王子様は危機一髪の時に現れるのよ!(参)
西軍の謀主である石田美鳴ちゃんが捕まり、東軍による戦後処理が行わる状況で、東軍諸将の心にヒビが入っていきます。
さあ、ここから巻き返しだ!まずは、美鳴ちゃんを救わねば!
「是清様、リーダーを雪見姉さんを釈放してください。このままでは、あまりに可愛そうです!」
藤堂魅斗蘭は、ゲームの中で東宮院是清に直談判していた。関ヶ原の戦場から逃亡していた小西雪見は、捜索する東宮院の指揮する徳川の兵に捕らえられたのだが、東宮院は見せしめのためにゲーム上で引き回しの上、処刑するというイベントをしようとしていたのだ。
そもそも、藤堂魅斗蘭は西軍の総大将石田美鳴と島大介に雪見が騙されていると思い込み、敬愛する先輩である小西雪見を救うべくこのゲームに参加したのであるが、これでは元も子もない。彼女自身はゲームにはさほど興味がないので、決着がほぼ決まった以上、さっさとこんなゲームは止めてたいのだが、肝心な雪見が自暴自棄で話しかけても反応せず、独り言のように、
「私なんか、どうでもいいのよ…」
とつぶやいている姿を見て心を痛めていた。さっさとゲーム上で処刑されてキャラをロストしてもらえば、ゲームとはおさらばできるのだが、東宮院はイベントのキャストとしての役割を小西雪見に求めていた。
(これじゃあ、東軍が勝っても意味ないじゃないか!)
魅斗蘭は、明らかに精神的に壊れつつある小西雪見を見て、とても悲しくなった。この原因はおそらく、あの島大介であり、たぶん、雪見は手酷く振られたからだと思っていたが、ゲームの重要な局面で振るなんて予想外ではあった。
(もしかしたら、わたしらは、この男にいいように使われたんじゃないのか?)
と魅斗蘭の心に疑念が湧いていた。捕まえた雪見の扱いにしてもそうだ。
「東宮院様。藤堂魅斗蘭のこれまでの功績と引換にして、雪見姉さんをロストさせてあげてください」
もう一度、藤堂魅斗蘭は懇願した。今回のゲームでの彼女の活躍はなかなかのもので、岐阜城での活躍、関ヶ原の戦場での宇喜多勢への牽制、大谷勢にトドメを差した脇坂らの諸将は、彼女が送り込んだレディースのメンバーで、勝利に大いに貢献したといったも過言ではない。その彼女の頼みである。だが、東宮院は取り合わない。
「小西雪見の罪は重大である。捕らえた以上はこちらに役だってもらう」
そう宣言した。
(ならば…)
と直接、小西雪見にゲームからログアウトするように言ってみたのがまったくその気はない。処刑されてけじめをつけたいのだろうか?
魅斗蘭はだんだん、腹が立ってきた。やはり東宮院の奴にだまされたのだ。東軍の狼どもから雪見が恥ずかしめを受けないように守ってきたが、京都市中を引き回されるというのでは、あまりにもかわいそうで看過できない。いくらネットゲーム上でも許せない。
ピロリン…
魅斗蘭のところにメールが入った。
小西雪見の件
救う方法あり
東宮院の奴に一泡吹かせたくないか?
風魔小太郎
(西軍の残党からか?)
魅斗蘭は少し考えた。
(まあいい。リーダーが救えるならアイツ等と手を組むか?)
