さらば!友情、さらば!わたしの恋(参)
早川秋帆ちゃん(小早川秀秋)の裏切りに立ち向かい、親友の美鳴ちゃんのために奇跡を起こそうとする小谷吉乃ちゃん(大谷吉継)。しかし、東宮院是清(徳川家康)はそうはさせません。
「馬鹿な!ありえない!あの病弱娘がここまでやるとは!」
松尾山を駆け下り、ついに西軍に襲いかかった早川秋帆の行動に歓喜し、柄にもなくガッツポーズまでした東宮院是清は、想定外な展開に驚愕する。
(いくら親友でもここまでやれるものなのか!本当に死ぬぞ!)
是清は情報で吉乃の容態のことは知っている。無理すれば、ゲーム上だけでなく、彼女自身も危ないことも。冷徹な是清でも、心が熱くなる感覚を覚えた。この感覚は不快ではないとも思った。だが、この状況を放置しておけば、100%勝利確定が覆りかねないのも事実だ。このままでは、せっかく裏切った小早川が危ない。
さらに是清が気に食わないことは、大谷隊前面の東軍諸隊がまったく傍観していることだ。今がチャンスなのになぜか動かない。是清はすぐさま、伝令を送って大谷隊を攻撃し、小谷吉乃を捕らえるよう命ずる。そう命じながらも、彼らが動かないこともよく分かった。いくら史実通りとは言っても、やはり卑怯な行いに加担できないのが普通だ。しかも健気に戦う吉乃の姿を見たらなおさらだ。
(如何に金目当てのクズどもでも、人間らしい心はあるというもの。だが…)
東宮院是清は、感情に流されない男だ。どんな非常な手も平然と行い、これまで人生を勝利で飾ってきた。親友のために命を削ってまでも戦う薄幸の美少女の姿を見ても、判断は鈍らない。そんな冷酷無比な男は、さらに決定的なもう一手を打つべきだと決断した。
「藤堂魅斗蘭に連絡せよ。旗を振れとな!」
レディースアンダーツリーの象徴である、桜吹雪の大木の刺繍が入った大旗が振られる。これは西軍に組みした魅斗蘭の部下である、脇坂安治、朽木元綱、赤座直保、小川祐忠役の四人である、総勢5千。吉乃ちゃんは、彼女らを信用せず、ことさら自軍よりも離れた位置に配置していたが、旗の合図でこの5千が裏切った。奮戦する大谷隊の後方をつく。
「吉乃様、脇坂が…」
戸田重政が馬を駆って吉乃の元へ来る。その声は悔しさと悲しみで打ちひしがれていた。平塚為広も吉乃のところへ来る。小谷吉乃は、ゲーム上でも騎乗すると体に負担をかけるので、ベッド状の輿を屈強な兵士に担がせ、半身を起こして指揮していた。その報告を聞いて、小谷吉乃は、自分はここで終わるのだと決めたのだった。
「あの4人。裏切りましたか…」
「ごめんなさい。わたしたちの仲間が…こんな恥ずかしいことを」
「いいえ。あの方たちを恨まないで。わたしはあなた方2人だけでも、美鳴のために戦ってくださって感謝しています。ゲームではお別れですが、あなたたちのことは忘れません」
「吉乃様」「吉乃様」
小早川勢も立ち直り、圧倒的な兵力で大谷隊は周りを囲まれ、殲滅させられていた。残った兵士を励まし、小谷吉乃は持てるすべての能力を使い果たした。周りの兵も名のあるものはすべて討ち死にした。最後まで吉乃のために獅子奮迅の戦いをした戸田も平塚も最後は小早川の手の者にかかって戦死している。
味方が次々に倒れていくの見ながら、小谷吉乃は静かにベッドを下ろすように命じた。
「もはや、これまでのようですね。うっ…」
吉乃は思わず、胸を抑えた。これまで抑えられていた発作が起きたのだ。ここ最近の疲労したことが影響したのであろう。だが、ゲームを放置して終えるわけにはいかなかった。
「敵に捕まって辱めは受けたくありません。わたしはここでキャラロストします」
女の子キャラは敵に捕まると服を引っ剥がされたり、××されたりとひどい目に合うことがある。西軍キャラの中で石田美鳴に次いで、服を引っ剥がして鑑賞してみたい人にランキングされる小谷吉乃ちゃんを東軍の狼どもが見逃すはずはないであろう。
吉乃ちゃんは、苦しくなる呼吸と痛む胸を抑えつつ、刀を抜いて胸にあてがった。
自刃しますか? YES NO
と表示される。少し、ためらったのち、YESを選択する。
「さらば…美鳴。わたしはここでお終いですが、あなたは最後まで諦めないで。大介さん、美鳴を最後まで守ってあげてね」
吉乃ちゃんは、親友が戦っている北の空を見つめた。青い青い空に一羽の鳶が舞っているのが見えた。
小谷吉乃ちゃんが散った。
吉乃ちゃんを殺すな~と非難轟々・・・。ゲーム上はそうですが、本人は生きてます。まだ、物語で活躍?します。この娘も幸せになってもらいたいですから。