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全力で戦う!それがわたしにできること(六)

 不甲斐ない東軍諸将の働きに、ついに業を煮やした東宮院は自身の切り札、本多忠勝の部隊を投入します。あの金帯だ!だが、美鳴ちゃんへの愛?で苦手意識を克服した主人公は、積極的に罠にかけます。

 東宮院が操る本多忠勝の部隊は1万。開戦が始まって2時間が経過し、これまで倍もの敵を追い散らした石田隊には正直、厳しい状況である。俺は舞さんの2番隊を交代させ、後方に鉄砲と弓隊の分厚い布陣を完成させるように指示をすると、蒲生聡のガキンチョと連携して、部隊を12段の薄い横隊に再編した。


さとし!作戦は分かっているな?」

「左近兄ちゃん、分かってるって!」


 蒲生聡は、小学2年生のガキだが、こういう局地戦の戦術は神業レベルである。戦国ばとる2の小学生部門に出れば、間違いなく決勝に残れる実力である。そして小学生チャンピオンは、大人の上級者を軽く上回るのだ。

 

 今回の作戦は、12段に布陣した薄い陣を本多隊が次々に撃破していくと、撃破された部隊はあらかじめ決めていた退却ポイントで陣を再編し、前進する本田隊を順次包囲していくのだ。本多隊が二番隊である舞兵庫の隊に接触する時には、巧みな縦深陣の中で包囲殲滅することが可能になるのだ。

本多忠勝の部隊は、右回りに移動しながら次々と全面の敵に新手をぶつけ、破壊していく車懸りの陣形をとっていた。圧倒的な兵力と攻撃力で蹂躙し、本陣にいる石田美鳴を討ち取ってしまおうという魂胆である。


「それ蒲生隊も島隊も打ち破り、美鳴を捕らえてやる!」


 東宮院は精鋭部隊を次から次へと繰り出し、陣を次々と突破していく。蒲生隊も島隊も接触しただけで、たちまち兵は逃げ惑い、散り散りになっていく。


 12段の陣形のうち、10段まで撃破した東宮院であったが、さすがにこれは変だと感じた。彼は南部戦線の井伊直政も同時に動かさねばならず、いつもより注意が散漫であったことも幸いした。


(ちょっと待て!こんなにもろいはずがあろうか?まさか…)


「へへん!今更気付いても遅いわ!聡、準備はいいか!」

「OK!軍の再編完了。敵の側背を突くよ!」


 敗れたはずの蒲生、島の両隊が左右、後背から襲いかかる。前面は舞さんの2番隊から銃撃、弓隊からの矢が雨のように本田隊に降り注ぐ。


「畜生め!小細工しやがって」


 東宮院はしてやられたと感じたが、すぐさま、対応策を考える。通常、この状況だとどんなに勇猛な部隊でも士気喪失し、全滅させられてしまうのだが、この場合は包囲された方と包囲する方の戦力差が違いすぎた。2番隊の狩野舞と蒲生・島隊合わせても4千にも満たない兵力で1万の本田隊を包囲しているのだ。


(最初の混乱だけ収拾すれば、この包囲は突破できる)


「全軍、方陣の陣形を取れ!」


 是清は素早く、自軍をまとめて方陣を組む。これは4方向に鉄砲隊や弓隊を配し、全方向に射撃可能とした陣形で、主に騎馬隊の突撃に対しての防御の際に使うことがあるが、この危機的状況で是清は見事な方陣を組み立てた。


「畜生、最初の一撃で崩れると思ったが、東宮院はさすがに名プレーヤー。この状況でもビビらない。聡、舞さん、攻撃の手を緩めるな!」


 俺は方陣に対して一斉射撃を命ずる。舞さんの陣から、聡の陣から凄まじい発砲音がして、本多隊を削りとっていくが、その倍近い射撃音が方陣から放たれ、こちらの兵もバタバタ倒れていく。完全な消耗戦の様相である。


「左近兄ちゃん!これじゃあ、こちらの人数がもたないよ!」


 撃たれるたびに数十人単位で人数が減っていく。このままでは、包囲しているこちらの方が全滅する。さらにまずいことに、一旦、兵を引いて体制を立て直していた黒田メイサと細川ルシアがもう一度、兵を進め始めたのだ。このままでは、本多勢を方位殲滅するどころか、こちらが逆方位されかねない。


(くそ!どうする?島大介?ここで、敗退したら美鳴は守れないぞ!)


 俺は焦った。だが、よい考えは浮かばない。このままでは、圧倒的に不利だ。




「左近!さとくん、離れなさい!」


美鳴の声が響いた。


「目標、本多忠勝の部隊。あの金帯の旗印を目標にしなさい!敵は固まっているから、すべて同じ地点に着弾させなさい」

「美鳴様、準備OKです!」

「よし!てーっつ!」


 美鳴の本陣からものすごい爆音が次々と鳴り響く。


シュルルルルル・・・という音がすると、本多隊の方陣に着弾し、数十人の兵が吹き飛ぶ。それが五発続いた。


「大筒か!」


 そう石田美鳴は、この時のために鉄砲鍛冶で有名な国友村に大筒おおづつを作らせていたのだ。大筒は、このような野戦では用いられず、主に海戦や城攻めで使われる程度のものであったが、美鳴はレベルを上げていく途中にこの大筒の開発と自身のスキルを上がることで仕様を可能にしたのであった。


 史実でも石田三成は関ヶ原の戦場に大筒を持ち込んでいる。彼は朝鮮の役で明軍が使っているのを知り、それによって日本軍が苦戦している様子も見聞していた。捕獲した大筒を持ち帰り、国友村で研究させ、関ヶ原の戦場で使用し、家康の本陣まであと一歩に迫るところまでいったのだった。


 美鳴の思い切った大筒の使用は、本多隊に大打撃を与える。方陣は崩れ去り、組織的な反撃ができなくなった。俺はここぞとばかりに槍隊300を投入し、本田隊に肉弾戦を仕掛ける。聡も同じように兵を繰り出したので、ついに鬼のように強かった本田隊も総崩れとなる。それでも、崩れた兵をなんとかまとめ、包囲網の一つを突き崩して全滅することだけは免れた。


「美鳴め、やるな」


 東宮院は思わず唇をかんだ。石田隊を壊滅させるチャンスが、小娘の機転のより、大事な予備兵力である本田忠勝隊に大ダメージを食らったのだ。この敗走で反撃の準備が整った黒田メイサと細川ルシアの部隊も巻き込まれてしまう。


「やむを得ない。徳川本体をさらに前進させ、石田隊の逆襲に備えよ!」


 東宮院は戦線を支えるために、最大の予備軍である徳川本隊を繰り出すハメとなる。この状況で惜しまれるのは中山道を進んだ徳川の別働隊。こちらが実質の本軍であったが、何がなんでもこの戦場に来るよう命令しておけば、このような苦戦はなかったであろう。副社長は間抜けな奴だが、上田城を包囲しただけでこの関ヶ原の戦場に来いといえば、少なくとも1万の軍は到着したはずだ。


「くそ!圧倒的な兵力差があるのに、このザマはなんだ!あと1万、あと1万あれば、形勢は逆転できるのに…」


 東宮院は未だにどちらにつくか決めていない松尾山の早川秋帆の陣を見る。


(アイツだ!アイツの裏切り…それしか、この状況を打開する手立てはない!)


大筒を持ち出して、敵の切り札を撃破!やったぜ、美鳴ちゃん。ますます、西軍有利な状況に、東宮院はどんな手を使うのか?

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