さらば!友情、さらば!わたしの恋(弐)
ついに勝敗を決める小早川勢が参戦します。逆転につぐ逆転。ハラハラドキドキする展開は続きます。
(えげつない動画を送りつけてきたもんだ)
さすがに平岡石見も東宮院のやり方に不快感を覚えた。自分が仕える早川秋帆はまだ高校1年生の女の子だ。こんなでたらめなやりとりで自分の家がめちゃめちゃにされたことを目の当たりにして心が傷つかない訳が無い。
顔から血の気が失せ、青白い顔で目の焦点が定まらない秋帆ちゃん。ブルブルと震える右手人差し指で眼下で戦う軍勢を指差した。
「小早川勢、全軍に命令します!」
「はっ!」
「敵は西軍、大谷刑部の軍」
「????」
一瞬、秋帆ちゃんの部下たちは、命令に戸惑った。一部の武将は東宮院に金で抱き込まれていたとはいえ、あまりに露骨なやり方に反感を覚えていたからだ。東宮院に抱き込まれていない武将は反対する。
「姫、それはなりませぬ。我々は太閤殿下から命ぜられて、あなたの補佐をしてきました。小早川勢を西軍として戦わせるというのが太閤殿下のご意志」
「許せない…許せない…あんな軽い感じで…私の家はめちゃめちゃに…」
「???」
小さな声でブツブツつぶやく早川秋帆の精神がおかしくなってしまったのではないかと一同が思った。
「まあまあ、ご一同。御大将の判断だ。命令通り、軍を動かす準備をしろ!これは絶対命令だ。敵は西軍。大谷隊を動かす小谷吉乃は病弱だが、用兵は一流だ。油断をするな」
平岡石見は、そう再伝達する。彼からしてみれば、多少のわだかまりはあったが、秋帆が裏切り、西軍が壊滅すれば現金で5百万円が転がり込むのだ。
狼煙を上げて、松尾山の方角を祈るようにして見ていた石田美鳴は、その山頂の旗がゆっくり動いていくのを見て歓喜した。
「大介!いや、左近。秋帆ちゃんが、秋帆ちゃんが動くわ!勝ったわ!わたしたちは勝利したわ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる美鳴。だが、俺は兵士に支えられて立ち上がり、松尾山の方を見て驚愕した。旗の向きが違う。進行方向は東軍ではなく、眼下の西軍。吉乃ちゃんの部隊の方を向いていた。
「美鳴!」
「いいわよ!秋帆ちゃん、そう、そのまま…。え?ち、違うよ。そっちじゃない!秋帆ちゃん、どこへ行くの?そっちは、味方よ!吉乃の陣よ!」
戦闘が始まり2時間以上が経過していた。小谷吉乃ちゃんは現在、病院に戻って療養中であったが、こっそり病室でこの「戦国ばとる2」を行っていた。神経を使うゲームであるので、自分の体の負担を考えると、2時間が限界であると思っていたが、今晩の戦いは決戦であるのでその限界を超えて参加していた。戦闘開始してから、吉乃ちゃんは、東軍を押しまくり、この方面での勝利を確実にしていた。また、吉乃ちゃんの与力大名のうち、平塚為広、戸田重政役のプレーヤーは、吉乃ちゃんに心酔しており、スタートから指示に従ってよく戦ってくれていた。だが、不幸にも敵を撃破して追撃している途中に横からどっと1万5千もの大軍が襲いかかってきたのである。
「吉乃様、小早川が!」
平塚為広が血みどろの槍を引っさげて報告に来る。レディースアンダーツリーのメンバーだから、ギャルである。
「やはり、裏切りましたか…」
吉乃ちゃんは悲しそうにそうつぶやいた。秋帆ちゃんは秋帆ちゃんなりの理由があるのであろう。だが、その判断で自分の大好きな美鳴は失われるのだ。
(でも、簡単にはやらせませんわ!わたしの命がある限り!)
「すぐさま、全軍を退却させなさい。前面の東軍は放置しなさい。敵は小早川です。平塚さん、戸田さん、手立てしたとおり、小早川勢を防いでください」
「吉乃様、任せてください。我ら両名、吉乃様のため、ここで散る覚悟」
「ごめんなさい。本当はあなたたちは違う目的で参加していたことは知っていました。でも、今、わたしのために戦ってくれることを嬉しく思います」
平塚も戸田も藤堂魅斗蘭に送り込まれたレディースのメンバーだ。他のメンバーは、やる気がなく、吉乃ちゃんも使えないと判断して小早川の裏切りに備えて4隊一括して布陣させていたが、両名はこれまで一緒に戦ってくれた戦友であった。
歴史には名将という人間が存在する。この関ヶ原の戦いでも名将を挙げよと言ったら、おそらく、十人中十人が大谷形部少輔吉継を上げるであろう。彼は僅かな兵にも関わらず、朝から倍の東軍を打ち破り、裏切った小早川勢も一時敗走させるという奇跡を起こした。彼がわずか5万石でこの関ヶ原の戦場に僅か二千足らずの軍勢しか動員できなかったことが悔やまれる。豊臣秀吉が見る目がなかったことが敗因ということだ。真の忠義のある人間を大身にしなかったことが豊臣家滅亡の原因だろう。
このゲーム上の大谷吉継こと、美鳴の親友、小谷吉乃も後にネットで賞賛され、伝説となる戦いをする。まずは、あらかじめ裏切りを予想して配置していた鉄砲隊400による一斉射撃のあと、平塚、戸田の両名が突撃し、吉乃も後に続いた。全軍、防御無視の超攻撃スタイルだ。みんな口々に、
「裏切り者め!」
「地獄に落ちろ!」
「卑怯者!」
と叫び、がむしゃらに戦うので、さすがの大軍の小早川勢も第1陣が崩れ、第2陣も敗走し、あの家老の平岡石見までもが、乱戦の中、討ち死にしてキャラロストする始末。死に物狂いの大谷勢の前に奇跡が起ころうとしていた。
ああ・・・愛しの吉乃ちゃんが、このままでは!
しかし、平岡石見プレーヤー、死んでも死にきれないでしょうね。悪は必ず滅びるのだ。ラノベでは・・・。