怖気づいて逃げたら許さないんだからね!(壱)
主人公と共に着々とレベルを上げる美鳴たち、歴研メンバーですが、バーチャルリアリティ最高のネットゲーム「戦国ばとる2」では、一緒にゲームする仲間とリアルで話せ、しかも触覚まで再現。つまり、女の子とゲームすればラッキースケベに事欠かない。ラッキー!?
さて、問題は今回の事実上の旗頭である石田美鳴。レベルは上がっているが、相変わらず、石高は4万石で地位も上がっていない。美鳴の所属する豊臣秀吉プレーヤーが、なかなか認めてくれないのだ。美鳴も直江愛ちゃんのように、男を手玉に取る言動ができればよいが、事務的な会話だけでどうも愛想がよくない。
秀吉プレーヤーからすれば、貴重な女子プレーヤーだから、何らかのコンタクトをとってもよいのに、こちらも愛想がない。
どうも秀吉プレーヤーは、かなり年配の方らしい。チャットの言動からして同年代はなさそうだ。
「なあ、美鳴、そろそろ、秀吉プレーヤーから、石高の増額はあったのか?」
「全然、ないわ…」
「だからといって、プレーでは一緒に戦ってくれるし、美鳴のことを嫌っているわけでもなさそうだし…おまえ、お願いしてみたのか?」
「お前って!姫でしょ、姫」
「いや、今はリアルで話しているし…」
ゲームの中では「姫」と呼び、リアルでは美鳴と俺は呼んでいる。美鳴はゲームでは「左近」リアルでは大介(校内では左近ちゃんであるが)だ。
「私は媚びるのは嫌いだわ。あくまでも実力で勝ち取るの!」
「だけど、あと2ヶ月切ってるし、おまえ、4万石じゃ、勝てるもんも勝てないぜ」
確かに、この時点で多少は西軍に立って戦ってくれる参加者がいても良い頃だが、やはり、どう見ても勝てないと思われているに違いない。
「とにかく、お前もだいぶレベルも上がったし、豊臣陣営で戦って貢献もしているのだから、おねだりしてもいんじゃないか?」
「私は私の実力で勝ち取るのだから、大介は私のサポートをすればいいの!さあ、秀吉様から、シナリオの要請よ!北条征伐だわ…」
確かに北条征伐シナリオの参加を促す画面が現れた。これは雪之ちゃんも、舞さんも、愛ちゃんも参加できるから、願ってもないシナリオだ。すぐ、参加申請して全員、ゲームに没頭する。俺は石田隊を指揮する。総大将は美鳴だが、いかんせん、兵力が1500程度だから、俺が指揮する部隊は500、舞さんが300で、美鳴が700ってところだ。
一応、雪之ちゃんと吉乃ちゃんが1000の兵で援護してくれたので、北条軍の小部隊を見つけては叩くというポイント稼ぎに徹する。
バーチャルモードなので、俺の眼前にはあでやかな鎧姿の美少女が4人並んでいる。戦国ばとる2の機能で、自分の格好を自由にカスタマズできることは知っていたが、正直、彼女らの格好を見ると思わず、
(この機能最高!)と思った。女性ユーザーが増える機能ではある。
そんなことを思いつつ、軍議の場は美鳴が中心で、「大一大万大吉」の文字で有名な石田三成の旗指物が見える背景上で行われる。3Dだから、旗が微妙に揺れている。
「敵の5千ほどの集団が我が軍の前に展開しています」
俺は斥候活動から得た情報を画面で確認してみんなに伝える。今はゴーグルを装着したコミュニケーションモードだから、俺の声がダイレクトに伝わる。状況としては、敵はこちらよりも兵が多いが、これを破ればかなりのアピールにはなるだろう。ただ、まともに戦っては勝ち目がないのは事実だ。
「左近、どうしたらいいの?」
美鳴が敵の仮想位置を画面で確認している。
「敵は我が軍よりも多いので、有利な地形に誘い込んで、包囲することが必要だ。まず、この地点に美鳴と俺が布陣する。その前方に舞さんが囮になって、敵を誘い込む」
俺は戦いのプランを作成する。森の狭い道を通った山のくぼんだ所に布陣することで、数の多い敵に包囲されることを防ぎ、さらに狭いエリアで敵の戦闘力を限定する。そして頃合を見て、吉乃ちゃんの大谷隊と雪之ちゃんの真田隊が背後から襲いかかれば、敵は袋の鼠になる。
「その案でいくわよ!左近、舞さん、出陣!」
美鳴が号令をかけるとゲーム画面で兵が動き始める。戦いはこちらの思惑通りに動き始めた。敵は北条方であったが、こちらの大将が女の子武将だと知って、ロクな索敵もせずにがむしゃらに攻め込んできた。撃破して捕まえてお友達になろうなんて下心があったかもしれない。
(ゲーム上で捕虜にすると、チャットで釈放について交渉できるから…)
おかげで、こちらの作戦通りの展開になった。敵の前衛を俺の500の足軽隊で防ぐ。舞さんは、槍隊で槍衾を作っている。
「私の名は舞兵庫なり!我と思わんものはかかってこい!」
赤い眼鏡をかけた狩野舞さん(1年下の後輩なのにさん付する俺…呼び捨てにできないのだ。美鳴の奴、1個上の先輩をよく呼び捨てにできる)が、刀を振りかざして叫ぶ。襲いかかってくる敵兵をばっさばさと斬りまくる。
(この人、シュミレーションより格闘ゲーム向きだ)
「撃て~!」
美鳴の命令と共に鉄砲隊も効果的に射撃して、敵を撃退している。手はずどおり、雪之ちゃんの真田隊と吉乃さんの大谷隊が背後から現れて、敵を包囲した。
(よし、作戦通り、敵は袋の鼠に…)
そう思った時、何だか嫌な予感がした。敵の攻撃が心なしか弱いのだ。こうなってしまった以上、まともなプレーヤーなら後背の敵を突破して逃げにかかるはずだ。追撃を受けて大打撃は受けるだろうが、全滅よりはましなはずである。
「お兄ちゃん、何だかヘンアル」
「左近様、後方で動いている部隊がありますわ」
雪之ちゃんと吉乃ちゃんが同時に俺に連絡をしてくる。
(まさか…)
順調にポイント稼ぎする美鳴たちですが、強敵が現る・・・。どうする?主人公