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さらば!友情、さらば!わたしの恋(八)

風魔の小太郎こと、本多アギトの兄貴のおかげで、リアルでも何とか逃亡を続けている主人公たち。戦後処理とその他の西軍の動きが気になります。

「おや?優秀な弁護士さんが朝から酔っ払っているとは?」

「安国寺先生…」


 安国寺恵は、昨晩のゲームで、東軍の狼どもに恥ずかしいコスチューム(くのいち、姫、うさぎの着ぐるみ等)での撮影会をされて疲れきり、嫌な思い出を振り払いたくて事務所の冷蔵庫にあった缶ビールを10本も飲んで机に突っ伏して寝てしまったのだ。そんな酒に酔ったとろんとした表情で声をかけてきた2人の男を見た。


「よ、吉川専務?と、毛利元人さん…?」

「先生、大丈夫ですか?」


 そう言って、元人はコップに水をくんで差し出した。それをグッと飲む。吉川は手にプリントアウトした写真を数枚差し出した。


「ふふふ。インテリ弁護士様がいい格好ですな。そういう格好でいれば、あなたとはうまく行っていたかもしれませんな」


 そう言って吉川はニヤニヤと恵の体を足のつま先から胸まで舐めるようにいやらし目付きで見た。あまりの屈辱に安国寺恵は体を震わせる。写真にはウサギの着ぐるみを着せられた自分の姿が映っている。

(もう一枚はナース姿で巨大な注射器を抱えさせられている。写真のコメントに、お注射しちゃうぞ!?なんてプリントしてある)


「あなたのせいで!これで毛利もおしまいよ!」

「はっはは!おしまいなものか!毛利屋の繁栄のスタートだよ。ストンデングループの買収劇に一役買って、恩を売りつけたんだ。東宮院ファンドは毛利屋から手を引いてくれるよ。君の馬鹿な対抗策に社長も騙されるところだったよ」


「吉川さん、それってどういうこと?」


 毛利元人が吉川の発言に食ってかかった。彼は父親の命令だというので、吉川専務に従ったのだ。今の話だと、父親も知らないところで吉川専務が東宮院ファンドと通じたことになる。


「お坊ちゃんは黙っていなさい!全部、高度な経営判断による行いです」


そう一喝されると、お坊ちゃん体質の元人は何も言えない。


「お前は顧問弁護士解任だ。明日の臨時取締役会でそういう判断が下る。まあ、ゲーム上は史実通り、京の三条川原で処刑ということは確定だが。もう少し、ゲームでもご活躍していただきたかったですなあ。それにしても、いい乳だ。」


 吉川は写真の中でもっとも露出が高いバーニースタイルの恵を見て、今、昨日から来ているシワシワのスーツ姿の恵と見比べる。


ぷっ…と恵はその写真目がけて、つばを吐きかける。


「ゲスが!」


ハンカチを出して、それを拭うと吉川は丁寧にそれを拭う。


「まあ、安国寺先生。今時、キャバクラでもお目にかかれない姿で宴会芸を披露してくだされば、我が毛利屋の宴会部長、いや、宴会係長として置いてやってもいいですよ」

「バカにしないで!」


「安国寺先生、明日の臨時取締役会、ご出席していただけますでしょうか?出席していただけない場合、このうさぎの着ぐるみ姿を等身大に引き伸ばして代わりに出席してもらいましょうか。」

「そんなことしたら、名誉毀損で訴えますから」


「冗談ですよ。ゲーム上で名誉毀損なんて訴えてみてください。有名になるのはあなた自身だ。まあ、その方がこういう写真の価値が上がって、東軍のオタクどもが嬉しがるだけですよ。はっははは…」


「もういいわ。たかがゲームのことだし。それで石田さんはどうなったの?」

「おや、ご自分のことより、他人の心配ですか?」

「まだ、負けと決まったわけじゃないわ!逆転もある」

「これだから素人は困る。ゲーム上じゃあ、今日にでも石田の娘の本拠地、佐和山城は陥落。大阪城も東宮院の手に落ちる。石田の娘はゲームでもリアルでも逃亡中だか、まあ、今日、明日の運命だろう」

「逃げてるって、あの島左近と一緒に?」

「ああ、そうだが」


「ふふふふふ…」


 安国寺恵は笑った。何だか希望が湧いてきたのだ。あの島左近を名乗る男の子なら、何かやってくれそうな感じがしたのだ。いつも冷静で根拠のない推測はしない恵であったが、この時ははっきりと希望みたいなものが心を支配したのだ。


(なんでしょう?女の第六感てヤツ?)


その女の感で、明日の臨時取締役会の結末も何だか分かってきた。


「吉川専務。いいでしょう。明日の臨時取締役会、出席しますわ」

「?ほう、自ら恥をかきにですか?」

「いえ、喜劇を鑑賞するためです。元々、取締役でない私は発言権も出席権もないのですから、特別に呼んでいただけるのでしたら光栄ですわ」


「ふん。気でも触れたか?まあ、いい。明日の10時。本社ビルの大会議室だ」


そう言って、吉川専務は安国寺恵の事務所を後にした。



 小太郎に手配してもらった軽自動車で高速道路をひた走り、着いた所は隣の県のシティホテル。太平洋銀行の参加のホテルグループが所有するホテルの一つだ。こういう街の中のホテルにカップルを装って隠れるのが見つかりにくいとメモにあったが、いくらカップルを装っているといっても、ダブルベッドが置かれた部屋とは思わなかった。


(おいおい、せめてツインにしてくれないと…俺はまた床に寝ないといけないじゃないか!)


 俺の動揺を他所に、美鳴はベッドにポンと体を投げ出した。そして疲れたのかスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまった。

(おいおい、いくらなんでも無防備じゃないか?)

だが、無理もない。マンションを脱出したのが11時過ぎ。このホテルに着いたのが夜中の2時過ぎだ。リアルゲーム時間は、5時間少々に過ぎないが、ゲーム中では1日以上経過しており、精神面での疲れは相当なものだ。俺もさすがに疲れた。もう体が鉛のように重く、意識も途切れそうである。

(少し、眠ろう。しばらくは状況に変化はないだろうし…)

舞さんや浮竹さん、瑠璃千代たちのことも心配だったが、とりあえず、岐阜城に逃れたようだし、今はリアルでも体調を整えねばと考え、俺もベッドに倒れ込んだ。


安国寺先生のウサギの着ぐるみ姿が見たい~。で、女の第六感って気になりますね。

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