表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/160

さらば!友情、さらば!わたしの恋(五)

絶望的な敗軍の中、なんとか逃れようと必死な浮竹さんや舞さん。そこへ救世主が現れます。あと一歩早ければ、美鳴ちゃんも助けられたのに!

「聡くん、美鳴は逃げたかな?」


 狩野舞は、大軍に取り囲まれて逃げることのできない状況を確認してから、同僚の蒲生聡にそうつぶやいた。


「お姉ちゃん、多分、脱出できたと思うよ。それより、舞さんはどうするの?」

「ここで終わろうかな?」


 自分の軍は100人程度だし、聡の軍も300ってところ。島津維新入道も800まで減らされている。三隊とも完全に包囲されている。


(敵に捕まりたくない。捕まったら…ええい!小学生の前では公開禁止だろうが!)


 狩野舞自身が見た状況でも逆転の目はゼロであった。もはや、これまでである。馬から降りて自刃し、自らキャラロストすればゲームは終わりである。ただ単にログアウトすれば、正気に戻って美鳴の部屋で彼女と島大介にリアルで会えるはずであるが、その間、ゲームのバーチャ空間で自分の分身であるアバターがひどい目に会うのは寝覚めが悪い。ログアウト前に自刃、キャラロストを行うだけだ。別にこのゲームが好きなわけでないので、ここまで育ててきたキャラに愛着はないはずであったが、これまでに経験してきた様々な出来事が思い出されて涙が出てくる。蒲生聡の方は、これまで地道に育ててきたキャラに思い入れがあるようで、なんとか脱出しようと模索していた。敵の分厚い包囲網を打ち破り、岐阜城までたどり着けば、生き残れる可能性があった。


 狩野舞は、覚悟を決めて馬を降りようとしたとき、出陣のほら貝の音と兵士の鬨の声が響くのを聞いた。北東方面に新たな軍が現れたようだ。東軍の新戦力か?と思った時、狩野舞の目に映った旗印は・・・。



 宇喜多秀家として、1万8千もの大軍を指揮し、朝から勝利を重ねてきた浮竹栄子は、突如裏切った小早川秀秋こと、早川秋帆に激怒し、半狂乱状態のまま、単騎で小早川勢に挑もうとして護衛の兵に止められていた。


「離せ!もはや、これまで。東宮院の奴にまた負けた。でも、味方を裏切ったあの娘だけは許せない!離せ!離せ!」


「栄子さん!御大将が自ら切り込むなど、浮竹さんらしくないでしょう。まだ諦めるのは早いです」


 そう家来の明石全登あかしたけのりが馬を抑えた。この男、浮竹栄子さんに金で雇われた人物の一人であったが、一緒に戦ううちに栄子さんに情が移ってしまった。東宮院への激しい復讐心を心の底から応援してあげたいと思っていたのだ。現在、四方八方から攻撃され、ているが、なんとか中核部隊の5千人ほどを温存させ、一気に脱出する機会を伺っていたのだ。その明石全登は北東で狩野舞と同じく法螺貝の音を聞く。


「あれは!まさか、味方か!助かった!」



 関ヶ原の北東に現れた軍勢は1万5千。祇園守紋の旗印。西軍の立花瑠璃千代率いる大津攻略軍であった。


「間に合わなかった…旦那様、生きていますか!?」


 瑠璃千代は西軍が敗れ去った状況を知り、落胆したものの、すぐさま、行動を開始した。彼女は島大介以上の軍師であり、勇猛な武将でもあった。通常、この状況で現れれば各個撃破の対象となるのであるが、彼女は巧みな戦略で東軍を混乱させる手に出た。


 後方の部隊に毛利の旗印である一文字三菱をかかげたのである。これには、東軍諸将が驚き、混乱する。毛利の本軍が到着したと誤認したのだ。


「立花と毛利の援軍だ!」

「馬鹿な、あいつらがここへ来れるものか!」

「実際に現れているじゃないか!」

「毛利の本軍が一緒なら、4万は下らない!勝てっこねえよ!」


 勝ち戦なのに、混乱して逃げ出すものもいる。その混乱を瑠璃千代は巧みに利用する。狙いは、西軍残存兵力の撤収である。状況から、自分が戦いに参加しても再び、負け戦をひっくり返すことはできないと冷静に判断した。ならば、次の戦いに備えて、少しでも西軍の残存兵力を救出するのが良作と判断したのだ。


「東軍の包囲を崩し、味方を救出します!鉄砲隊、一斉射撃の後、槍隊、騎馬隊を前進させなさい!」


浮き足立つ東軍諸隊に果敢に攻撃をかける。東軍は朝から長時間戦っており、疲労の度合いが濃かった。しかも西軍に勝ったと思い、精神力が緩んでいたので、この新たな援軍にすぐには対処ができない。

 この状況をうまく利用して、狩野舞と蒲生聡、島津維新の三隊と、脱出の機会を伺って耐えていた宇喜多勢が呼応する。死に物狂いで包囲を突破し、立花勢がこじ開けてくれた岐阜方面の血路を開き、そこを通ってついには脱出に成功したのだった。


「あの女め!憎たらしい細工をしやがって!」 


 東宮院は悔しがったものの、それを見逃すしかなかった。追撃しようにも予備兵力はすべて投入していたし、勝利したとはいえ、東軍のダメージはかなりのものであった。現在では、追撃して精鋭の立花勢と戦う余力はなかった。それに脱出した西軍も石田勢と一部と3分の1以下に減った浮竹栄子の宇喜多勢である。大局には影響がないと判断した。


 それよりも今晩の勝利の方が重要であった。西軍の生き残りが岐阜城に集結したところで、逃亡した石田美鳴を捕らえれば勝ちなのである。現在、99%勝利確定状況であることを考えれば、どうってことない出来事であった。


「まあいい。美鳴を捕まえれば、このゲームは終わりだ。岐阜城に西軍の残党が残ったぐらい問題ない」


 まずは美鳴の居城、佐和山城を攻め落とし、大阪へ向かう。大阪城の毛利を追い出して大阪城を把握すれば、勝利はより確かなものになる。そうするうちに、逃げた美鳴も捕らえることができるだろう。



立花瑠璃千代が戦場に到着!ここから史実とはかけ離れ、オリジナル展開になります。でも、それを知らない主人公たちは、追っ手から逃れて逃亡中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