第2次関ヶ原の決戦~愛が勝つに決まってます!(五)
いよいよ、最後の決戦!東宮院是清との戦いです。ごめんなさい、いろいろあって、長くなってしまい、あと3回などと嘘を言いました。今回を入れて2回の予定です。次回で決着!最後はエンディングです!
連休中に終了ですね!
「加藤清正殿、討ち死にとのこと。北西方面の我が軍は崩壊しつつあります」
家来のもたらした恐るべく報告に東宮院是清は、
「あの男が討たれるとは…どんな茶番劇だ」
と強がったが、これで内心、実質的な勝利を諦めざるを得ないと思った。南西方面も東軍は押されまくっており、かろうじて黒田メイサが戦線を維持している状況で大混乱状態であった。
実質と書いたが、是清はゲームのルール上の勝利までは諦めてはいなかった。そう、ゲームルール上はどんなに敗北していても敵将を討ち取れば、それで勝利なのだ。そして、その勝利への方程式は出来上がっていた。西軍総大将の石田美鳴の全面に展開する西軍主力、上杉・伊達連合軍は自分の徳川勢に撃破されつつある。兵数や強さ、そして指揮する能力、キャラの強さに至るまで、この上杉景勝、伊達政宗プレーヤーは自分と遜色ない力を持っていた。だが、
(女なんぞにうつつを抜かすから、戦いに敗れるのだ!)
東宮院はこの両軍を撃破するために弱点をついた。そう直江愛ちゃんの指揮する直江隊への集中攻撃を行ったのだ。それを無理に救おうとする両者の動きを読み、バランスを崩させ、今は自軍の本多忠勝、井伊直政と徳川家康本隊による車懸りの突撃隊形に完全に崩壊させつつあった。この分厚い部隊を突破すれば、敵の本隊はむき出しで戦況がどうあろうと、自分の勝利は確定するのだ。
(見たか!小谷吉乃…愛などという馬鹿げた感情では、何も救えないのだ!)
東宮院は思わず、西軍に属した少女の名前を頭に浮かべた。小谷吉乃は前回の関ヶ原の戦いの折に、友人である石田美鳴のために獅子奮迅の活躍をしたのち、戦場の露と消えた少女だが、リアルでは心臓の病で危篤になり、是清が手配した医師によって一命を取り留めたのであった。
「またお見舞いに来てくれたのですか?」
ベッドに半身を起こして吉乃は微笑んで、部屋に入ってきた是清に話しかけた。手術が終わって毎日のように是清は吉乃を見舞っていたのだ。部屋には是清が贈った花や果物が所狭しと飾れている。吉乃の状態は劇的に回復しており、もう見舞い客と話せるほどになっていた。是清は吉乃のはかなげな微笑みに少したじろいだが、いつもの冷たい口調で、
「別に好きで来ているわけではないぞ!お前の関ヶ原での活躍に感心したからであって、これは僕の気まぐれに過ぎない」
「そうですか。では、わたくしも気まぐれに友人の敵のお見舞いを受けますわ」
「ふん。皮肉を言うくらい体の調子は良さそうだな」
「おかげさまで。東宮院様こそ、ずいぶんおやつれになっていますわ。ちゃんと食事は取っていらっしゃるのですか?」
吉乃にそう気遣われて、是清は悪い気はしなかった。関ヶ原で西軍を撃破し、ストンデングループの買収、そして棚ぼたに毛利屋まで手に入れて、頂点に登ったくらい充実感があった数日前と比べて、現在はありえない展開で一気に劣勢に追い込まれて、すべてが無とかしてしまいかねない状況に置かれている。ここ数日、ろくな食事もしていないのだ。鏡で確認しなかったのだが、貴公子然している普段とは違い、ヒゲも伸び放題の酷い顔をしているに違いなかった。
「東宮院様、物事の成否はやはり、人の愛で決まるのではないでしょうか?」
「愛?愛だと…馬鹿げている!」
「ふふふ。でも、ここ数日の逆転劇を見ると人の思いが流れを断ち切り、違う流れへと誘っているとは思いませんか?」
「…」
「愛の形はいろいろです。男女間の愛はもちろん、友情も愛。東宮院様はわたくしのために手を尽くしていただきました。あなたは気まぐれとおっしゃいましたが、それも人間だから成せる行動ですわ」
「愛などで…人間が幸せになれるものか!」
「わたくしは幸せです。あなたの気まぐれでわたくしの命が助かったのは事実ですから。だから、あなたにわたくしは心を込めて言います。ありがとうございます、命を救ってくださって。わたくしは生きて、また素晴らしい友人たちと出会える幸せに感謝しています」
「お前を救ったのは、心臓外科の世界的権威のドクターのおかげだ。僕のせいじゃない」
「はいはい。これでも食べてくださいな」
話しながらリンゴの皮をむいていた吉乃は、小皿に切り分けて東宮院の前に差し出した。思わず、手に取り口に入れると甘酸っぱい果実の汁が全身に行き渡り、疲れきった体に染み込んでいく感触を味わった。
(小谷吉乃…お前は愛が人を救うなどと、世迷言を言っていたが、それはお前が死の淵から生還したことでそう思い込んでいるだけだ。この状況を見よ!)
現に上杉も伊達も愛する小娘を一人救うために自分を見失っている。自分ならこんな無様な用兵はしない。
「是清様、上杉・伊達連合軍、完全に撃破しました!」
(勝った!)
と是清が思った時、西軍の本隊前線で指揮する俺こと島左近は、
(負けたかも・・・)
と思った。
「くそ!あと3分、あと3分でいいんだ!時間稼ぎができないか!」
福島帆稀と細川ルシアが指揮する南西方面、加藤清正を討ち取った北西方面は西軍が勝ち、東軍は敗走しつつあるのだ。時間さえあれば、この両軍が徳川勢を包囲し、完全勝利が確定する。だが、現実、本隊同士の戦いは、東軍に軍配が上がりつつあるのだ。徳川隊の勢いは圧倒的だ。こちらも予備隊の真田隊を投入すれば時間稼ぎはできるだろうが、それでは俺の勝利への方程式が決まらない。真田隊は守備に投入するのではなく、攻撃の一手に使いたいのだ。
「もはや、これまでだ!石田美鳴、島左近!ここで戦場の露と消えろ!」
「大介…」「美鳴…」
美鳴がいつの間にか、俺の背後に寄り添っていた。ギュッと俺を後ろから抱きしめてくる。
(ここまで来て、俺たちは敗れるのか…。俺はまたしても美鳴を守れないのか?)
その時だ!
パンパンパンと銃声が鳴り響き、勢いづく徳川勢をなぎ倒した。
突然、八百人程度の軍勢が徳川隊と石田隊の間に割り込んだのだ。
その軍勢は…「違い鎌」の旗印、小早川秀秋…そう早川秋帆ちゃんだった。
最後の最後に秋帆ちゃん!再び、裏切って乱入!劇的に散るフラグが・・・!




