怖気づいて逃げたら許さないんだからね!(五)
あこがれの吉乃ちゃんから、「会いたい」って・・・これは行くっきゃない!
病弱美少女GETじゃ!でも、そうはうまくいかないのがとの常ですが。
その夜、戦国ばとる2の対戦画面を眺めていると、美鳴が戦っていた。だが、いつもの勢いがない。舞さんは一緒に参加しているが、連携が悪く、シナリオモードでの敗戦濃厚であった。吉乃さんや雪之ちゃんは、参加していない。そもそも、石田三成の配下でないキャラであるから、シナリオ上参加できないことも多いのだ。
(美鳴、そこに鉄砲隊配置はだめだ。敵に肉薄されるぞ!あ~っ、そこで突撃するか~敵の鉄砲隊の射撃の的じゃないか!)
これまでそこそこの戦いを見せてきた美鳴であったが、こうやって観戦していると弱点が見えてくる。
(こいつはセオリー過ぎる…)
有利な地形に誘い込んで、じっくりと戦う戦法であるが、攻める気持ちが弱い。確かに手堅いが、逆に敵の奇策に翻弄されて、右往左往した挙句、敵の総攻撃にあっけなく退却する。見切りが良いといえばそうだが、結局、追撃を食らって被害を大きくさせていた。
舞さんの方も戦史の情報にとらわれ過ぎて、動きが堅い。戦国ばとる2は、リアルなスピードで戦況が刻々と変わるので、直感で兵を指揮することが大事なのだが、判断が遅いと感じた。
2人が撃滅されてゲームオーバーになるのを観戦して、俺はフーッと大きくため息をした。俺がサポートしてやらないと、やはり美鳴はだめだ。だが…。
N○Kの大河ドラマの音楽が流れる。俺のスマホだ。見るとメールが着信している。
「あ!吉乃ちゃんからだ…」
今は夜中。入院中の小谷吉乃ちゃんがメールを送ってくるのは、消灯中で苦労するから大変だろうと思った。だから、メールは短く、
美鳴たちの戦闘見ましたか?
明日、会いにきてくれませんか?
あなたに会いたい…
(うおおおおおっ!)
「あなたに会いたい…」
すごくいい響き。それが俺のスマホ画面に刻まれている。俺の頭の中は小谷吉乃ちゃんのあの清楚な姿で占められる。
(吉乃ちゃんが、俺に…会いたいって!)
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夕暮れ時の病院の屋上で、俺は吉乃ちゃんの乗る車椅子を押して一緒に沈みゆく太陽を見ている。かすかな風が吉乃ちゃんの髪を舞わせる。それをさりげなく耳にかける彼女を横目で見る俺。
「あの…今日はどうして、俺を呼んだの?」
「だ…大介さんにお話したいことが…」
吉乃ちゃんの顔にほんのりと赤みが増す。
(うおっ!これは、まさか、告白?)
「あっ、だめ…心臓がドキドキしてしまう…。わたくし、ひと目見た時から、あなたのことが忘れられなくて…」
吉乃ちゃんが胸に両手を当ててゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「と、いうことは吉乃ちゃんは、俺のことが…」
「わたくしの気持ち、分かってくださらなかったら、お・ば・か・さんよ!」
「わ!もう辛抱たまらん!よ・し・の・ちゃ~ん、好きじゃあ~」
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「どうしたのですか?大介様」
「え?ああ、ちょっと考え事が…」
先ほどまでの妄想を振り払うように俺は頭を振った。妄想通り、吉乃ちゃんの車椅子を押して屋上に来ている。夏だから寒くはないが、夕方の日差しがまぶしく、それを避けるために吉乃ちゃんは入院着につばの大きな帽子をかぶっている。かすかな風を感じて、俺は先ほどの自分の妄想を思い出した。
(ま…まさか…吉乃ちゃんが告白してくれるのか?いやいや、ここで勝手に早ガッテンして期待しちゃ、がっかりの2乗だ…でも、メールは「あなたたに会いたい…」だったし)
「大介様、わたくし考えたのです。そしてある結論を得ることができました」
「け、けつろん?」
俺の心臓の鼓動が高鳴る!
(うおおおおっ…病弱美少女ゲットだぜ!ってか?)
