王子様は危機一髪の時に現れるのよ!(六)
ゲームでもリアルでもついにヒロインを救出に成功します。
関ヶ原で待ってるわ・・・美鳴ちゃんの挑戦状が叩きつけられます。
「TBGテレビです。東宮院ファンドの今回の買収劇の真のねらいはなんでしょうか?」
「先程も申し上げたでしょう。ねらいはストンデングループの立て直しと日本経済の再生です。僕が経営に参加すれば、死に体の老舗企業を立て直すことができます」
「しかし、あなたはこれまで買収した企業は解体して売り払うことで莫大な利益を上げてきたのではないですか?」
「それは一面でしか考えていませんね。企業再生には痛みが伴います。不採算部門は切り捨てることはいけないことですか?」
「毎朝新聞です。この買収劇に裏の経済界のドン、五代帝治郎が絡んでいるとの噂がありますが?」
「噂です。そんな人物と僕はなんの関係もありません」
「不採算部門の切り捨てをすると、ストンデングループの従業員の50%が失業するとの試算もありますが…」
「君はどこのメディアですか?名前を言いなさい」
「NNKテレビ経済部の寺部です」
「僕は買収した企業の従業員も大切にしますよ。首を切るのは最低限です。その後の就職斡旋も考えていますよ。その証拠に、ストンデングループの創業者令嬢、石田美鳴嬢とこの僕が婚約をする予定です。紹介しましょう、僕のフィアンセ、石田美鳴嬢です」
会見場が暗転し、スポットライトが入口の扉に照らされる。そこにドレスで着飾った美少女が立っている。その少女は少しだけ笑って、軽やかな足取りで是清の元に歩み寄った。
「ご承知のとおり、創業者の石田家はこれまでどんなに会社の業績が低迷しても、従業員を解雇することはありませんでした。それがストンデングループの社訓でもあったわけです。僕が創業者のご令嬢と婚約するということは、その精神を受け継ぐということです」
是清はそう説明した。だが、実際は時間稼ぎのカモフラージュであった。従業員の抵抗を抑えることで買収を円滑に進めるための工作である。
美鳴が席に着くと、マスコミの取材がこの美しい美少女に集中する。
「石田さんは、まだ高校生で幼妻ということになりますが?」
「東宮院社長に嫁ぐ心境は?」
「やはり、自社の従業員を守るために身を捧げるということでしょうか?」
美鳴は微笑みながら、ゆっくりと席を立った。是清は登場してからの美鳴の落ち着きぶりに、最初はこの気丈な娘が覚悟を決めただけと思ったのだが、どうやら思い違いであったと思い始めた。美鳴の態度がとても安定していて、幸せに満ちていたからだ。彼女を捕らえてから、今までそんな表情をしたことは一度もなかった。
「しゃ、社長!」
東宮院ファンドの社員が慌てて、小さなメモを是清に手渡した。それを読んだ是清の顔が青ざめたのと、石田美鳴がその左手薬指にはめた婚約指輪を外してテーブルに置いたのが同時であった。
「マスコミのみなさん!わたしはこの男なんかに嫁ぎません!わたしはまだ戦います。ストンデングループと従業員3千人、そしてこのわたしを賭けて、関ヶ原で戦います!東宮院是清、わたしはわたしの信頼できる仲間と共にあなたを滅ぼすわ!かかってきなさい!関ヶ原で待ってるわ!」
美鳴の宣言と同時に、扉が開け放たれた。両扉を本多アギトと浮竹栄子が開け放ち、中央に一人の青年が立っている。その後ろに狩野舞、立花瑠璃千代、小西雪見、安国寺恵、長束英美里、長谷家部守人、織田麻里、真田雪之、直江愛ら西軍の関係者が取り囲んでいる。
「美鳴!迎えに来たぞ!」
俺はそう会場に響き渡る大声で呼びかけた。
「大介!」
美鳴が駆け寄る。俺は美鳴を抱きとめ、くるりと回転した。マスコミのカメラのフラッシュが一斉にたかれる。テレビカメラも一斉にこの瞬間を撮る。
「東宮院是清!もう情報は入っていると思うが、石田美鳴はゲーム上でも奪回した。もう一度、勝負だ!貴様を関ヶ原の戦場で倒す」
「くそ!貴様らごときが…この僕に…」
東宮院の元に次々と情報が入る。五代のじいさんから取引保留のメールや、ストンデングループの株が暴落が止まり、横ばいへと転じたという情報。複数の銀行がストンデングループの支援に乗り出す準備を始めたというニュースまで出た。皆、どちらが勝つか、思案を始めたということである。
その晩のテレビ、ネットなどの情報番組はこの東宮院ファンドの買収劇の頓挫で持ちきりであった。そして今まで噂はあったものの、戦国ばとる2というネットゲームがこの買収劇に連動していたという事実を知って、俄然、このゲームの行く末が注目された。もはや、五代帝治郎の思い付きにとどまらず、この決戦の結果で買収成立か失敗かが決まることが公表されてしまったのだ。
さあ、第2次関ヶ原の戦いが始まる。上杉、伊達連合軍VS徳川?ありえない組み合わせの戦いになるのか~?