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全力で戦う!それがわたしのできること(四)

西軍、全線に渡って東軍を押しまくっています。ここで、戦っていない部隊の参戦があれば、美鳴ちゃんの勝利が確定するのに~・・・歯がゆい!

 笹尾山方面に陣を置いたのは、西軍の実質的大将である石田美鳴。この戦い、彼女か徳川家康を操る東宮院是清のどちらかが討ち取られれば、その場で討ち取った方の勝利になるとあって、東軍の武将は一番の手柄を立てようとこの方面に陣を構えていた。


 東軍主力は黒田メイサ率いる黒田勢5千。そして、細川ルシア珠希率いる5千が主力で、あとチマチマとした諸隊が合わせて1万2千もの軍が石田美鳴を討とうとしていた。


「敵は我が方の二倍。だが、こちらは上級ゲーマー、そう簡単には負けないぜ!」


 石田隊の第一陣は、俺こと島左近と小学2年生プレーヤーの蒲生聡がもうさとしの2千5百。殺到してくる東軍を柵ギリギリまで引きつけ、鉄砲隊による斉射でなぎ倒す。そこへすかさず、槍隊を突っ込ませる。蒲生聡のエロガキの奴、ガキンチョながらさすがにゲームになれているらしく、俺と寸分違わない指揮をしている。槍隊のあとの騎馬隊の300による突撃は、自らが戦闘に立って敵に切り込む奮闘ぶり。


(やるなあ…あのガキ。戦術レベルではいうことなしだ。ただのエロガキじゃないようだ)


 この前、美鳴のスカートをめくったことは許してやろうと俺は思った。黒田隊も細川隊も、この自軍の半分にも満たない島・蒲生隊に押しまくられ、退却を余儀なくされていた。


「さすがね。このゲームで名高い島さんと蒲生くんだけのことはあるわ」


 黒田メイサは、冷静に戦況を見ていた。緻密な兵への命令や適材適所に配置する兵種の選択など、自分ではまだまだ及ばないと感じていた。押されながらも兵の損傷をできるだけ少なくなるよう、流れに任せて退いていく。

 彼女と違って、細川ルシアの方は過激な性格が災いして、引くべきところを踏みとどまって戦ったので、一時、孤立して危うく討ち死にしてしまいそうなくらい、敵兵に肉薄されてしまうことさえあった。

 東軍を一時撃破したので、前線を聡に任せて、俺は美鳴の本陣に向かう。西軍全体の状況を確認しようと思ったのだ。


「美鳴!全体の戦況はどうだ?」


俺は先ほどの激戦の後を示す返り血を浴びた鎧姿で美鳴の前に出る。


「だ、大介、いや、左近。先ほどの戦い、見事でした。舞の2番隊を向かわせるので、少し休んでください」

「そうさせてもらうが、他はどうだ!」

「南西方面は我が方が有利だわ。浮竹さんが、濁流のように福島勢を押しまくっている。吉乃も敵を敗走させて、追撃中だわ」


「南宮山の毛利は?」


美鳴は急に声を小さくする。


「狼煙を上げたのに、まだ動く気配がないわ」

「やはり、敵に寝返ったと見るべきだな」

「そ、そんなことないわ…。霧のせいで狼煙が見えないのよ」


 俺ははるか東を見る。霧も晴れて雲の間から青い空が見え始めている。この状態で美鳴の合図が見えないわけがない。


「何回、狼煙を上げたのだ?」

「さ、三回」


「美鳴、東宮院が桃配山に本陣を構えた理由を考えれば、毛利軍団が動かないと見るべきだ。あの軍を勝利の方程式に加えてはダメだ」

「でも、彼らのすぐ側に敵の総大将がいるのよ。毛利の軍が今、山を下って攻めかかれば、わたしたちの勝利は確定なの!」


 勝負事に「タラレバ」は禁物である。俺はこの「戦国ばとる2」で何度も経験してきた。こうすれば勝てた。ああならば勝てた…などと言うのは、所詮は負け犬の遠吠えだ。現実が見ていない証拠。あの東宮院が何も考えずにあんな場所に本陣を構えるはずがない。そこから導き出される答えは、ただ一つ。


(毛利は動かないということだ)


 そしてワザとあんな場所に本陣を構える理由も分かる。あそこに陣を敷くことで、南宮山は調略済みというメッセージを送っているのだ。西軍旗頭自身が裏切っているという事実を東軍に加わっている連中に分からせることにもつながるのだ。


「もう一度、南宮山に狼煙を上げなさい!」


 美鳴は兵士に命令する。4度目の狼煙だ。




「ふふん!小娘め、慌てているわ!」


 笹尾山の石田美鳴の本陣から上がる煙は、南宮山中腹に陣を構える吉川広志の目にも見えた。


「あの煙は出陣要請です!出陣しますか? YES NO」


という表示が出るが、ためらわず、NOを選択する。


(私は東宮院を信じる。この戦いで奴に恩を売れば、我が毛利屋は無事どころか、躍進もありうる。そのためには、ここを意地でも動かないことだ)


だが、


「毛利宰相元人様が、会いたいそうです。会いますか? YES NO」


という表示がされると、さすがに無視はできない。彼は毛利屋の3代目になる予定の御曹司であるからだ。


「吉川さん、どうして兵を動かさないのですか?」


 人がいいだけのお坊ちゃん然した元人だが、安国寺弁護士からの出陣要請に辟易していたことと、このまま戦わないことが石田美鳴を見殺しにすることにつながる罪悪感で、いつもらしからぬ語気を強めた言葉であった。


「元人君、これは高度な経営上の判断です。元輝社長にも許可を得ています」


 本当はそんな許可など取っていないし、この状況を見てその社長からも問い合わせのメールが届いている事実もある。だが、そんなことは一切秘密にしていた。


(それが毛利屋を守る唯一の方法だ)


そう吉川は考えていた。


「でも、吉川さん、安国寺先生や美鳴ちゃんの出陣要請が頻繁で…。断るのが悪くて」

「はははっ、元人君。将来、人を率いていく人間がそんな気が小さくてどうするのですか。あんな女共がいうことなど、(はいはい)と聞いて聞き流せばいいのです」

「でも、僕たちが戦わないと、美鳴ちゃんがひどい目に合うんだよ」

「元人君、毛利屋と女一人、どちらを君は選択するのですか?あんな小娘のために毛利屋の全従業員、3千人を路頭に迷わせる気ですか?」

「いや、そんな気はないけれど…」

「ならば、黙って見ていることです。あんな小娘よりも毛利家にふさわしい女性を紹介しますから、元人君はとにかく、ここはじっと待つ事です」

「・・・・・・・・・・・・」


 そう言われると、元人もそれ以上、吉川専務に何も言えなかった。亡くなった先代、元人の祖父が信頼していた人間で、現在は父を支える彼を信頼するしかなかったのだった。


動かない・・・南宮山。松尾山の小早川勢は?秋帆ちゃんは何をしてるのだ?

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