかよ)


このひったくり犯を一瞬で投げ飛ばした女の子。名前は立花瑠璃千代たちばなるりちよ。合気道を嗜むというか、道場の娘らしく、合気道どころか、剣道、弓道まで嗜む武道大好き少女。年は18で、高校を出て今は実家の道場で師範として活動しているらしい。それで、この瑠璃千代が、どうして大きな荷物を持っていたかというと…。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「わたくし、左近様の嫁になるために家出してきました!」

「え?」


とりあえず、瑠璃千代を連れて、俺の下宿に荷物を運んで、部屋に入れ、お茶を出した後にこのセリフ。俺は連れ込んだことを後悔した。どうして、こんなことになるんだ!


「左近様が、いけないのです。この連戦連勝のこの私に勝つから、わたくしは、あなた様の妻にならなければならなくなったのです」


「勝ったって、ゲームの中だけで、どうしてリアルで君が押しかけ女房になちゃうのかな」


俺はため息をついた。モテ期というより、これでは女難である。


「我、立花の家の娘には掟があるのです。武芸で打ち負かされた場合は、その者に純潔を捧げよと」

「いや、瑠璃千代さん、純潔って…それはちょっと」


「ご心配なさらないで。わたくし、家事全般、得意ですから妻として十分な働きができます。そこらへんの家事もできない若い女子とは違いますわ」


「いや、そういうことじゃなくて、俺にも事情ってものが…」

「え?じゃあ、昨日のあれは遊びだったのですか?」


(昨日のあれって?あのゲームでの一騎打ちのことか?そりゃ、胸を露出させて、キスまでしちゃったけど、あれはゲーム上で、リアルでやったわけじゃあないし)


「理由はともあれ、ゲームとは言え、私の胸を見るどころか、手でおもみになり、挙げ句の果てには唇まで奪ったのですから、左近様も責任がないとは言えませんわ!」


「いや、そんなんで結婚する奴、今時いないって!」


俺の言うことはもっともだ。時代錯誤も甚だしいじゃないか。でも、確かにあのプリンプリンの感触は今でも思い出せる。俺の嫁ということは、毎晩、あの感触を…。


(いや、何、バカな妄想してるんだ俺は!こんな美味しい、いや、変な話があるものか。ロクなことにならないのは間違いない)


「いや、俺は嫁さんもらうには、まだ若いし、リアルであったばかりの女子を嫁にするほど、頭がライトノベル化してませんから!」


「えーっ、それは私を拒否するってこと?」


目をまん丸にして、振袖娘は俺を見つめる。その目がだんだんうるうるしてくる。そして突然、


「びゃあああああああ。左近様に振られた~瑠璃、どうすればいいのわからないよ~」


手を顔に当てて、大泣きするではないか!


これには参った!

びゃんびゃん泣く立花瑠璃千代を俺は慰める羽目になる。


「な、泣かないでくれよ、このアパートボロいから、近所から苦情が…」

「ぐすぐす…じゃあ、瑠璃をお嫁さんにしてくれる?」


「いや、それはちょっと…」

「やっぱり、左近様は瑠璃のことを弄んだんだわ~わあ~ん」


「いや、君もよく考えたほうがいいって。今日は送っていくから、家はどこ?」

「ぐすん、ぐすん…大分県」


「はあ?ま、マジかよ!?」


もうすでに夕方である。今から空港に走ったところで、飛行機には間に合わないし、そもそも、瑠璃千代の奴、帰りの航空運賃も持ってない。


「かあああ…ありえねえ!絶対、ありえねえ」

「どうしたのですか?左近様」


「俺は島大介、左近はゲームの中だけ」

「はい。旦那様」


「君ねえ…若い男の部屋に泊まるって、それなりの覚悟をしてるんだよね」

「はい。立花瑠璃千代、旦那様との夜の格闘技、受けて立つ所存」


「格闘技って…」

(こいつ、マジで犯したろか!)


と思ったが、一時の感情で一生を棒に振るわけにはいかない。それに大泣きするものだから失念していたが、こいつ、昼間はあのひったくり犯を一撃で仕留めた武道家である。今晩抱いて、明日の朝、嫁にしないなどと言ったら、リアル殺されるかもしれない。


「とにかく、今晩は泊めてやるが、明日は大分に帰ること」

「帰りません。いや、旦那様自身、わたくしを手放すはずがありませんわ」


「手放すとか、まだ、手に入れてはいないんですけど」


俺のイヤミは都合よく無視する瑠璃千代。


「私、甲斐姫は一騎打ちキャラ用で使っていまして。主として、私の主要キャラは、九州の戦姫、立花誾千代たちばなぎんちよなんです。」


「立花誾千代だと…」


「我、立花家はあなたの主君、石田三成の西軍に参加しましょう!」


立花誾千代は実在の人物で、九州の女城主である。夫は立花宗茂たちばなむなしげといって、これも剛勇の武将で史実でも西軍に参加して武名を轟かせている。誾千代が西軍に参加するということは、勇猛な九州の兵が味方になるということである。これは、ゲーム上ではありがたい話だが…。


「とにかく、今日は泊めてやるけど、明日は帰れ。ゲームは離れてもできるだろ」

「いやですう…いきなり、新婚から別居なんて…」


(新婚って、すでに既成事実化してるんですか?)


強いけど弱い・・・このギャップがたまりません!瑠璃千代が戦場で活躍する日は近いか?その前に、美鳴ちゃんの動向が・・・だって、この章のタイトルは(許さないからね)だし。

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