さらば!友情、さらば!わたしの恋(九)
ゲームでは木のうろに、リアルではホテルの一室で一晩過ごした主人公たち。そこへ、落ち武者狩りの連中が来ますが・・・。
「大介、大介…」
俺は体を揺り動かされて、目をゆっくりと開ける。そこに美鳴の顔があった!
「おわっ!ち、近い~」
見れば美鳴のヤツ、いつものマウント姿勢で俺の体にまたがっている。
(本日はイエロー地に白抜きのハート柄なんて、観察している場合ではない)
「今、何時だ?」
「昼の2時よ!お昼ご飯はルームサービスで取ったから…」
見るとテーブルの上にピザとコーラが置いてある。俺は体を起こす。美鳴はベッドから降りるとソファに腰掛け、ゲーム端末の画面を見始めた。
「あれからどうなっている?」
俺は洗面に行って、顔を洗いながら美鳴にそう尋ねる。時間が時間だし、そんなに状況は変わっていないはずだ。戦闘行為は夜の7時からだから、岐阜城をめぐる攻防戦も今晩から始まるとは思うが。
「東軍の残党狩りに公募で1500人も集まったようよ。私たちがどちらに逃げたかなんて予想するサイトや、いつ捕まるかなんて、賭けのサイトまであるわ。まったく、勝手な連中ね!」
(1500人て、どんなけ集まったんだ?)
かなりの参加人数ではある。まあ、雑魚キャラの集合体だから驚異ではないのだが。それより、東軍正規軍の捜索隊の方が怖い。捕まってしまえば、それでこのキャンペーンは終わりである。顔を洗った俺は、テーブルに座り、ピザをつまんだ。まだ焼きたてで熱い。美鳴のヤツ、ピザが届いてすぐ俺を起こしたらしい。まだひと切れも食べられてなかったので、俺と一緒に食べようと思ったのかもしれない。何だか可愛いやつだ。
「東国はどうなっている?」
「愛ちゃんと雪之ちゃんが頑張っているわ。昨晩の戦いで宇都宮の駐屯軍を撃破して、今晩にも上杉、伊達連合軍が江戸へなだれ込む勢いだわ。上州からは雪之ちゃんの軍団も迫っているし。この方面では勝利は間違いない状況よ」
「となると、俺たちの脱出が肝心だぞ。いくら善戦していてもこの戦いの首謀者である石田美鳴が死んだらゲームオーバーだからな」
関ヶ原で勝ったものの、東宮院も本拠地江戸がピンチであり、全体としては、勝負は5分と5分というところだ。ただ、西軍の実質的総大将である石田美鳴が敵の勢力圏内で逃亡中という絶体絶命のピンチであるのと、今日にでも西軍の本拠地である大阪城が占領されるのは確実で、何らかの手を打たねばジリジリと東軍の勝利が確定していくであろうことは間違いない。
「大介、敵の搜索も本格化してくるわ。食事したら、ログオンして何とか脱出するわよ」
「ああ」
美鳴と一緒にピザを食べ、ログオン後どう動くかを話し合った。当初の目標は大阪城であったが、それは困難な上に間に合いそうもない。三成の本拠地、佐和山城は今晩にでも陥落するだろうから、意味がない。となると、瑠璃千代たちが確保している岐阜城しかない。
つくづく、この織田麻里さんが死守するこの城を確保していてよかったと思った。関ヶ原前哨戦で俺が城に乗り込み、奮戦しなければ東軍の手に落ちていたであろうから。
食事を終えた俺たちは、早速ログオンした。セーブデーターをロードするとあの大木のうろのところで二人で抱き合っているところから始まる。
「うおおおおっ!」
「きゃあああ!」
慌てて離れる俺と美鳴。昨晩はどうってことなかったのだが、昼間だと妙に意識してしまう。慌てて俺はうろから転がるように飛び出す。外は昨晩の雨とは打って変わって晴天である。鳥の鳴き声まで聞こえてくる。
「敵はいないようだ。そろそろ行こう、美鳴」
「左近、姫でしょ!」
(はいはい…。いつもの美鳴ね。でも、よかった)
自刃するのを止めて、思わず一緒に逃げたものの、やはり戦いに負けたショックで美鳴のヤツ、ゲームを終わらせる気になりはしないかと思ったが、なんとか生き延びる気持ちになったことがうれしいと感じた。逃げ切れれば、まだ、逆転の目はある。そう俺が思った時、ピンチロリーンとゲーム画面が鳴った。
敵にエンカウントしました。
落ち武者狩りのグループです。
戦う 逃げる
選択画面が出る。
確認するとレベル3~5のプレーヤー7人である。
俺は「戦う」を選択する。
この程度の敵なら、逃げずに戦った方がいいとの判断だ。なぜなら、こいつらのような公募による残党狩りは、逃げているものが弱いことが前提であり、自分より強い相手と出くわすことは想定していない。大本命中の石田美鳴と島左近と出会うなんて思わないであろう。こういう輩に圧倒的な力を見せておけば、公募の参加者が減ると思ったのだ。
「おお!落ち武者見っけ!」
「皆の衆、落ち武者らしき2人発見」
「おいおい、俺たち、ラッキーじゃね?女連れの落ち武者だぜ!」
「おい、兄ちゃん、女は置いてけば、キャラロストは勘弁してやるよ」
「おいおい、八郎氏、そんな思ってもみないこといっちゃいけないよ」
(はあ~)
俺はため息を付いた。こいつら、俺や美鳴のレベル確認もしない素人だ。レベル3~5だから、少しは期待したのに…。俺は槍を構えると7人中、一番格闘レベルが高い真ん中の武者を「えい!」とばかりに突き刺した。
「え?」
避けるまもなく、そいつは絶命する。(ゲームロスト!)
「え?っておい、どういうことだ?隊長が一撃?うそ?マジ?」
キョトンとしている両隣の武者二人を返す槍で切り飛ばすと、やっとこいつら、状況が分かってきたらしい。
「ぎょええええ!こいつらレベル高い~。男の方は神レベルだ~」
慌てて逃げようとする4人を追いかけて、後ろからザックザックと突き刺して、あっという間に討ち果たした。この程度のレベルの敵なら問題ないのだ。
「左近、敵よ。今度は東軍の正規部隊だわ!」
付近を警戒していた美鳴がそう言った。まだ、エンカウントしていないので、向こうは気がついていない。俺は美鳴の手を引いて斜面を駆け下りた。谷川に下りて大きな岩の間に身を潜める。敵は30人の小部隊であるが、さすがにレベルは10以上あるので、俺一人では厳しいし、これだけの人数と戦えば、他の部隊や落ち武者狩りの連中に見つかりかねない。といっても、この岩の陰程度では、いつかは見つかるだろう。すると美鳴が俺の背中をツンツンした。
「なんだ?」
「左近、あそこなら隠れられるかも?」
見ると川岸に蔦で入口を覆われた小さな洞穴がある。この角度からかろうじて洞穴と分かるから、中に入って蔦で入口をふさげば外からは分からないだろう。
「よし、あそこへ隠れよう」
「そうね。昨日と違って狭くないし」
さらりと美鳴が言ったが、イヤミではないようだ。
洞穴の入口は人がかがんでやっと入れる大きさ。でも、中は広くてたって歩ける。奥行は10mほどだが岩がところどころ突き出ていて、奥は容易に見渡せない。俺は美鳴と奥の岩の間に身を潜めた。
雑魚キャラはサクサクと排除して、先に進みます。