だが、吉乃ちゃんの次の言葉でがっかりの3乗を体験する。
「あの本多忠勝プレーヤーの動き、わたくしたちとは次元が違います」
そう言うと吉乃ちゃんは、タブレット端末を取り出し、この前の戦いの再現を再生した。
「このプレーヤーの持ち味は瞬時に判断し、すぐさま兵士に命令すること。そのスピードはわずか1、2秒。わたくしや雪之ちゃん、大介様も早いけれど、どうしても5~10秒はかかるわ。これは戦国ばとる2の上級プレーヤーも一緒。でも、このプレーヤーはこの操作を同時に2箇所以上でやっている…」
「ど、どういうことです?」
「おそらく、端末を2つ以上起動し、同時に操作しているのでしょう」
「そんなことができるのか?」
俺は戦国ばとる2のシステムには詳しいが、そんな操作法はできないし、そもそも、一人でコンピューターを2つ以上操るなんてできないだろう。
「でも、今までの戦を分析すると、そういう結論になるのです。これを見てください。大介様が2回目に敗れた戦い。まず、陽動で足軽隊が来ます。大介様はそれを見抜き、後方の兵を左右に展開させて包囲しようとしましたが、すでに鉄砲隊と騎馬隊がここに現れて、分かれた味方が各個撃破されていきます。こんなに早く展開するには、最初の陽動を命じた際に同時に2軍に命令しないとできないですわ」
(確かに…同時に3つの部隊を動かさないと間に合わない)
俺は過去の戦いを思い出した。あの本多忠勝プレーヤーは神出鬼没の用兵をしていたが、もし、こちらよりも同時に手数が多ければ、その秘密は解明できる。要するにこちらが5秒かけて1軍を動かしているのに、やつは3軍を動かせるのだ。
「このプレーヤー、奇策を用いる変幻自在の用兵家と思いきや、実際は正統派で手堅い指揮をしているのも特徴です。兵数は十分用意し、少数では戦いを避けています」
そう言って、吉乃ちゃんはあの金帯忠勝の過去データまで端末に移す。
「だが、吉乃ちゃん。そんなに多くのパソコンを動かすことなんかできるのだろうか?」
素朴な疑問だ。奴が違法なプログラムなんかを使って、自分だけ倍速、3倍速でゲームしているならともかく、それを2つ3つのコンピューターを操作して実現するなど、人間業ではない。
「大介様は、ディトレーダーって職業知ってます?」
ディトレーダー…最近の株価低迷で話題にならなくなったとはいえ、数秒単位で株を売り買いをして利ざやを稼ぐ職業だ。昔、テレビ取材されたディトレーダーの部屋が公開されたがいくつものモニターが映し出され、ものすごいスピードでキーボードを叩いて操作していたことを思い出した。
「もし、その金帯忠勝が、そんな超人なら、俺たちは勝ち目がないんじゃないか?」
率直な意見だ。向こうは同じ思考で動く武将のチームを持っているということになる。一人では勝てないということだ。いくら判断が早いとネットで賞賛される名軍師の俺でも、その3倍、4倍のスピードで攻撃されては対応ができない。
「そう一人では勝てないわ…。だから、こちらはチームで対抗するしかないわ。命令をやりとりしなくても、各自が大介様、いや島左近様の軍略を理解して戦うこと」
「それはテレパシーみたいなものがないと無理なんじゃ…」
「ふふふ…女の子はね、そのテレパシーがあるんですよ」
そう言って吉乃ちゃんは片目をつむった。そして俺の手を取る。
(うおおおおおっ、か、可愛い!そして、俺を誘っているのか?いや、これは、誘っているでしょう!絶対、間違いない…と…思うのだが)
イケメンでこれまで数多の女子に告られた俺が思うのだから、間違いないと言いつつ、一ヶ月も持たず、しかもキスすらできなかったヘタレな俺だから、やっぱり自信がない。いや、俺は最近になってファーストキスは体験している。
俺はレベルアップしているのだ。
ぐぐぐ…っと吉乃ちゃんの手を握り返す俺。俺好みの美少女である吉乃ちゃんのお誘いなのだ。ここは勇気を振り絞って…俺は目を閉じ、吉乃ちゃんに顔を近づける。
おお!主人公、二人目の美少女と・・・。でも、ヒロインの親友はちょっとまずくないか?