魅斗蘭は思い切って、返信ボタンを押した。
「もう来るなってどういうこと?」
帆希は大津城の一角で是清にそう告げられて、ヒステリックに聞き返した。
「二度も言わない。お前は用済みだ。さっさとゲームからログアウトして、リアルでも僕の目の前に現れるな!」
「ひ、ひどい。あなたがゲームで困っているからというから、わたしはやりたくもないことをして、あなたを助けたんだ!わたしは役にたたなかったのかい?」
「役には立ったさ」
「そ、それなら…」
確かに福島帆稀がこの「戦国ばとる2」関ヶ原キャンペーンモードで果たした役割は大きい。戦功も大したものだ。だが、東宮院是清にとって、次に役立たない人間は切り捨てる対象であった。次のステージでは、馬鹿で教養も品もないこの女に期待するものは何もなかった。
「確かに、お前はよく活躍したさ。だが、ゲームでの役割はもうない」
「ゲームは終わりでも、わたしは是清様の役に立てるよ。そ、そう、どんなことでもやってあげられるよ。是清様を心身ともに慰めてあげられるよ!」
そう言って、帆希は上着を脱ぎ始めた。彼女としては必死である。だが、是清はそんな帆希の姿を見て、冷たく笑う。
「もうお前は飽きた。抱き心地はよかったから、他の男に媚を売りたまえ。せいぜい、可愛がってもらえるさ!」
「そ、そ、そんな、酷いよ。是清様!」
「うるさい!さっさと出て行け!者共、福島帆希をつまみ出せ!」
徳川の兵士が現れて、帆希はつまみ出されてしまった。
「うあ~ん。酷いよ、酷いよ!こんな別れ方なんてないよ~」
おいおい泣きじゃくる。リアルでは蓮っ葉なギャルを演じていたが、根はやはりお嬢様で世間知らず。身持ちも見た目からは考えられないほど固く、挑発的な格好や言動はするものの、男性に対しては臆病でキスをしたこともなかった。東宮院是清に優しい言葉をかけられて、身も心も捧げて尽くしたのにこれではあんまりだ。
「どうしたの?君」
帆希は肩を優しく叩かれたのに気づいた。恐る恐る顔を上げると…
(お、お、王子様?)
金髪で端正な顔立ちの若い男の子が立っている。まさに涙に浮かぶビジュアルは白馬の王子である。もちろん、ゲーム上だからジョルジュの格好は武将の格好だが。
「あ、あなたは?」
「僕は細川ジョルジュ忠人。ゲーム上じゃあ、なんだっけ?妹の軍の家来らしいけれど」
「細川って、ルシアのお兄さん?」
「ああ。そうだよ。それより、君、どうして泣いているの?」
優しくそう言われて、帆希は思わず、ジョルジュの胸に顔をうずめて泣いてしまった。それを優しくなだめる王子様。ひとしきり泣いた後、帆希は経緯をジョルジュに話した。
「なるほどね。君はいいように利用されて振られたわけだ。かわいそうに。まあ、元気出せよ。それは縁がなかったということ。かくいう僕も振られたばっかりだけどね」
「え?ジョルジュ様が振られるなんて!ありえないわ」
帆希はそう思う。なにしろ、ルックスはありえないほどカッコイイ。それでこの優しい言葉遣いだ。惚れる女の子はいても振る女の子などいるわけがない。
「お互いうまくいかないよな。気になる子には振り向いてもらえず、そうでない子には言い寄られ。」
「…そうね」
「ところで、帆稀ちゃん」
「は、はい!」
帆希は急に顔が真っ赤になった。生まれてこれまで、「帆稀ちゃん」なんて呼ばれたことがない。
「君にお願いがあるんだ。力を貸してもらえるかな?」
ジョルジュはこの見た目が蓮っ葉なギャルの帆希に興味を持った。これまで自分の周りにはいなかったタイプだ。正直、自分の好みとは言えないが、何だか気になったのだ。また、東軍屈指の荒武将を演じる彼女の力を純粋に必要としていた。
「は、はい。ジョルジュ様」
「様なんていいよ。ジョルジュでいいよ。帆稀ちゃん」
「は、はい。ジョ、ジョルジュ」
顔が真っ赤になる福島帆稀。
(ど、どうしたんだ私は?)
「じゃあ、ネット上じゃあいろいろ危険なので、リアルでお茶しながらどう?」
「よ、喜んで!」
あの嫉妬深い妹のことが一瞬だけ頭を過ぎったが、帆希は突き進むことにした。
(これは絶対運命の神様が降りてきている!)
ちなみに東軍で活躍した福島正則。戦功で広島に大封をもらうも結局は改易されてしまいます。家康もこういう人物は、使い捨てにしたのですね。




