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左近!関ヶ原へ移動するわよ!(五)

美鳴の命令で夜中に関ヶ原へ移動する西軍。この間に美鳴ちゃんは、それぞれの陣地へお願いに向かいますが。

 夜中の10時が過ぎてゲームの戦闘時間は終了している。だが、軍勢の配置はできる。西軍は夜に関ヶ原に移動を開始している。史実と同じように雨が降る中、東軍に気づかれないように移動するのだ。


「左近、軍勢の移動はあなたと舞に任せるわ。さとくんはお眠の時間だから」

「お前はどうするんだ?」

「わたしは南宮山と松尾山へ行く。最後は吉乃の陣へ寄るわ」

「気をつけていけよ」


 美鳴は最後の打ち合わせに向かうのだった。南宮山は今晩、ゲームの中で。松尾山へは明日の午前中に調査結果を持ってから、リアルで早川秋帆ちゃんと直接会い、そして、夕方は小谷吉乃ちゃんの病院で会う予定だ。


 雨の中、南宮山へ向かう美鳴の後ろ姿を俺は見つめた。華奢な美鳴であったが、これまでは彼女の天真爛漫で傍若無人な態度のせいで大きく見えた。それだけ、エネルギーを発散して輝いていた。だが、今の後ろ姿は疲れ、自信をなくして小さく見える。自分に従わない連中に心を傷つけられて、本来の美鳴らしい輝きが感じられないのだ。


俺の心に冷たい風が吹く。


 それを振り払うように、俺は石田隊6千を指揮して、笹尾山の麓を目指した。この要害の地に陣を構え、東軍を撃滅する。俺が美鳴を勝たせればよいのだ。そうすれば、あの笑顔がまた見られる。


「美鳴の奴は、やっぱり強気で命令している姿が一番可愛いからな」


 


 東宮院は物見の報告から、西軍主力が大垣城を出て、関ヶ原に移動しているという報を知ったのが、ゲームが終了した11時過ぎ。信州と会津から挟撃され、緊張が高まる東部戦線に指示を与え、本日は終わりかとゲームをログアウトしようと思った矢先であった。


「動いたか!美鳴!死に急いだようだな」


 東宮院はこれで決戦が間違いなく明日に行われることを知った。すぐさま、配下の東軍参加プレーヤーに命令を下す。そして、自らも軍を移動させ、関ヶ原へ向かうこととする。


 福島帆稀や黒田メイサの部隊が出発したことを確認すると、東宮院は電話をかける。


「僕だ。いよいよ、明日だ。明日から監視にあたってくれ。特に石田美鳴からは目を離すな。ゲーム終了後、彼女は捕縛しろ。なにしろ、逃亡の恐れありだからな」


 このゲームはただのゲームではない。東宮院是清の率いる東軍が勝てば、石田美鳴の実家であるストンデングループの買収が成立する。そして、彼女は東宮院のモノとなる。政略結婚成立ということだ。


「ふふふ。結婚前に花嫁に逃げられでもしたら恥だからな…」


 東宮院是清は、明日の勝利を信じて疑わなかった。もはや、決戦前に勝負はついているとこの男は思っていた。


「南宮山は動かない。あの吉川専務は忠実だ。ああいう頭の固い愚か者はこういう時には役に立つ。そして、早川秋帆…。彼女も僕の手の内。明日は信じた後輩から裏切られて、美鳴は戦場で散る運命だ。可愛そうだが、それもあの娘の運命だ。せいぜい、ベッドで可愛がってやるさ。ふふふは…ははは…」


 これまでビジネスでも、このネットSLG戦国ばとる2でも、常勝の歴史を築いてきた東宮院是清には、石田美鳴が必死になって全力でぶつかってくるこの戦いも計算づくで勝利するたぐいのものであった。





「御前、いよいよ、明日決戦が行われるようですね」

「くくく。これまでも観戦して楽しませてもらったが、明日がクライマックスだな」


 五代帝治郎は、部屋の壁いっぱいの大画面のモニターで毎日、この関ヶ原キャンペーンを観戦している。伏見城の戦いや岐阜城攻防戦など、西軍の健闘に手を叩いて喜んだ。この日本経済を陰で動かす爺さんは、最終的には、東宮院の勝利を望んではいたが、簡単に勝利では満足がいかなかった。強大な東軍に必死に戦い、健闘し、仲間の犠牲を踏み越えて勝利をつかもうとする西軍が、あと一歩で負ける姿が見たいのだ。


「しかし、御前。全国的に見ると西軍はかなり押しているように見えます。史実とは違う展開ではありませんか?」


 お付きの黒服の男がそう言った。帝次郎は機嫌よく、手にした杖の先を男の肩にポンポンと軽く叩いた。機嫌が悪ければ、この杖で激しく叩かれる。


「確かに美濃表以外の戦場は東軍の敗色が濃いな。特に江戸は挟撃されるかもしれない。だが、このゲームは関ヶ原の決戦ですべて決まる。関ヶ原で石田美鳴が倒されれば、東部戦線など軽くひっくり返るだろう」


くくくく…。そう話しながら、帝次郎は笑いがこみ上げる。最近、こんな愉快な気持ちになったことはない。


「この世で一番の快楽は、人間が勝利を掴んだと思った刹那、すべてを失い絶望に打ちひしがれる姿を見ること。ウシシシ…それがあの美少女だとたまらなくうれしいわい」


 この爺さんの精神構造は、もはや壊れているとしかいいようがない。お付きの男たちも内心は、石田美鳴のことを気の毒だと思い、できれば西軍が勝利して、このイカレタ爺さんに正義の鉄槌を食らわして欲しいと思ったが、そんな例はこれまで一度もなかった。非力な挑戦者はみんな敗れ、そして散っていったのだった。


「あのお嬢さんの運命も明日1日か」


黒服の男は、石田美鳴の運命を哀れに思ったのだった。



西軍だって、このままの訳が無い・・・。巻き返しなるか!

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